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エンシェントスピチュアルズ【加筆修正版】  作者: りばーしゃ
第一章~炎を操る少年~
3/11

あれから…5年。




…あれからスライは立派に成長し、共に修行を重ねて出来た仲間である少年、バルロと共に仕事をするまでになっていた。


 舞台は5年後、武術の街〝ガンゼルド〟から遠く離れた都市〝パルクオラ〟。







「…ハァ…ッ……ハァ…ッ……!」




 暗闇の中、一心不乱に路地を駆け抜ける一つの影があった。


 高い建造物に囲まれた、薄汚れた道並みに転がるゴミをお構い無しに撒き散らし、後ろを気にしながら。


 一般人にしては容姿は少しガタイが良い程度…だが、衣服に着いたその〝血痕けっこん〟が明らかにその男を普通では無くしていた。




「……ハァ……へぇ……ハァ……ここまでくりゃ……」




 影は真夜中の裏路地に入り、壁に背にして休む。


 僅かに付いた街灯に照らされ、きらめく右手。


 そこには宝石やらダイヤやら金目の物が乱雑に握られているのを見ると、どうやら強盗(盗んできた)らしい。


 荒れた息を整えて手にしたブツを見つめ、音沙汰の無い路地で笑みを浮かべた。


 上手く巻けた───と。




「お疲れさん」




「だ、誰だ!?」




 だが現実はそうはいかない。悪さをすればそれ相応の代償が必要だ。


 盗人はその声にひどく驚き、近くにあったガラス瓶を倒してしまった。


 見上げた声方向、自分の真上、街灯が着いた頑丈な壁のへりに僅かに見える人影。


 暗い闇の中から声をかけられる、よもやそんな場所から声が聞こえるなど……驚くのは無理もない。




「ヒルベ・ガーストだな。大人しく捕まってもらうぜ」




 人影は───成長を遂げたスライだった。


 赤いノースリーブの上にへそまでの黒いローブ、赤のベルトを巻いた青いズボン……そして背中には何かを背負っている。


 ビルの縁に座り片膝を立て、盗人を見下ろす。なんの気無しに、笑みを僅かに浮かべながら。




「なっ…! なんで俺が通る道が!?」




「ここらの盗人は全員ここを通るからね。毎回みりゃバカでも分かるぜ。お前もどーせ〝ここのもん〟じゃねぇだろ」




 スライはにししと薄笑いを浮かべた。


 この場所は一本道、行った所で野良猫達の集会がある行き止まりしか無いのを地元の人は知ってる。


 だが余所者よそものはこの事を知らず、わざわざこの人の少なそうな出入り口感のある〝薄暗い裏路地〟へと足を運ぶのだ。




「ちっ! これでも食らいな!」




 盗人は懐から銃を取り出し、スライに向けて発砲した。


 強盗の時にも使っていた己の商売道具を。


 だらりとこちらを見ながら薄ら笑いを浮かべるスライを、男は感情のままに。


「くたばりやがれ」───と。




「おっと」




 その刹那、スライは背中から何か長い物を取り出し、銃弾をいとも簡単に弾いてしまった。




「えっ…?」




「よっ───と」




 倒れるように下へと降りたスライはその刃の着いた長物、〝赤い薙刀〟を盗人の首元へと突き付ける。


 まさに一瞬の出来事であった。


 盗人は何があったか分からず呆然としながら銃を足下に落とした。




「大人しく捕まってくれや」







「いやー、楽な仕事だったな。ただ待ってるだけで30万。儲ーけた儲けた♪」




「スライ、楽ばっかしてると腕が落ちるぞ」




 笑顔で札束を数えるスライにそう口を開くのは修行仲間、現在の仕事の相棒であるバルロだった。


 鮮やかな黄色く長い髪を伸ばし、黄色と黒が混じったパーカーに真っ黒なズボンを着てギルドのテーブルのある一席に座っている。




「鍛練は怠ってねぇよバルロ。師匠からの言いつけだしな。つーかもっと良い仕事ねぇのかなー?そのせいで身体が鈍っちまうような……」




「確かにな。まぁしかたねぇだろ」




「師匠が言ってたこと当たってるんかな?なんも起こらねぇ気がするけどな」




「いや、師匠の言ってることは当たってるだろ。現に〝化け物〟も出てるらしいし」




 そう、最近ギルドで不審な事が聞こえていた。人のなりをした〝化け物〟を見かけた───と。




「化け物ねぇ…いっちょ戦ってみてぇな」




「ま、それはいずれあるだろ。とにかく飯食おうぜ。腹減った」




「…んじゃ戻るか」




…スライ達は知るよしも無かった。運命はぐるまは動き出したということを……







 時刻は深夜。スライは自分の部屋にて体力回復の為の仮眠をしていた。




「………」




───しかし、仮眠の最中、夢の中に居るはずのスライがある〝感情〟に襲われていた。




「……う…うぅ…やめろ……やめ…てくれ……」




───ニ…ク……イ………ニ……クイ……!───

 



 腹の底から抉られるような、どす黒い感情。


 今すぐにでも何かを壊したいような……憎しみ。



(…やめてくれ…これ以上俺を掻き乱さないでくれ!!)




───ス…ベテ……コロ…シテ…ヤル……!!───







「うわぁあああ!!」




 否定するような悲鳴をあげ、スライは目覚めた。


 全身にびっしりと浮かぶ己の汗と共に息を整えて行く。ああ、いつもの〝あの夢〟だと。




(またあの夢か…クソッ…!…日毎に身体を乗っとられそうだな……)



 スライが右腕を押さえていると、乱暴に部屋のドアが開く。


 こんな風に開けるのはアイツだと分かっている。



「───スライ! いい仕事見つけた…って、それどころじゃなさそうだな。またあの夢か」




 乱暴にドアを開けた主、バルロは困ったような顔をして、頭を掻いた。



「ああ……」




「…しっかりしろよ。それじゃあ、いつ命落とすかわからねぇぞ?」




「ああ、すまない……ところでこんな時間になんのようだ?」




「実はな、ここから東にある倉庫に凶悪犯が一人、人質を盾にして立てこもってるんだとよ」




「ああ、あの倉庫か。でもそれだったら警察が何とかしてくれるだろう?」




 にかり、と笑うバルロにスライはそう当然のように答えた。


 あの倉庫は確かどっかのコレクターが博物館代わりに所有している場所、警備も居るし問題は無い筈だと認識しているからだ。




「それがよ、何やら〝不思議な術〟を使うらしくてな、警察じゃあ手出しが出来ないらしい。報酬は50万バイスだ」




「へぇ、不思議な術か……おもしれぇ、最近大した仕事もしてねぇしいっちょやるか」




「そうこなくっちゃな。報酬は俺がもう貰ってあるからすぐ行くぞ!」




「お前…ちゃっかりしてんなぁ…仕事が終わったら俺にも分けろよな」




「分かってるって。さぁ、とっとと行くぞ!」




 なんだかなぁ、とスライは納得がいかないような顔でバルロとその倉庫へと向かった。




よ い お と し を 。

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