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12.任務? 水族館のデート②

 水族館の人気者、チンアナゴ。コイツらって、どこでも人気よね。


 砂から飛び出したヒョロッとしたボディにひょうきんな顔立ち。この間抜けな雰囲気が、なんとも愛らしい。


「どうしてみんな同じ向きを向いているのかしら?」

「水が流れてくる方向に体を向けて、水流に乗った餌をキャッチするためらしいよ」


 蒼二君が私の疑問に答えてくれる。なるほど、ゴハンのためか。

 じゃあ、こちらの絡まり合っているヤツらはなんだろう? 求愛行動か何かかしら?

 しかし、これは蒼二君には聞きにくい……。


「あっ、このチンアナゴくっついている。仲良しさんなのかな?」


 隣のご家族連れの子供が親に質問する。耳をダンボにして聞く私。


「違うみたい。どうやら食べもの探しに夢中になって、お隣さんに絡まっちゃうみたいよ」

「えーっ、チンアナゴってマヌケ!」

 

 子供がケタケタ笑う。


 ……なるほど。


 ジッとチンアナゴを見つめる。


 見た目どおりのおとぼけぶりね。

 やるわね、コイツ。


「生富さん、さっきからずっとチンアナゴを見ているね」

「うん。なんか愛嬌があってかわいいのよね」


 ニコッと蒼二君に笑いかける。


「ここの水族館では、チンアナゴのグッズをたくさん売ってるみたいだよ。後で行ってみる?」

「ホント? 行ってみたい!」


 お土産ショップは出口の近くにあるらしい。じゃあ、最後か。楽しみができちゃった。


「蒼二君。私、マイワシのトルネードが見たい。もうすぐ時間じゃなかった?」

「確かにそろそろだね。じゃあ、Cフロアの方へ向かおうか」

「うん!」


 マイワシのトルネードはここの水族館の名物。餌袋に合わせてイワシの群れが渦を作り出すらしい。


 少し急ぎ気味に、マイワシの水槽へと向かう。

 あっ、人だかりができてる! さすが、人気のイベント。


 私たちもその人だかりの後ろにつく。水槽からは少し離れた位置だ。


「大丈夫、生富さん? 見える?」

「うん、なんとか」


 人と人との合間をぬって、何とか水槽を見上げる。蒼二君は私のすぐ後ろに立っている。もっと早めに来るべきだった。


 まだかまだかと待ち構えていると、途端にフロアの電灯が消えて辺りが暗くなる。代わりに、水槽が青い光に照らし出された。いよいよ、始まるらしい。


 音楽が鳴り、マイワシの群れが一斉に動き出す。3万匹のマイワシがまるで竜巻のように、大きな渦を作り上げていく。赤や青、そして緑色のスポットライトを浴びながら、マイワシが変幻自在に泳ぎ回る。その様子は圧巻の一言。


 すごい……。まるで意志を持った一つの生き物みたい。


 マイワシが渦を作り出すたびに、周囲から感嘆の声が漏れる。

 ここにいる誰もが、この幻想的なショーに魅せられていた。


 ショーが終わり、館内が明るくなる。

 

「すごかったね……」

「うん、見れてよかった」


 そんな会話を交わしながら、彼の方を振り返ったその時――


「わっ」


 突然人の波に強く押されて、前につんのめる。

 まずい、転ぶ――

 そう思ったとき、自分の体が何かにぶつかるのを感じた。


「大丈夫? 生富さん」


 心配そうな声。

 蒼二君だ。

 いつのまにか、彼の腕の中に包み込まれている。


「う、うん。大丈夫」

「そう、よかった」


 蒼二君の体温を感じる。


 こ、この体勢は……。

 動揺を押し隠しながら、顔を上げると、すぐそばに彼の顔があった。


 視線が交わり――


「ご、ごめんなさい」


 慌てて彼から離れる。

 そして、そのまま彼に背を向けてしまう。


 ど、どうしよう? 心臓がバクバクいっている。

 驚きと恥ずかしさでパニックになりそうになる。


「いや、俺の方こそごめん」


 蒼二君の声もどこかうわずっている。


 だめだ。冷静に、冷静にならなきゃ。

 こんなことで動揺するなんて――


 心臓の音がうるさい。

 お願い、いい加減おさまって!


「あの、蒼二君」


 なんとか呼吸を整え、振り向いて彼の顔を見る。


「……助けてくれてありがとう」


 やっとのことでその一言を絞り出す。

 大丈夫だろうか? いつもどおり振舞えているだろうか?


「うん……」


 蒼二君は私から目を逸らすと、つぶやくように言った。


◆◇◆◇◆


「わぁ、きれい……」


 薄暗い部屋の中、大きな水槽の中に数え切れないほどのクラゲがフワフワと浮いている。

 赤、青、紫、緑。ライトに照らされ、様々な色に輝くクラゲは、海の宝石という言葉がぴったり。

 なんといっても形がカワイイ。小さくて丸っこくて。透明で透き通っているのもキレイ。


「こっちの水槽では、クラゲの成長過程が見れるみたいだよ」


 一緒にアクアラボと呼ばれる水槽を見に行く。まるで研究室のような造りをした部屋に、小さな水槽がたくさん置いてある。各水槽に、生後1日目から成体になるまでのクラゲを成長段階にわけて入れてあり、クラゲの成長過程が見れる仕組みだ。


 へぇー、クラゲって成長によって、姿形が変わるんだ。


 蒼二君を見ると、熱心に水槽を覗き込んでいた。どうやらクラゲの生態に興味があるみたい。

 説明書きをちゃんと読んでる。私はそういうの飛ばし読みだけど。


 そういえば、ジョーカーにクラゲの怪人はいたかしら? 魚の怪人もいるから可能性はあるわね。

 私も組織の怪人を全部把握しているわけではないのよね。末端怪人だけでも1,000人はいるわけだし。……今度調べてみようかな。


 アクアラボを出た後は、クラゲのトンネルという水槽をくぐり抜ける。まるで水中を散歩しているみたい。


 いいなぁ、クラゲって。何の悩みもなさそうだもの。私も何も考えず、クラゲみたいにフワフワ漂っていたい。


 フワフワ、フワフワ……。


 そんなことを考えながら、トンネルを抜けると、お土産ショップが目の前にあった。


 蒼二君が言っていたのは、これね。じゃあもう出口なんだ。


 少し寂しい気分になりながら、二人でお土産ショップに入る。イルカやアシカ、魚などのぬいぐるみがたくさん置いてある。もちろんチンアナゴもあった。


 チンアナゴって、ぬいぐるみにすると微妙ね……。なんというかバランスが悪い。

 あっ、でも文房具はかわいい。このイラスト、あのとぼけた感じがよくでている。


「何かいいのあった?」

「うん。これかわいいなって」


 私が手にしたのは、自由帳とスタンプ。

 デフォルメされたチンアナゴとニシキアナゴのイラストがカラフルな色合いで描かれている。


「じゆうちょう?」


 蒼二君が不思議そうな顔をしている。


「そう、自由帳。蒼二君、自由帳って知らない?」

「うん、聞いたことないな」


 そっか。アメリカにいたから、馴染みがないかもしれないわね。


「自由帳っていうのは、線がないノートのことよ。ほら」


 ペラペラ、自由帳をめくってみせる。


「あっ、本当だ。何に使うの?」

「なんでも。自由帳だもの。線がないから、普通のノートよりもイラストが書きやすいの」

「生富さん、イラスト書くんだ?」

「たまにね。思いついたこともよくメモに書き留めたりするの」


 最近は、舞の記憶を忘れないうちに書き留めているのだ。イラストもまじえて。


「絵が好きなんだ」

「まぁ……」


 前衛的な絵とよく言われるけど……。


「今度見せてよ」

「それは無理!」


 私が即答すると、蒼二君が驚いた顔をする。


「なんで?」

「だって恥ずかしいもの。私の絵は一般ウケする絵じゃないし……」

「そう言われると、ますます見てみたくなるな」

「ダメ!」


 頑なに拒否する私。蒼二君は残念そうな顔をした。

 そんな顔しても、無理なものは無理!


「それよりも、蒼二君は何か買うの?」


 さっきから蒼二君は手に本を持っている。

 何の本だろ?


「俺はこれを買おうと思ってる」


 蒼二君が手に持っていた本を私に見せる。


「飼育員育田(いくた)の備忘録?」

「うん。伝説の飼育員、育田(いくた)さんのエッセイらしいよ」


 なるほど、飼育員のエッセイ。


「蒼二君って、生き物飼ってたりするの?」


 ふと気になって、聞いてみる。


「今は飼ってないけど、実家ではよく飼っていたよ。小さい頃は、外で色んな生き物を拾ってきては親に怒られてた」

「なるほど……」


 図鑑だけでなく、本物の生物も好きだったわけね。


「ある日、ポケットに虫を入れて帰ったら、母親がそのまま洗濯してしまって、大変なことになってね。それからは控えるようになったんだ」

「……」

「あの時の母さん、無茶苦茶おっかなかったな……」


 しみじみと蒼二君が言う。


 蒼二君って……。


 そういえば、私も幼稚園の頃に、虫を持った男の子に追っかけられたことがある。

 その子は、自分の成果を見せびらかしたかっただけみたいだけど、当時虫が苦手だった私には、嫌がらせ以外の何ものでもなかった。


 しかも、その子、虫を捕まえる度に、私に見せに来るのよね。いいものやるって、虫を手渡されたこともあるし……。結局、“いじめられた”って言って私両親に泣きついちゃったの。その子には悪いことしたな。


 蒼二君も、そんな感じの子だったのかしら……。


 私がじっと見つめると、蒼二君は不思議そうな顔をした。

次回、木曜日に更新。

「相談! ジョーカーを倒すには…」

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