氷を操る男
…
「…ここの武器を保管している場所を教えろ」
「目的は何だ?」
「うるせぇ! 黙って答えろ!」
倉庫には少数の警察が一人の男と人質を囲んでいる。
青髪の短髪をした、ベージュのコート姿の男が手から鋭利な氷を出し、人質の女の喉元に突き付けては叫んだ。
「このままじゃ人質が…!」
警察は人質を解放するために説得を続けるがこのままでは持ちそうにない事は明白。
その凶器と化した氷の刃は女性の喉元に刺さり、血が滲み始めていた。
「奴は武器を手に入れて何をする気だッ?」
「…もしや奥深くに祭ってある神器が狙いではないのか……?」
「…何……ッ!?あの古代人が創り上げたという神器か…?このままじゃ大変だぞッ!!」
…
「…スライ、とっととぶっ飛ばしに行こうぜ」
倉庫へと着いていたスライ達二人はそのやりとりが見える横の窓にてその様子を見ていた。
「ダメだバルロ、相手はまだ能力もわからない。もし、人質を盾にされたらどうすんだ」
「ならどうすんだ!このままじゃ人質共々やべぇぜ!」
「大丈夫だ、俺にいい案がある」
…
「さぁ、早いとこ教えねぇとこの女の喉元をかっ切るぞ!」
謎の男が出した氷が人質の女の喉元に触れたままだ。
冷たい、鋭利な刃とは反対の、暖かな赤い雫が、つう、と首筋へと伝う。
「ひっ……」
恐怖と、己の血が流れる感触でその表情が歪む。
───と、その時、激しい破砕音と共に窓ガラスが飛び散り、影が現れた。
そしてそのガラスを突き破った影は不意を突いた脇腹へと───突き刺さる。
「!? ぐわっ!」
突然の音とを現れたのはスライである。
その男は不意打ちの蹴りを受け、その脇に積んであった木箱に突っ込んでいく。
木々を薙ぎ倒すような荒々しい音を響かせ、木箱のタワーが崩れた。
「やべっ…死んだか?」
蹴りの威力が強過ぎたかとスライは思ったが…それよりも人質となっていた彼女だ。そちらはバルロが駆けつけていた。
「大丈夫か?…ッ……」
そう倒れた彼女を解放しようと倒れた身体を起こすが、その息を少し荒げ、首筋を持っていたであろうハンカチで抑える姿に「…綺麗だ」とバルロは正直に思ってしまい、顔を逸らした。
赤いTシャツの上に皮のジャケットを羽織り、下にはぴちりとしたジーンズと動きやすそうな服装。
たおやかに肩まで伸びた茶色の髪の毛先は恐怖で濡れたであろう汗で僅かにまとまり、本人はわざとでは無いだろうが、そこから覗く素肌はより色気が血と共に滲んでいた。
「…私は大丈夫。あっ! 危ない!」
スライの真後ろから迫り来る飛来物に、彼女がそう叫んだ。
それは氷塊、頭をカチ割るのなど容易い程の大きさの物が砲弾のように迫り来る。
「ふん……」
背中から背負っていた薙刀を取り出し、飛んで来た氷塊を───切り落とした。
「…不意打ちとは卑怯なことすんじゃねぇか……」
がらがらと木箱の山を押し退けながらその男は苛立ち混じりにそう零した。
「人質取って物事を要求する奴に言われたくねぇな」
「まぁいい……テメェのお陰で隠してる在処が分かったしな。あばよ!」
くい、と男が顎でその───木箱で隠されていた通路を指しては勝ち誇ったように叫びながら走って行った。
「向こうには神器が祭ってある!早く追いかけてくれ!!」
「神器…!? 分かった!バルロ! 彼女を頼む!」
「ああ、早く行って来い」
警察の一人の言葉にそう頷いたスライは彼女をバルロに任せ、男を後を追いかけた。
…
「……!…あれか……」
男は隠し通路の奥、神器が奉られている場所に辿り着いていた。
セキュリティという物は見当たらない。身の丈程の細長い箱が祭壇のような場所に丁重に置かれているだけだ。
───が、箱はびくりとも動かない。
「……チッ、しっかり鍵(封)がされてやがるか。まぁいい…このまま組織に───」
「そいつを渡してもらおうか」
男が神器の入った装飾が施された箱を持って行こうとすると、追いついたスライがそれを引き止めた。
「…そいつは無理だな」
「ならしかたねぇ…テメェを倒してそいつを頂く」
「…お前には出来ねぇよ……」
男はその言葉にクククと不気味に口角を吊り上げた。
持っていた箱を置き、スライの方へと振り返る。男の表情に焦りの色は見えない。
まるで───当然とばかりに。
「何?」
「…お前はここで───死ぬからなぁ!!」
男が両手を振り上げて叫んだ刹那、軋むような音と共に冷気が宙へ重なり、混じり、上空に幾つもの氷塊が現れた。
それを見て相手が視線を宙にやったその時……男は再び叫び、両腕を振り下ろす!
「───死ねぇぇ!!」
己へと降り注ぐ幾つもの氷塊。
その大きさは先ほど飛んできた物とは比にならない。
男は練りこんでいたのだ。必ずくるであろう奴を───この天井だけ高く、狭いこの空間で仕留める力を!
「…纏火」
氷塊が襲いかかるのにも動じず、ただ目を閉じて左手を突き出していた。
幾つもの氷塊が砕ける、怒号のような音と氷霧が辺りを覆う。
手ごたえ有りだ。そう男は確信して息を付いた。
「……ハァー…ッ…ハァー…ッ…邪魔くせぇ野郎だ。さて、雑魚はこれぐらいにしてさっさと―──」
「……誰が雑魚だって?」
「ッ!?───ッチィッ!!てめぇどうやっ───ッ!!」
再び箱を手にしようとした男はその声に、現れた【赤き塊】に驚愕した。
氷霧が消え、スライが居たはずの目の前には炎の塊が現れていたのだ。
「…この程度じゃ俺は殺せねぇよ」
左拳で炎を握り潰すようにそれを消しながらそう呟く。
スライは左手を前に出し、炎の塊を作り、身を守っていたのだ。
「俺に取って邪魔くせぇのはそういうことをするテメェらだよ」
遅くなってすまんて(´・ω・`)




