にわめ
運命っていうのは、きっといくつも転がっていて、気がつかないうちに素通りしていて、そしていつか足元に落ちている運命に気がつく。
とか、きっとそんなシステムだと思う。
「織姫さん〜!賞味期限まじかなやつしまっちゃうっすね〜!」
「廃棄は持って帰っちゃだめだからね。」
「ふぁい?ほふふふのはさひにいっへふだはいよぅ〜」
何言っているのかわからない。
早朝のうちにとどいた商品を陳列する。
その際に弁当などを下げたり並べたりするのだが、どうやら彼女はその作業が好きらしい。
っていうか、ご飯が好きらしい。
肩上の長さの髪の毛を一部高い横のところでゆってあるこの若い子は、よく働いてくれて重いものももってくれる、いいこだ。
「んぐっ…んぷ。ぱあ」
「海野ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫っす!いやあご飯は美味しいっすね。今日まだ朝飯食べてないんす。」
「店長にばれないようにね。」
にひ、と笑ってダンボール箱を抱える彼女は実に頼もしい。
高校二年生だという篠原海野ちゃんは早朝、品出しを手伝ってくれたり、学校が終わったあとレジにたったりしてくれているバイトのこ。
まだ働き始めたばかりだけど仕事の飲み込みがはやい。
「ところで織姫さん、商品届けに来るあのトラックのおにーさんと、喋ったことあります?」
「挨拶程度だけどね、少し。」
「ふひ」
子供っぽい笑みを浮かべた海野ちゃんがおばさんのように手を招くようなしぐさで言った。
「今日聞かれちゃったんっすよぅ。彼氏いるかって」
「えっ、まじで」
「おおまじっすぅ」
にょほほと笑う海野ちゃんはどうみてもおばさんだった。
トラックの運転手のおにーさんは多分私と同年代くらい。
さわわかな笑顔で伸びる髪は黒髪でさらさら。
黄色い私とは全然ちがかった。
よく見ると、ちょっとかっこいい?そんなことないかも。
「微妙」
「えっ、なんでっすか」
いいじゃないっすか〜!トラック運転手
はーと。とつけたくなりそうなほど可愛い声だ。
いいねえ、十代は。
二十ちゅうばんの私からみると、きらきらしてるよ。
親の金で生活してるからな、私。
やっぱこういう高校いっててもしっかり仕事してるこ凄いと思う。
そとで暇つぶししてるだけの私とは全然違うね。
「んで、どうなんっすか?」
「なにが?」
「だからぁ、彼氏の話っす♡」
あ、ハートつけたね。このこ。
「話がつながってないですよ海野ちゃんー。」
「何言ってるんすか!聞かれたって言ったじゃないっすか、今。」
「…?海野ちゃんのを、でしょ」
「…や、織姫さんのをっす。」
オニギリを並べる手がとまった。
海野ちゃんはパンを並べる手を止めていない。
目線だけこっちに向けた海野ちゃんによりどんどん並べられていくパンをからっぽになった頭で感じ取っていた。
うん、るっくじゃなくて、しー。
「なんで?」
「いやいや、なんでってぇ。決まってるじゃないっすか〜!!♡♡♡」
あ、ハートふえたね。
「織姫さんのことが、スキ!」
ぴしゃーん、と頭に電流が流れた気がした。
オニギリ、鮭味いっこひゃくにじゅーえん。
ぐしゃ、
あー!織姫さんおにぎりがー!
「いやいや、そう決めつけてしまうには、まだはやいのではないかな」
「いやいや、決めつけてもいいっすって、これは!」
「ややや、親が許さないし」
「お、おやぁ!?あんた、なんちゅー心配してんすか!綺麗なご容姿がもったいないっす!」
いやいや、あなたのほうが可愛いでしょ。くりくりしててアイドルよりずっと可愛いよ。そんなこにいわれても、ねぇ。嫌味にしか聞こえない…のは考え過ぎですね。
「ともかく!織姫さんに彼氏はいないってことっすよね!」
「えー、まあそうだけど」
「ほうふたえへおふっす(そう伝えておくっす)」
「やめてぇー」
潰れたおにぎりは一瞬のうちに海野ちゃんが食べていた。
…弁償しとこう。




