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第15話 手紙


 名称をマリーナ騎士団に決定して直ぐ、俺たちは営業を掛けた。


 イスペリアの王宮に許可をもらい、立て看板をあちこちに設置したのだ。


 その効果は直ぐに出た。

 2日も経たない内に、イスペリアの各商会からのアプローチがあったのだ。


 しかも、そのうちの殆どの商会が、無償での支援を約束してくれた。



『どうか我らの故郷を護り、異教徒の軍勢を打ち払ってください』



 若輩の俺たち(というかクローデットさんに)真摯に頭を下げ、半ば哀願にも近い形で資金や物資の提供を約束してくれた。


 これでもかという程の、重い期待を感じる。

 けど、それを受け取った令嬢方は、その期待が嬉しいみたいで。



「私たちでイスペリアを救うぞー!」


「うおーっ、体に名誉が漲っている感じがして、今は無敵なのですよ!」


「異教徒がなんだと言うのでしょう、こちらには破門者のクローデットさんがいるのです。邪悪さならこちらが上ですことよ!」


「ジルベールくんが"がんばれ♡ がんばれ♡"って応援してくれるのに、あたしたちが負けるわけないんだよね」



 なんだこいつらという目をされつつ、それ以上に期待の眼差しが降り注ぐ。


 期待を、物質面で可視化するとこうなるのかという程の物資と資金が、マリーナ騎士団の下に集まった。これで、新しい商売でもできるんじゃないか、と生臭いことを考えるくらいの量が。


 ……積み上がった物を見上げたところで、流石におかしいと気がついた。世間で出回っている噂が、耳に入って来たのもこの頃のことだった。




「"春になれば、マリーナ騎士団とイスペリア王国軍が西の僭主どもを討ち果たし、イスペリアの聖教は再び一つに統一されることであろう"、ですの?」


「はい、市井で出回っている噂で、半ば決定事項の様に語られているものです」


 クローデットさんと俺は顔を突き合わせて、今の奇妙な状況について語り合っていた。


 逃げられない状況に追い込まれている。

 そんな気配を感じて、妙に落ち着かない。


 日に日に、周囲からの期待の視線が熱くなっているのを実感できるから。


 無論、ヒートアップし過ぎない様に、諾を得た商会を通じて喚起をしているのだが、それでも噂は押し止まらなかった。


 マリーナ騎士団が異民族を撃砕し、全イスペリアを取り戻すだろう。


 まるで神託でもあったかのように、イスペリアの素朴な人々はそれを信じてしまっていたから。


「いずれは、受けた支援に見合うだけの行動を起こす必要がありましたが……」


 まだ早い、準備が整っていない。

 今は足場、村のことを優先したかった。


 それを考えると、この状況はあまりによろしくない。


 この期待が高まった状況で、春先に何もしなかったらそれこそ大顰蹙を買う。口だけ、詐欺師、裏切り者などのレッテルが貼られかねない。


「期待を煽り過ぎた、ということなのでしょうか」


「……集まった支援は、神前に供物を捧げる行為、だったのかもしれません」


 イスペリア人の救われたいという思いが、都合よく現れたガリティア人を神様が遣わしてくれた騎士団だと信じ込ませてしまう。


 イスペリアの苦境を、甘く見積り過ぎていたのかもしれなかった。


 ……それにしたって、噂が広まる速度がおかしすぎるが。


「探りを入れた方が、良いかもしれません」


「それが出来るのは、ガリティア外交部くらいですわ。頼り過ぎることになりますけれど……」


「……自前の諜報組織とか、あったら安心できますよね」


「今は夢のまた夢ですわ〜」


 二人揃ってため息を吐いて、未だに旗色が分からない外交部に依頼を出すしかないのか、と微妙に渋っている時のことだった。


 ──ベラが、俺を訪ねてやって来たのは。




「おーっ、これが噂のマリーナ騎士団なのじゃな!」


 今日のベラは絹ではなく、庶民が着ていてもおかしくないブリオーで現れた。メガネとベレー帽を被っていて、まるで変装しているようでもあった。


「ベラ、急にどうしたの? やっぱり、うちに加入しに来てくれた?」


「ジルベール、よう来た! 残念ながら、それは違うがの。汝らが未だ街に留まっていると聞き、いてもたってもいられなくなったのじゃ」


 目をキラキラさせつつ、令嬢方に手を振られるだけで興奮している様は、街の子供達と変わらない。


 マリーナ騎士団に夢を見てくれていて、憧れてくれている視線そのものであった。


「そっか、想像よりも粗野かもしれないけど、みんな気の良い女の子だから」


「それは承知しておる、余も女であるからな」


「なら良いけど……一緒に見て回る?」


「いや、別に構わぬ。ただ、代わりにこれを受け取ってもらえんかの?」


「え?」


 差し出されたのは、一通の手紙であった。


 ……女の子から手紙を貰ったの初めてだ。

 だからといって、それがどうしたという話ではあるんだけれど。


「これを団長のクローデット殿に渡してくりゃれ」


「……なるほどね」


 けど、そもそもが俺宛ではなかった。

 別に残念でもなんでもないけどね、うん……。


「ファンレターみたいなもの?」


「似たようなものじゃ、それでは頼んだからの」


 そう言い放って、ベラはキョロキョロと辺りを見回して。


「おぉ、余と同い年ほどの童がいるではないか! 汝はなんという名前じゃ?」


「え、サラだよ?」


「うむ、良き名じゃ。折角だから、主を臨時の供回りとするぞ。では、あないしてたもれ!」


「ふぇ!?」


 通り掛かりのサラに絡んで、その手を繋いで騎士団の輪の中へと飛び込んでいってしまった。物怖じのしなさなら、きっと騎士団でも有数のものがあるかもしれない。


「ま、いっか。取り敢えず、クローデットさんに手紙を渡してあげよっか」


 気楽に、俺は何も考えずにクローデットさんに、ベラからの手紙を渡すことにした。サラに同い年の友達ができた、それを微笑ましく思いながら。




 だから、手紙を読んだクローデットさんから深刻な顔でそれを告げられて困惑した。


「ジルベールさん、これはファンレターでもラブレターでもありません。──呼び出し状ですわ」


 ベラは果たし状でも持ってきたのか、なんてお気楽な考えさえ頭をよぎって。


「決闘のお誘いってことですか?」


「いいえ、それならば、なんら憂慮などする必要がないものですわ」


 頭を振って、クローデットさんが手紙を見せてくれる。その手紙の内容自体は、簡単な指示が記されていたのみであった。


 "今から、とあるレストランに来て欲しい"と書いてあるのみ。


 差出人の名前さえ書いてないそれは、どこまでが本気なのかわからない代物であった。


 ──ただ一点、王家の押印があることを除いて。


「……どういうこと?」


「ワタクシが聞きたいのですわ!」


 まさかの奇襲である、クローデットさんが声を荒らげるのも納得できる。このハンコ一つで、この怪しい手紙は絶対に無視してはならないものへと早変わりしたのだから。


「……行くしかないのですわ」


「そう、ですね。ですけど、この手段を前に使った人物は一人だけです。だから、行った先で待っているのは……」


 思わず、頭を抱えそうになった。

 条約を締結できて、油断していたと言っても過言ではない。


 てっきり、同盟を結んだ会議場での様子を聞いて、イスペリア内で暗闘に精を出すと思い込んでいたから。


「イスペリア宰相オクタヴィア・カルロス、ですわね……」


「十中八九、そうでしょう」


 一瞬、手紙を燃やして、見なかったことにした方が良いのではないか、との考えが頭に過ぎった。


 ただ、そうした時にこのハンコの持ち主がどう思うのか。それを考えると、早々に軽挙を行う気にはなれなかった。


 ここまでハンコを簡単に許していること自体、幼い女王が自らの宰相を信任しているという証左でもあったから。


「ジルベールさん、ご一緒していただきたいのですが……」


「はい、クローデットさんに向けた手紙ですけど、それ以外は来るなとも書いていません。随員として、お供させていただきます」


 まだクローデットさんは、外交を学び始めたばかりだ。一人だと不安がある、故に俺に声を掛けてくれたんだと思う。


 すぐに声を掛けてくれたのは、それだけ俺を信頼してくれているから。それを思うと、嬉しくて顔が緩くなりそうになる。


 けど、諸々を考慮すれば、俺以上に巻き込むべき人がいた。恐らくは、真っ先にクローデットさんも頭によぎったであろう名前が。


「……エレーヌさんも巻き込んじゃいましょう」


 そう、専門家のエレーヌさん。

 俺以上に頼りになる、知識と経験のある人。


 でも、その名前を出した途端、クローデットさんは難しい顔をして。


「……あまり頼り過ぎると、後々困ることになりそうなのですわ」


 あえて、距離を取るような物言いをしたのであった。


 エレーヌさんが言っていた通り、彼女を束縛してしまわないように。法服貴族が村から出ることになった時に、後腐れなくするために。


 ……クローデットさんは本当に優しい、良い人だと思う。


 ──けど、俺はどうやら良い人ではないみたいだ。


「困りませんよ、ずっと居てもらえれば良いんですから」


「ジルベールさん、事情を知っておられたのですか?」


「エレーヌさんから、無理に聞き出しちゃいました」


 臆面もなく言うと、クローデットさんは眉を顰めた。行儀が悪い行為であると自覚しているため、それも然もありなんとしか言いようがない。


 ただ、それでもと思うのだ。

 マリーナ騎士団には、エレーヌさんが必要なのだと。


「良くないことです、困らせるだろうってことも分かります。でも、それを差し引いてもエレーヌさんが必要……いえ、俺が彼女に居て欲しいんです!」


 ハッキリと、エレーヌさんを手放すべきではないと伝える。まだまだ、俺もクローデットさんも、彼女から学ばねばならないのだという意思を込めて。


 それに、クローデットさんは……。


「じ、ジルベールさんには、エレーヌさんが必要……居て、欲しい……わ、ワタクシは過去の女……まさか、用、済み?」


 グルグル目を回しながら、何かおかしなことをほざき始めていたのだ。


 過去の女って何っ、用済みってなんの話なんだ!!


「クローデットさん、正気に戻ってください!」


「じ、じじ、ジルベールさんっ、ワタクシを捨てないでくださいまし!!」


「捨てるも何も、クローデットさんが一番大事だって言ったじゃないですか! 忘れちゃったんですか!!」


「本当ですの!?」


「クローデットさんには嘘つきません!」


「なんか胸にギュッと来る言葉なのですわ!!」


 何故だか錯乱したクローデットさんを、俺は必死に宥めることになったのだった。



「ワタクシが一番ならば、エレーヌさんは二番目の女、ということですの……? うむむ、悩ましい問題ですわね……」



 そして、落ち着きを取り戻してからも何かをブツブツと呟いていたが、何も聞こえなかった。聞こえなかったと言ったら聞こえなかったのだ!


 …………クローデットさんの思春期。




 あれから直ぐに、俺たちはエレーヌさんの元へと向かった。


「ジルベールさん、ワタクシがマリーナ騎士団の団長ですの。ですから、仲間になって欲しい旨は、ワタクシの口から伝えることに致しますわ」


「……ごめんなさい、それからお願いします」


 どうしてもと頼む俺に、クローデットさんが折れてくれたのだ。本当は、外交の本職がいてくれないと困るのは承知していたんだと思う。


 だからといって、エレーヌさんに無理を強いることになるのは、気持ちの良いことではないだろう。故に、自分から話をするといってくれた。


 ……本当に、クローデットさんは立派な人だ。


 思春期を拗らせているのだとしても、しっかり支えてあげたい。一生懸命に学び続けて、クローデットさんの役に立てる自分でいたいと思える人だった。


「おや、二人揃ってどうしたんだい?」


「ちょっと、お話ししたいことがあるんです」


 そうして、エレーヌさんのところに出向いて。真剣な表情をしているクローデットさんを前に、エレーヌさんも表情を改めたところでの第一声。



「──エレーヌさん、あなたはジルベールさんの二番目の女ですわ。つまり、今更出て行こうとしても無駄だと言うことですの!」



 真剣な顔に見合わない、今までの感動を全て吹き飛ばしてしまうくらい酷い言葉から始まる一声目であった。


「どういうことなんだ、それは!?」


「クローデットさん、どうしちゃったの!?」


 俺とエレーヌさんは同時に、様子がおかしいクローデットさんに突っ込むが、彼女はあくまでも真剣な表情を崩さなくて。


「あなたがいなくなると、ジルベールさんが泣き喚きますわ」


「そ、そうなのかい、ジルベールくん?」


「胸が苦しくなるだろうってだけで、泣き喚いたりするわけがないんですが!!」


「……胸は苦しくなるんだね」


 何故か俺が話の前面に押し出されながら、クローデットさんはゴリ押しでエレーヌさんの説得に掛かったのだ。


「因みに副次的なものですが、あなたがいなくなるとワタクシ達も外交的にボラれ、お股の毛さえも毟られた挙句に都合の良い騎士団として使い潰されて死にますわ」


「俺が泣くより、そっちの方が明らかに問題ですよねっ」


「絵面の問題でしてよ、ジルベールさん」


「そういう問題なのかな!!」


「そうなっても良いと仰りますの、エレーヌさんは!!」


 俺の言葉を歯牙にもかけず、どうしようもないくらい情けない脅迫で迫るクローデットさん。


 人の良いエレーヌさんには効果がありそうなのが、あまりにも酷い。


「ええと、それは良くないけどね……」


 そして、しっかりエレーヌさんは、その言葉を間に受けてしまっていた。プライドを捨てた情けなさが、これでもかという程にエレーヌさんへと刺さっていたのだ。


「ジルベールさんも、あなたが二番目の女性であると仰っているのですわよ! そのようなお方を、見捨ててしまってもよろしいのですわ!!」


「仰ってないよっ、あとそんな奴見捨てて良いだろ!!」


 最悪すぎる脅迫に、俺の名前まで登場している。

 しかも、色々と最低すぎるカス男みたいなことを言ったことになっていた。


 貞操帯つけられても文句言えないタイプの奴じゃん、それ。俺、そんなこと一言だって言ってないんだけどね!!


「ジルベールくんの、二番目……」


「待ってエレーヌさん、騙されないで! あと、なんで心惹かれている、みたいな顔してるの!!」


 クローデットさんが発するゴリ押しの狂気に飲まれたのか、エレーヌさんもなんだか怪しいことを呟き始めていた。


 というか、エレーヌさんの将来が心配になる。


 なんで二番目って言われて、心が揺れてるんだ!

 悪い男に目をつけられたら、本当に危ないよ!!


「そういう訳で、結納は村が安定してからということで如何でしょう? 今なら、ジラールですわ割引で、ジルベールさんと婚姻される方には無料で式を上げさせて頂きますわ」


「っ、分かったよクローデットさん。頭の悪いことを並べ立てて、エレーヌさんの頭を混乱させようって魂胆なんだね! 俺の頭もおかしくなりそうだから、今すぐやめてくれないかな!!」


「ほら、ジルベールさんも"今から楽しみ"、と仰っております」


「言葉が通じていない!?」


 どうやら、今のクローデットさんは脳がキマってしまっているのか、全ての言葉を都合よく受け止めてしまう存在になっていた。


 なんでそうなってしまったのか、全く見当がつかない。ただ、困ったことに、クローデットさんが真剣で必死なことだけは否定できなくて。


「……ジルベールくんの気持ちは、良く分かったよ」


「一から十まで全部違うよ!?」


「うん、分かっている。……君の気持ちは、前に聞かせてもらったから」


 やんわりと、頭がおかしくなりそうになっている俺を窘めながら、エレーヌさんはクローデットさんのグルグルしている目を見つめた。



「ジルベールくんのことは分かったけど、君はどう思ってくれているのかな、クローデットさん」



 静かに、けれども意思を込めた目。

 その目と視線が重なったクローデットさんは、ふと思い出したように澄んだ瞳へと戻って。


「……悔しいのですが、ワタクシだけでは貴方がいなくても大丈夫、とは言い切れません。ワタクシにとっても、貴方は必要な人なのだとここ最近は痛感させられてばかりでした」


 頭のおかしくない、素朴で正直な気持ちを吐露した。その言葉に、エレーヌさんは胸に手を当ててから、目を閉じて。


「君が、法服貴族を思い遣ってくれているっていうのは分かってた。……けど、ほんの少しだけ、疎まれているとも思ってたんだ」


 目の前にはクローデットさんが居ない。そんな風に振る舞いながら、エレーヌさんも思っていたことをこぼし始めた。


「君がボクを見る時、時折感じたんだ。どうするのかって、決断を待っている目をしているのを。早く決めて、出て行くことを決めた方がいいんじゃないかって、そう思うこともあった」


 それが、エレーヌさんが感じていた居心地の悪さの正体。


 俺はクローデットさんがそんなこと考えないと思うけど、分かり合える関係じゃなきゃそんなの知る由がない。こうして正直になることによって、初めてわかることだから。


 本人達はひた隠しにしていた蟠りが解けて行くのを感じて、胸に安堵が去来する。


 素直に、最初からこうなってほしかった。

 さっきの狂想は、本当になんだったんだ。


「血と義務の間で、苦しんでほしくないと思っていたのですわ。ですが、ワタクシはなんでも万能にできる訳ではない。できない面で、力量不足を実感して、そうも言っていられなくなりましたが」


「……やっぱり優しいんだ、クローデットさんは」


「手を貸せと強いているのに、そんなことを仰りますの?」


「それは違うよ。君はボクに、君の力が必要だって言ってくれてるんだ」


 エレーヌさんは、閉じていた目を開けた。

 そうして、嬉しそうにはにかんで。


「──必要とされること。それは嬉しいことなんだって、いま君が教えてくれたんだよ」


 クローデットさんへ、とびきりの感謝を伝えたのだ。


「……もっと、早くに声を掛けるべきだったのですわね」


「ううん、今の君だからこそだよ。今は本当に必要としてくれている、それが分かるから」


 自分が思う他者の心情は、必ずしも正しいものとは限らない。けど、クローデットさんは分かりやすい人で、故の信頼であるとエレーヌさんは口にした。


 それにクローデットさんは、むむむと考え込んで。


「……ワタクシ、そんなに顔に出ますの?」


 釈然としなさそうに、ポツリと呟いた。


 エレーヌさんは、拗ねているように見えるクローデットさんを前にして。


「例えばなんだけど……クローデットさん、少し耳を貸してもらえるかな?」


「良いですけれど……?」


 言われるがままに顔を寄せたクローデットさんに、エレーヌさんはボソリと一言、俺には聞こえない声量で何かを呟いた。



「──ボクは二番目というなら、君が一番さんなんだね」



 ただ、その一言で、面白い程にクローデットさんの顔が真っ赤になった。ポンっと、湯気でも立ち上りそうな勢いで。


「な、ななななっ!?」


「ね、君は分かりやすいよ。ボクは、そんな君の言葉だから信じようって思った。分かってくれたかな?」


 良く分からないが、様子を見るにクローデットさんが分かりやすい人というのは良く理解できて。


「〜〜っ、ワタクシ確かにそんなことを口走っていましたわっ。う〜で、恥ずか死んだら貴方のせいですわよーーっ!!」


 何かを後悔するような叫び声をあげて、クローデットさんは近くの机に突っ伏した。


 耳まで赤いクローデットさんは、本気で恥ずかしがっている。それがすぐ分かって、なるほどと心の底から思った。


「あのですね、エレーヌさん」


「何かな、ジルベールくん」


 なので、折角だからとエレーヌさんに、大切なことを伝えた。


「照れてるクローデットさんは、すごく可愛い女の子だと思うんです。──だから、これからも一緒に支えてあげてください」


 とても重要な、支えたい気持ちになりうるもの。

 それを口にすると、エレーヌさんは少し俯いて。



「そっか、そこは両思いなんだね。……無自覚みたいだけど」



 また、聞こえない小声で何か言ったのだ。


「ごめんなさい、良く聞こえなくて……。もう一度お願いできますか?」


「いや、何でもないよ。気にしないで」


 軽く首を振ってから、エレーヌさんは正直なところを俺にも話してくれた。


「もしかしたら、出て行くことになるかもしれない。けど、縮こまってその時を待たなきゃいけない、なんてことはないってようやく分かったんだ。だから、それまで宜しくね」


「っ、はい、よろしくお願いします!」


 差し出された手を握ると、今度は同じくらいの力で握り返してくれた。


 それがとても良いなって思えて、彼女の手が体温以上に温かく感じたのだった。




 こうして、俺たちは頼もしい人を仲間にし、事情を説明してから指定のレストランへと出発したのだった。


 絶対やり込められないと、油断しないように言い聞かせながら。






 聖堂から出立した3人を、一人の少女が捉えた。


「……ぬ、まだ出発していなかったのかえ」


 あー、と言葉にならないボヤキを口にしながら、億劫そうにまだその後ろ姿を追って。


「どしたのかな、ベラちゃん?」


「いやなに、自分勝手で物事が思い通りに運ばないと、すぐにイライラする可愛い29歳児がの、唐突にキレないか心配になってきてのぅ」


「……こーねんきさん、ってこと?」


「っ、くくっ、くはははっ! サラよ、中々に愉快なことを言うではないか! だが、年齢を気にしている女にその言葉は暴力じゃからな。余の前以外では控えた方がよかろう」


「うん、分かったよ!」


 嬉しそうに、同い年の友達になれた少女に事情を語りながら、これ余も行かないと揉めるやつかの? と無茶苦茶嫌そうな顔をしていた。


 サラが素直で可愛い子で、本気で気に入っていたが故の嫌そうな顔であった。

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