27-7.樹海観光(5) 動物がどこにいるかわかる
「私、もう1本」
「飲み過ぎじゃないか?」
「私、運転しないからいいの」
既にアクージョ様モードだ。
運転しない……まあ、確かにそうなのだが、ちょっと酷くないか?
唯ちゃんは苦笑い。
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唯は、苦笑いしつつも、実は喜んでいた。
こんなに、素のままを見せらるほど、安心できる相手ができたのだ。
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小泉さんは、酒を飲むと、わがままになる。だから飲み友達が居ないのだ。
※栫井の勘違いです。
でっかい温泉……健康ランド?で、夜を明かして、明日の早朝から出発する予定だ。
それはそうと、”健康ランド”、風呂があるだけで、あんまり健康な気はしないのだが、”健康ランド”と聞いたときに、想像するようなやつだ。
食堂もあるが、自販機でもビールが買える。
寝る前に、自販機で1杯……のつもりが、まあ、いつも通り。
唯ちゃんが一言
「酒癖悪いね」
いやいや、いつもだったら、こんなんじゃ済まないけど。
「アクージョ様って感じだよね」
「なんですか? アクージョ様ですか?」
ぬぅ。タイムボカン的な意味で、アクージョ様なんだけど、唯ちゃんには伝わらなかった。
世代間ギャップの大きさを、実感した。
…………
「なんでタカアシガニが、ヤドカリなんですか?」
「ふつう、そう思うでしょ」
「貝殻に入っているのが、ヤドカリじゃ無いんですか?」
ぬう。二人で攻めてくるとは卑怯な。
「タカアシガニだと、カニみたいだから、やつを、これから大王ヤドカリって呼ぼう」
「ダメ、宿に入って無いから」
見た目的には、その通りだ。だが、その名の通りアレは借り物である。
「あの貝殻って、落ちてるやつを拾っただけで、ヤドカリ本体は貝を持ってないだろ。
タカアシ君、でかすぎなんだよ」
※タカアシ君と書くと、でかくて頼りになる、あのクモを想像してしまいますね!
「ヤドカリは、貝殻背負ったカニじゃないんですか?」
「ああ、実は種類が違ってて、ヤドカリは前に進む。
タカアシガニも、同じ仲間で、カニとは足の数も違うし、カニは横にしか進めないから」
※タカアシガニは本当はカニの仲間です。ただ、前進は可能かもしれません。
「前に進むとダメですか?」
「それは構わない」
「足の数?」
「それも構わないんだけど、タラバガニとか、身が少しエビっぽい感じがして」
「まだ言ってるの? タラバガニをヤドカリなんて言うの、ジン君くらいよ」
俺は、カニのコース料理に、ヤドカリ出てきたから不満を感じただけで、はじめからヤドカリコースだったら、やっぱヤドカリはイマイチだなって思うだけだ。
「俺は、ズワイガニとか毛ガニとか、ワタリガニは好きだけど、
タラバガニは、それより一段落ちると思うんだよ」
唯は、今度食べ比べてみようと思った(ズワイガニとタラバガニを)。
「次は、タカアシガニ行くから」
「嫌だよ、俺は、そんな大王ヤドカリみたいなやつ、金かけてまで食いたくないし。
海なら、三崎にマグロの兜焼き食べに行きたいな」
俺は、金かけて食うなら、マグロの兜焼きを食べてみたい。
でも、2人や3人じゃ(大きすぎて)食べられないと思うのだ。
「じゃあもういいわ。あんたはめんどくさいから、カニカマでも食べてなさい」
カニカマは、遠出して食べなくても、そこらで売ってる。
「ほんと、アクージョ様だよな」
「なによ、その”アクージョ”って、なんか、アレみたい。
あったじゃない、昔のアニメでそういうやつ。
悪の3人組みたいな」
おお!! さすが、俺の心の妻!!
それだよ!! 俺は、あの3人組の中で偉そうにしてる、のび太の声の、あの女に似てると思ったんだよ!!!!!と叫んだ。俺の心の中で。
俺の中で、アクージョ様の評価が微妙に上がった。
…………
…………
「樹海、面白かった?」
陽子が訊くと栫井は答える。
「思ってたのと、全然違ってた」
俺はもっと、死の危険を感じる場所だと思っていた。
「ジン君が行きたがってたんでしょ」
「わかんないけど、俺は樹海に行こうとしてたわけじゃないからな」
「見届けたら、富士の樹海に行くつもりだった?」
まあ、確かに、見届けたら、どこかに、行くつもりだった。
ただし、俺は、異世界に行くと思っていた。
「ただの失踪?」
「いや、それは説明が難しくて……神様がいる国……いや、なんでもない」
「神様? あの世?」
「あの世とは違うと思うけどな」
あの世とは違うと思うけど、よくわからない。異世界はどこにあるのだろう?
「ベスが言ったの?」
またベスの名が。俺はベスと会っているのだろうか?
「それが、ベスと話した記憶は無くてな」
その頃、オーテルは荒れていた。
『なんで神殿に来ぬのじゃ、このたわけが!』
『お父さん、お父さんの神殿を忘れたのですか?
酷いです。楽しみにしていたのに』
その気持ちは、若干、栫井達にも通じていた。
「なんか、俺、大事なイベント、スルーしてきた気がするな」
「でしょ? 私も、何か足りないと思うの」
どう言う訳か、小泉さん(洋子)に同意された。
本当は何かが起こるはずだったのだろうか?
仮眠をとる。
俺は、床に一緒に、ごろ寝したかったのだが、小泉さんと唯ちゃんは、リクライニングシートに行ってしまったので、一人寂しく床でごろ寝した。
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眠りが浅いのか、何度も目が覚める。
ここはどこだ?
何だろう。歩いても歩いても、森から出られない。
ずいぶん歩いてようやく、森が途切れる。
森から出ても人がいない。
森の外は風が強かった。
「森へお帰り……」
また森へ戻る。
ん? なんだ?
森へお帰り?
コレ知ってる。なんだっけ?
……あ、その者青き衣を纏いて金色の野が云々……
森へお帰りって、俺は大蟲かよ!! 人間じゃなくて、そういう役なのか?
俺は、ナウシカの世界にでも行っていたのだろうか?
しかも、人間ですらなく、大蟲だった?
いつもは腐海に住んでて、腐海から出てきたところを、俺は巨神兵に蹴散らされる役なのか?
”だめだ、腐ってやがる!”
※劇中のセリフです
「……ジン君」
ああ……夢か……
「そろそろ起きましょ」
「ああ、起きるの遅くなっちゃったか」
あれは腐海じゃない。もっと、まともで、大きな森だった。
トート森だ。俺が行っていた異世界にあった森。
俺はあそこに戻ることになるのか?
俺は、あの森に呼ばれているような気がする。
俺が、あそこに行っていたのは、相当昔のことに思える。
……なんか、凄く大事なことを思い出した気がする。
俺が樹海に行こうと思ったのは、そこがトート森と繋がっているからじゃなかったか?
まだ、来ちゃいけないところなんじゃ無いだろうか?
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早朝。凄く空いてる道をガンガン走る。
ここから高速乗れば早い(早く帰れる)のに、また来た道を戻る。
そして、今度は山中湖。
結局、富士五湖全部回った。早朝なので、湖畔をちょっと眺めただけだが。
「凄い景色ね」
まだちょっと暗いのが残念だが、富士山バックに写真を撮る。
久しぶりに来た。ここから、山道を延々走る。
ここが不思議なところで、山梨の山中湖から神奈川に向かうと山なのだ。
俺の脳内地図だと、富士山に近付くほど山なのに、山梨から道志みちで帰ると、山梨の町から山を通って神奈川に帰る。そして、俺が山梨だと思っていたところが相模原市。
色々おかしい。
それはそうと、ここは生き物が多い。
特に、熊が居るような気がする。俺は、熊が居ると、すごく気になるのだ。
熊は、東京にも居る、割とメジャーな野生動物だ。
熊と言っても、本州に居るのはツキノワグマで、積極的に人間を襲って食ったりするやつじゃない。
人が居ることに気付けば、向こうから逃げてくれる。
運悪く鉢合わせしちゃうと、襲ってくることもある。
山菜採りに山に入った人が、襲われることもあるが、食べるために襲うわけではない。
クマの餌を人間が取りに来るので怒るのだ。
ツキノワグマはほとんど植物性のものを食べている。
狩りの能力が高くないので、餌は植物性のものが多い。
その餌を、人間が取りに来る。そして、怒って追い払うと、害獣として駆除される。
東京は、天然記念物のカモシカも多く、意外に大型の野生動物が多い。
鹿なんか増えすぎて困ってるほどだ。
東京に居るくらいなので、もちろん、ここにも居る。山は繋がっているから。
「くそう、熊が居る。東京から、たいして離れて無いのに」
「どこ?」
「道から見えるとこには居ないよ。あ、鹿だ鹿、」
「どこ?」
「もうすぐ見える。あれだ」
「どこ? えー、ほんとだ。居た居た。なんでわかったの?」
「わかるんだよ」
「ちょっと、気になって運転できない」
唯から苦情が出る。
「ああ、ごめん」
変だ。
鹿が居ると思ったら、本当に居た。
熊も居るのだと思う。鹿は道沿いに居た。
でも、熊は道沿いにはいない。
だから、見えているわけでも無いのに、そこに居るのがわかるという能力なのだと思う。
こんな能力、いつから有った?
でも、やっぱり、居る気がする。
「くそう、熊が居る」
「どこ?」
「ここからじゃ見えない」
「だから、気になって運転できない!」
なんか、熊が居ると、俺はなんだか撲滅したい気持ちになるのだ。
熊は、べつに悪いことしてないのに。
ああ、今度は猿だ。くそう、俺はなんだか、猿もむかつくのだ。
「猿もいる。あそこ」
「あ、あれ? 群れなの?」
「小泉さん目良いな」
「ジン君はどうやって見つけるのよ」
わからない。けど、俺は動物を見つけることができる。
そんなときは、こう答えれば良いか?
「心の目だ」
「何よ、心の目って」
「わかるんだよ。ヤツがそこに居るって。
見えるかな、あそこにウズラか何かが居るんだけど」
「わかんない」
「じゃあ、あっちのタヌキは?」
「何か見えたかな?」
「ちょっと、気になって運転できない」
「ああ、ごめん、ごめん」
この道は何度も走ったのに、こんなに野生動物が多いとは知らなかった。
まあ、当時は、こんなに走りやすい道じゃ無かったのだが。
それとも、自分で運転してたから気付かなかった?
それにしても、道から見える場所に居た鹿と、猿は、本当に居ることが確認できた。
俺には、動物を見つける能力があるのだと思う。
ところが、その能力が、いつからあるのかがわからない。
バーベキューの時は無かった。そのあと、車を買ってドライブしていた時にも無かった。
いつからある?
たぶん、フラグが立ってからだ。
フラグは何回立った?
俺の体には、急激な変化が起きている……?
樹海がトート森に繋がっているとしたら? もうすぐあっちに行くから力が戻ってきたとしたら?
俺に残された時間は、少ないんじゃないかなんて気がして心配になる。




