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怪しい人

翌朝、助けた男性の体調がよくなって来ているようで顔に赤みが戻っていた。

このままにしておくこともできないので馬車に乗せて来た道を引き返すことに。

馬車に揺られて体にこたえるだろうがあのままにしておくよりもマシだろう。


もうすぐ街に着くというところで助けた男性が意識を取り戻した。


「うぅ…ここは?」


「あ、気づきました?」


「…君は?ここは!…うぅ、」


とっさに起き上がろうとしたが体に力が入らない様子の男性。

それもそうだろう。昨日の衰弱具合からしてそんなにすぐ動けるはずはない。いくら治療したとはいえそんなにすぐに回復したら魔法じゃないか!って魔法あるんだっけ。

でもこの世界の魔法で衰弱って治るのだろうか?それが治ったら栄養失調がこの世界から無くなりそうだな。


「無理しないで今は安静にしてください。俺はムツキって言います。冒険者をやってます。」


「あぁ、そうか。昨日の…俺はドザエモンという。助けてくれてた…ん、だよな?ありがとう。」


ドザエモン!!いやあなたはあのままだと衰弱死でしたよ?決して溺死ではありません。

にしてもなんか警戒してるような?


「いえ、それは当然のことをしたまでですよ。森の中で遭難でもしたんですか??」


「……いや、監禁されていたんだ。俺も冒険者をしていてな。この辺の魔物を駆除していたんだが森の中で色白の見慣れない男を見かけてな。街のゴロツキ相手に何か話していたんでちょっと調べてみようと思ったとこまでは記憶があるんだが、気がついたらどこか薄暗いとこにいて……どうやら他の仲間に気絶させられていたようだ。ソロ活動はするもんじゃないな。」


「怪しい…ですか……」


「あぁ、顔を隠していたからこっそり近づいて見たら革靴を履いてたからな。」


確かに革靴では森って歩きにくいもんな。怪しく見えてくるなその人たち。

アカリには聞かせたくない話だ。また探偵ごっこをしたいと言い出しそうな案件だ。こういうのはおとなしく衛兵に任せるべきなんだよな。冒険者でも捜査を専門にしている人もいるそうだが、確かサダさんの知り合いが情報屋をしているとか……

幸いなことにアカリは今、御者席で警戒してもらっているから聞かれなくて安心だ。

馬車内には俺とイクミが並んで座り、対面にドザエモンさんが横になってるからな。

アカリとサキは御者席でマフユはなぜか馬車の上にいる。うん、この件に下手に首を突っ込まないだろう。


コンコン!


御者席からノックが聞こえる。

小窓を開けると明かりがこちらを覗き込んでくる。


「もう着いたの。おじさんは起きたの??」


「あぁ起きたよ。じゃあ衛兵の方に後を任せてまた魔物を間引きながら帰ろうか。」


「う〜ん……でも…」


「アカリ?衛兵さんに任せようよ。」


「わかったの。」


やっぱり首を突っ込みたそうな感じだな。今朝もこのおじさんを街に連れて行くことを話したときなんか「何か事件の香りなの。」なんて言ってたからな。

事件の香りってどんな香りなんだろうか?

まぁ怪しいのは確かだが、俺がどうこうできそうにはないからな。

俺ができるのはちょっとした治療ぐらいだ。冒険者としての働きも戦闘ではなく治療がメインなんだから。

門前でおじさんを下ろして衛兵の人に事情を説明するとまた馬車を走らせる。今度こそ魔物を駆除しながら町に帰るのだ。


衛兵が慌ただしく動く中馬車を走らせる。

昨日よりは少しスピードを上げているようで昨日の野営地を少し過ぎたところまでやってきた。

アカリはどうにも落ち着かないようで森の奥をみようと真剣なようだ。


「はぁ、そんなに気になるんだったら少しだけ探索してみる??」


俺がアカリにそういうと嬉しそうに「うん!!」っと返事が返ってきた。

どうにもアカリには甘い俺である。

他のメンバーは少々あきれ顔だ。うん、ごめんなさい。

とりあえず馬車を止めて俺、アカリ、マフユの3人で森を探索することにした。先が駄駄を捏ねるがあいつは危険だ。

何が危険って空気を読まずに突撃することがあるんだ。怪しい人がいたらとりあえず突撃!!

猪突猛進とか比じゃないんだよ。


「じゃあ暗くなる前には戻るから。」


俺はそういうと3人で森に入る。

暗くなるまでに後3時間ほどか?

森の奥には入れないので特に何も見つけることはできないだろうがそれでアカリの気がすむならまぁいいんじゃないだろうか。


森を進むこと1時間。

予定外に探索スピードが早い。それもこれもマフユが悪い!!

いや、腕が確かなんだろうけど今に至ってはちょっと問題だろう。

だってみるからに怪しい男が森の中にいるんだもの!!


鳥の羽があしらわれたマスクをして、真っ黒いマントに儀礼剣のようなゴテゴテの短剣がマントからチラチラと見える。

靴は革靴で先っぽが尖ったどう見ても森では歩きにくい仕様だ。

おそらくドザエモンさんが見たのはこいつだろう。ということは近くに警護の人間がいるはずだ。

神経を張り巡らせてあたりを伺う。


『多分バレてる。居場所まではわからないだろうけど……』


マフユが小声で教えてくれる。

どうやら凄腕の護衛がいるんじゃないだろうか?マフユがこんなことを言うのも珍しい。マフユ自身もどこに敵が潜んでいるのかまだ捉えきれていないようだ。

アカリはなんか嬉しそうにしてるけどこれってまずいよね??


迂闊に動かないように必死に気配を隠しているといつのまにかさっきの怪しい人がいなくなっていた。

それでもマフユの警戒は続きアカリもむやみに飛び出さない。どうやらアカリも警戒を解いていないようだ。

俺には全くわからないがまだ近くに敵が潜んでいるようだ。


1時間は隠れていただろうか??ようやくマフユが警戒を緩めたようで、アカリも小さくため息をついている。


「ダメダメだ!派手なのはいいとして周りに隠れてたのは多分サダさんクラスだよ!!」


マフユがそう言うとアカリも首を縦に振る。

サダさんクラスか。そら無理だ!!

未だに俺たちが束になってかかっても勝てないのだ。

スキルのレベルだけ見れば俺たちはサダさんとそう大きく変わらないところまで成長しているのだが、勝てたことがない。それどころか未だに手加減してもらってるんだ。灰蝙蝠の他のメンバーであれば、なんとか勝てる時はあるがサダさんだけは無理!!

どうやらスキル以外の見えない技術があるように思える。

そんな化け物クラスがいたようなのでアカリも今回ばかりはおとなしく撤退してくれるようだ。


森からそそくさと脱出してみんなの元に帰ると、人が増えていた。

その格好からすると衛兵のおじさんのようだ。人数は20人ほどだろう。

ドザエモンさんの証言からこの辺の探索に派遣されたそうなので今探索してきたことを報告する。

そこでマフユはさっきはサダさん級だと表現していたのを今度は領主様の御付きをしているフジミヤさんより少し弱いくらいだと言っていた。

え?あの人サダさんより強いの??ちょっとビックリです。


衛兵の人たちは報告を聞いて顔を少し青ざめさせていたのでフジミヤさんの強さが相当なものであるのはよくわかるが一体いつの間にマフユはあの人の強さを測ったんだろう??

こっそり聞いて見たら俺が治療してる時にみんなで衛兵に混じって稽古をつけてもらってたらしい。

アカリとマフユはなんとか10分ほど耐えたと誇らしげにしてたが10分って……

2人が10分なら俺は一瞬だろうな。衛兵の中でも5分耐えられる人が10人前後で10分耐えれるのは団長と副団長しかいないらしい。

恐ろしいな!!

ちなみにサキとサツキは5分耐えたようだ。うちのパーティーはここの衛兵よりは強いかもしれないな。

イクミ?近接戦は無理ですけど何か?俺はそのイクミ以下ですけど??


衛兵の方達は明日二手庭からて行動するらしい。

片方は街に報告に、もう片方はここに簡易拠点を作るそうだ。

そんな悠長にしてたら逃げられそうな気がするけど…


まぁ俺たちはハクロの町に戻るだけだ。

あとはゆっくりダンジョン攻略。俺は鍼灸もしながらのんびり過ごそうかな?

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