20 女慣れしてなさすぎて任務が危うい
ミレイユは、棚にあった隠密風の冒険者ウェアを身につけ、腰には冒険者バッグを巻きつけた。
細い腰が更に強調される。
中には、もらった短剣と普通の小刀、ハイポーション、解毒剤、睡眠玉、そして傷に何でも効くという万能包帯まで――
まるで救急箱をそのまま詰め込んだような内容だ。
さらに背負ったリュックには、錬金術製の簡易ポップアップテントを入れる。
魔物よけ効果は一晩だけ。数日ダンジョンにこもる冒険者には人気がないが、お値段は高め。
「認識阻害の付与までは良かったんだけど、動力が最初に埋め込んだ魔力しかなくて、一日しか持たないのが欠点なんです。おかげで売れなくて。改良したいなあ……」
そんな錬金術トークを、つらつらと口にする。
だが、横のレオンハルトはほとんどこちらを見ず、ただ無言で頷いていた。
……しかも、なんだか顔が赤い。
「レオンハルトさん、顔、赤いですけど……大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ。この周辺だけだからテントは不要だ」
そっぽを向かれる。
(あれ……なれなれしかった? それとも、また錬金術の話ばかりして呆れられたかな)
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
――その頃、レオンハルトの頭の中は別の意味で大混乱だった。
(なんだ、あの……ぴったりボディラインは!)
自分が注文し、着ろと指示した服だ。ミレイユに責任はない。
……ないのだが.....
脳裏によみがえるのはカイルの憎々しげなサムズアップ。
(……わざとだろ、あいつ)
もっとゆったりした冒険者ウェアもあったはずだ。
これでは任務前から集中力が削がれる。
さすがに「外套代わりにシーツを巻け」とは言えないが――次に帰った時は必ず防具を揃えよう。
露出は極力、封印だ。
とはいえ、自分が女慣れしてなさすぎるのも問題かもしれない。我ながら応用が効かなすぎる。
縁談が自分に回ってきた理由も、突き詰めればそこだろう。
自分がもし結婚したら……
いや、その前に恋人ができたとしても、浮気はしないし、娼館にも行かない自信がある。
だが、カイル曰く「それはそれで面白みがない」らしいし、任務によっては欠点になりかねない。
貴族の宴会や社交の場は慣れている。
しかし、あの香水の匂い、扇子の下の値踏みする笑み、わざとらしいスキンシップ――どれも苦手だ。
ミレイユのように素朴で裏がなければ、話もしやすいのだが。
(……ダリウスがミレイユを紹介してくれたのは、やっぱり優しさだと思いたい)
たとえ嘘だらけの任務でも、そこだけは信じたい。
小さく息を吐き、剣を手に取る。
まずは剣の感覚を自分のものに早くすること
そして――ミレイユの短剣の威力も確認しておきたい。
タウンハウスの管理人が用意してくれた軽食と飲み水を鞄に詰める。
「さて、出かけるか」




