恐れていた事態 01
二日間の戸別調査は、形だけということもあってさくさくと順調に進んでいった。
おしゃべり好きなところで、サンライズたちはまた、大倉の話題をいくつか拾った。
つなぎ合わせてみると、やはり、ケンジの母はダンナの弟との浮気が原因で、離婚したらしい事が判った。ダンナは上田を去り、弟の南は働き者の婿養子ということもあり、モータースにとどまった。田舎では噂もあっという間に広がったが、うやむやになるのもあっという間だったようだ。
日曜の晩、全体に対してのテストを行うことになった。抽出式で対象は今回30名。
ギョロ目の地区長はじめ、二人の組長を含め、対象者にはヒアリングの際にお願いの文書を配って説明した。今回は大倉からもあの母親、その兄にも出てもらうことになった。もちろん佐伯家の美世とその父も数に入っている。
ケンジの母親と南の会話からすると、大人はたとえ先見ができたとしても、素直に回答するとは限らないらしいので、テストはあくまでも、シゴトの流れとして形式だけの話だった。
それでもどんな結果が出るか、サンライズには少し楽しみな気もしている。
シヴァとデータ暗号化について細かい打ち合わせをしながら、しかし彼の心はまた上田の荒れ野をさまよっていた。
ようやく、任務に目鼻がついてきたというのに、まだケンジは見つからない。それにミヨの事も心配だ。
帰る前に、もう一度ケンジの母と話し合う必要があるかも知れない。
彼女に『力』を使う必要があるだろうか。
できれば、腹を割って話し合いたかった。
土曜日、美世は友だちと一日買い物行く、と家を出たと聞く。学校の英語班の仲間と、電車でちょっと高崎まで出かけてくる、と親に言っていたらしい。
「ボビー、頼む」
はいはい、とボビー、すっかりあきらめたように今日はオッサンの恰好で美世たちを追って行った。
その間、サンライズはシヴァと南モータースに寄って、遠目で観察していた。
普通に営業しているようだった。従業員も客の入りもほどほどに多く、案外隙ができない。
ここの電話に虫をつけたいのはヤマヤマだが、そこまでリスクをおかす必要があるか、シヴァと相談したが、大倉の電話もあれからは特に使われていないようだったので、とりあえずやめておいた。
ボビーは夜遅く、へとへとになって帰ってきた。
「あのコたち、タカサキに行く、って言って結局どこまで行ったと思う? シンジュクよ、シンジュク」
まったく、若いコってどうしてあんなに動き回るのかしら? とすっかり疲れきっている。
ゆっくり風呂入って、と声をかける前に扮装を脱ぎ散らかして、彼は風呂場にダッシュ。
とりあえず今日一日は、美世は無事だった。明日は夜にテストもあるし、今日の疲れもあるだろうから、多分遠くに出かけることはないだろう。
テストの準備もあるが、ふと何となく気になって美世の声を聞いておこう、と佐伯の家に電話をを入れてみる。
「夜分恐れ入ります、リサーチの青木です。明日のテストの件ですが、美世さんをお願いできますか?」
父親が出た、がすぐに受話器を手で覆うような音が続き、間もなく、別の男が
「はい」と電話口に出た。
がんがんと響くだみ声だ。サンライズは受話器を握る手に少し力を込める。
「佐伯さんですよね? そちら」
「そちらさんは? リサーチのアオキさん?」ぴんときた。
警察だ。




