恐れていた事態 03
気づいた時には、ボビーが心配そうにのぞいていた。
あわてて起きて時計をみる。電話からすでに30分近くたっていた。
「だいじょうぶ? 眠ってたの?」
「いや……ちょっとね」頬を挟むように何度か叩く。頭痛は軽くなっていた。
「ねえ、電話が来ていたみたいだけど」
「そう、ミヨちゃんがどこかに連れていかれた」ボビーはぎょっとして立ち上がる。
「うそ。敷地に入って行くところまでは見張ってたのに、見つからないように……」
「玄関に入る直前らしい」
「誰か、庭にいたのかしら」
不審な人間や車には気づかなかったらしい。裏手に木立に囲まれた空き地があったが、そちらはさすがに見ていなかった、と。ボビーは泣きそうだった。
「どうしよ……せっかく今まで無事だったのに」ワタシのせいだわ、と顔を覆っている。
「ごめん、オレも今少し意識がなかった……とにかく、捜しに行こう」
県警をどうするか。かち合わないように動けるか? 彼らが美世を捜している限りそれは無理だろう。南とオオクラ・ショウコが必ずどこかで交差しているはずだ。
それでも、あの二人を捕まえなければ。県警に会ったらその時はその時だ。
まず、シヴァの部屋に行って発信器をつけてもらう。
「範囲は?」「半径30キロくらい」
会話を録音するための機器も借りて、ボビーと下に降りる。
大倉ショウコは、家にいなかった。母屋にいた兄が言うには、離れにいたはずなのに急に母屋に寄って、人に会うからと言って出て行ったらしい。車の運転はしない人が、すでに夜の8時を回っているのに歩いて出て行ったとも思えない。家庭の電話には通信記録がなかったので、誰かが直接、彼女の住む離れまで迎えに来たのかもしれない。
南ヨシアキにも電話してみる。
「え? オヤジっすかぁ」
少し探しているような間があってから「そういや、いないっすねえ」気のない返事。
普段使う車も見てきてもらうと、やはりないと言う。
シヴァが部屋から出てきた。
「リーダー、鯉のうちのオオクラのおばさん、どこにいるか知りたいの?」
「何だって?」
シヴァは、画面の大きな携帯モニタを出した。赤い光点が真ん中よりやや右に見える。よくみると、じりじりと右方向に移動している。
「これは?」
シヴァは鼻をこすった。
「こないだ、電話に虫つけたでしょ? あの時ついでに、彼女の靴やサンダルの裏にも全部、虫つけてきた、画びょうみたいなの。一つ動いてるよ」
サンライズ、ハイタッチでシヴァに向き合う。「オマエ、天才だ」
シヴァに無線で行く手を訊ねつつ、彼らは車を市街地方向に向けた。




