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王子の親友  作者: haregbee
12/12

第2章 巫女の書簡 2



軽薄なる友、マーティン・オルコット殿




秋も深まりましてうんぬんと始めたいところだけど、あなたの手紙を待っている間に雪が降り出してしまいました。


言いたいことも分かっているでしょう。


さあ、下の文章をじっくりと読んで反省してください。


僕は、元気です。

夏バテしませんでした。

本に埋まってもいません。

では、また


これが、昨日届いたあなたからの手紙です。


読み返してみて、どうです?


自分でも酷いと思いませんか。


なんて、素っ気ない!


素っ気ないといえば、マリは、大分前から素っ気ないと文句を言っていたボーイフレンドに一昨日振られました。


他の女の子と親しげに歩いているところを目撃したマリは、彼に追及したら、メンドクサイ女だと言われたそうです。


とんでもなく、失礼な男です!


同時に二人の女性と交際する男の方が面倒な気質だと思いませんか。


まあ、男のあなたに聞くのも酷かもしれませんね。


「もう長いこと、うわの空だってことに薄々気づいていました。」とマリは言いました。


私の分のブルーベリーパイをあげると、泣きながら食べた後、少し笑いました。


「ミーシャ様が巫女でよかったです。」とも言ってくれました。


私は、褒められてもちっともうれしくありませんでした。


マリの笑顔を見たら、とても切なくなりました。


白磁宮の女官は、とても微妙な立場にいます。


聖職者と一般の人々の中間です。


聖職者のように厳しい戒律を守る義務はありませんが、白磁宮に勤めている限り、その行動はやはり制限されてしまうのです。


ようするに恋愛や結婚は自由ですが、白磁宮の人間であることが付き合いの邪魔になるということです。


門限があるし、休日に休みを取れないし、長い休暇も取れません。


前の手紙で、マリが王宮劇場の前で五時間も張り込んだと書いたのを覚えているでしょうか。


あれは、ジャガビー伯爵とウェッジ未亡人の関係を確かめるためではなく、ボーイフレンドと会っていたのだと知りました。


マリは、ボーイフレンドとのデートを楽しんだ後、王宮劇場の前で、たまたまジャガビー伯爵達を見かけただけでした。


マリは、相変わらず、噂好きで陽気な子です。


でも、その明るさは、彼女の我慢を覆い隠すために存在しているのかもしれません。


今日は、礼拝の間中ずっとマリの幸せを祈っていました。


マリがザイオンを嫌いにならないようにマリにもっと優しくしてほしいとお願いしました。


今夜は、シルビーに歌を教えてもらうつもりです。


とびきり優しい調べの歌を習います。


上手に歌えるようになったら、白磁宮の中庭で歌いたいです。


空に風に川に森に。


天と地にあるもの全てに聞いてもらえるように。


私は、巫女です。


預言者です。


だけど、預言を聞く前に私の声を聞いてもらいたいのです。


昨日の礼拝で、北方からわざわざやってきた農民の男性を見ました。


げっそりと痩せていました。


それでも、必死に祈る姿を見ていて、胸が苦しくなりました。


目に見えるものだけが世界の全てではないのですね。


カーリーという教えを聞いたことがありますか。


貧しい人々に自由と平等を与える救世主が現れるという教えです。


北方の一揆は、その教えを信じる人々によって起こされたと聞きます。


本当に救世主がいるのでしょうか。


だとすれば、あの男性がカーリーの教えを乞えば、これ以上痩せることはないのですね。


皮肉ではありません。


私に力がないのであれば、それもよしということです。


もちろん、私は巫女なので、自分の責務を全うします。


私は、祈りを捧げ続けます。


救世主にはなれないけれど、祈りことはできますからね。


それから、あの男性の荷物の中にパンとチーズをこっそりしのばせることだってできるのですよ。



あなたの友こと、白磁宮の巫女 ミーシャ・マルケウス


自室にて


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