恐れていた事態 02
「アオキ、何さんですか?」
「カズハルです」
「正式な会社名は?」向こうで、名刺が見つかったらしい。
「日本、リサーチ、センター」読み上げている。「東京のカイシャですね」
更に、向こうで何かオヤジが説明している。
「調査にいらして……明日何かテストをするんだとか?」
「はあ。あの」
「このお宅のお嬢さんに何か御用ですか? 夜なのに」
「何かあったんですか?」
相手は即答で「いえ別に」
何があったんだ?
「アオキさん、今、どこにいます?」相手の声はたたみかけるように容赦がない。
「今から少しお話をうかがいたいんだが、ホテルにおられるとか?」
ここに来られたら面倒だ。MIROC自体は非合法でも何でもないが、調査内容が警察には理解できないだろうし、調査に盗聴器など使っているのがバレると逮捕もされかねない。
「ちょっと、聞いてください」目をつぶって、衝撃に耐える。
「この、があたく坊主」しばらく、相手が沈黙した。
来るか? 心のずっと奥の方でほんのゼロコンマ数秒、反応を待つ。
電話を使ってもアレはできる、と開発から聞いていた、実験にも何度か付き合わされて実際に可能であることも分かっていたが、実地でやったことはなかった。だいじょうぶなのだろうか?
引っかかる感じがきた。少し弱いが、確かに頭に響いてくる。
『シェイク』の感触だ。
「お願いです、教えてください。ミヨさんはどこに?」少しの沈黙の後、
「外出先から帰ってから、家に入っていない」静かな声になっていた。
「荷物は玄関先に放り出してあった。バッグはなかった」
さらわれたのだ、多分。
「手掛かりは他には?」まずい、頭痛が始まった。空いている手でこめかみを押さえる。
「何も。母親は台所にいたが、部屋にいないのに気づいたのはずいぶん後、父親は外出してた。多分、車で連れて行かれたのだと思う」
目撃者は、いなかったらしい。
「わかりました」目を固くつぶりながら、もう一度強く押す。
「そちらさん、所属とお名前は?」
「長野県警本部刑事部捜査一課 カシヤマタイジュ。警部です」
「了解しました。カシヤマ警部、他の方にもお伝えください。ここには絶対訪ねて来ないように、我々は警視庁特捜課です。別件で入ってますので別行動で願います」
名刺から辿れば、MIROCだという事はいずれ露見してしまうだろうが、とにかく撤収まではもたせたい。
「美世さんはそちらで捜してください、お願いします」
特に質問も受けず、電話が切れた。
彼はようやく目を開けた。受話器を掴んでいる手に力が入りすぎ、関節が白くなっている。無理やり引きはがすようにして、受話器を戻し、ベッドに身を投げ出す。
思っていたよりずっと負担が大きかったようだ。目眩が酷い。久々に使ってしまったせいもあるだろうし、電話ごしにというのも妙に力んでしまった。
ボビーにすぐ、伝えなくては。そう思っているうちに意識を失った。




