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05.不穏! 裏切り者の動向

「私に伝えることって何?」


 執務室に入った私は、早速カマキリソルジャーに尋ねる。


 パソコンに向かって作業をしていたカマキリソルジャーは、その手を止めると、淡々とした表情で答えた。


「MRF株式会社の山田が死んだ」

「えっ……」


 一瞬、言葉を失う。

 山田って、あの山田よね? 私が任務で尋問した。


「山田が死んだってどういうこと?」

「そのままの意味だ。山田は死んだ。いや、殺されたんだ」

「……殺された?」


 なにそれ……。

 呆然としている私を無視して、カマキリソルジャーが話を続ける。


「ジョーカーが山田を査問する予定だったのは知ってるな?」

「……ええ」


 確か今回の横領の件について、カマキリソルジャー自ら尋問するって聞いてたけど……。


「構成員が山田を拘束しに行ったところ、奴の死体が自宅で見つかった」

「本当に殺されていたの? 自殺じゃなくて?」


 ついそんなことを聞いてしまう。


 だって、あいつ様子がおかしかったもの。あれなら自殺してもおかしくない。

 しかし、カマキリソルジャーは首を振る。


「いや、自殺じゃない。奴の首には締められた跡がくっきりと残っていた」


 首に絞められた跡……。


「犯人はわかっているの?」

「それはまだわからない。現在、調査中だ。そこで、お前に聞きたいことがある」


 カマキリソルジャーがいつになく厳しい表情をする。


「……何?」

「山田を尋問した時に何か気づいたことはないか?」


 気づいたこと……。それは……。


「前に報告したとおりよ。それ以上のことはわからないわ」

「それは本当か?」


 探るような目。


「どうしてそんなことを聞くの? 私を疑ってるわけ?」

「いや、お前を疑っているわけじゃない。ただ、山田はこちらが拘束しようとした矢先に殺されている。今回の横領の件と無関係とは思えない。あまりにもタイミングが良すぎる」


 まぁ、確かにタイミングがよすぎるけど……。


「他の理由で殺された可能性は? あいつ、嫌なヤツだったわよ」

「調べてはみたが、殺されるほどのトラブルは見つからなかった。それに今回の山田の横領についてはいくつも不審な点がある。口封じのために殺された可能性が高い」

「……それで?」

「となると、山田を尋問したお前も危ない。お前に秘密がバレていないか、犯人は疑うだろうからな」

「でも、私は何も聞いてないのよ? それは犯人も山田を殺す前に確認してるんじゃないかしら?」


 山田の記憶は催眠術で書き換えてある。私にしゃべった内容を山田は忘れていたはずだ。


「だとしてもだ、何か仕掛けてくる可能性はある」

「……私、ジョーカーの大幹部よ? よっぽどの命知らずでない限り、下手に手を出してこないと思うけど」

「ジョーカーに喧嘩を売る時点で、そのよっぽどの命知らずに該当するんじゃないか?」

「それはそうだけど……」


 なにかしら? カマキリソルジャーのこの感じ。

 ……コイツ、何か知ってるんじゃないの?


「ねぇ、本当に犯人に心当たりないの?」

「心当たりはない。だが……」

「だが、なによ?」

「今回の件、内部犯の可能性がある」

「……つまりジョーカー内に山田を殺したヤツがいるってこと?」

「そうだ」

「最悪ね……」


 本当に最悪だ。このままでは私の身も危ないかもしれない。


「スパイダーレディ、これだけは言っておく」

「なによ? 恐い顔して」

「何か知っていたら、すぐに言え。どんなことでもいい。気がついたことがあればすぐに報告しろ。でないと、取り返しのつかないことになるぞ」


 取り返しのつかないこと……。


「それと、この件は誰にも言うな。ドラゴンフライヤーにもだ」

「わかってるわよ。誰にも言わないわ」


 ジョーカーに裏切り者がいる。そんなこと、おいそれと言えるわけがない。


「もういいかしら? 私、スターレンジャーの任務のこと、考えなきゃ」

「ああ。俺が伝えたかったのはこれだけだ」

「そ。じゃあ、私、行くわね」


 帰ろうと出口に歩き出した私の背に、カマキリソルジャーが声をかける。


「俺の言ったこと、忘れるなよ」


 返事もせず、私は執務室を出た。


◆◇◆◇◆ 


 山田が殺された……。


 内部犯というのなら、殺したのは間違いなく()()()だろう。カマキリソルジャーの言うとおり、口封じのために殺したに違いない。


 問題は、私のことに気付いているかどうか。山田の記憶はちゃんと書き換えておいたから、バラした内容はわからないはずだけど……。


 でも、安心はできない。だって、アイツは私の能力を知っている。当然、私が山田の記憶をいじった可能性も考えるはず。


 それにしても、アイツが人殺しまでするなんて……。考えが甘かった。そんなことはしないと思っていたのに。バレていることがわかったら、なにをしてくるか……。


 先程のカマキリソルジャーの忠告めいた言葉を思い出す。


 ……カマキリソルジャーのヤツ、どこまでわかっているのかしら。私の言うこと思いっきり疑ってた。付き合いが長いせいか、ヤツにはすぐに嘘がバレてしまう。すっとぼけてはみたけど……。


 本来なら裏切り者のことを報告すべきなんだろうけど、どうにも気が進まない。そもそも、私自身ジョーカーを裏切るつもりなのだ。むしろ裏切り者と協力すべきでは? とも思う。

 でも、なんだか危険な感じがする。関わり合いにならない方がいいっていうか……。勘だけど。


 うーん……。


 ……やっぱり何も知らないフリをしておこう。相手の目的がはっきりしない以上、近づくのも危険だ。下手に動かない方がいい。もちろん注意は必要だけど。


 今は、差し迫った問題をなんとかすべきね。スターレンジャーの任務はうまく立ち回らないと、まずいことになる。


 とりあえず、副官に相談してみようかな。今日の会議での決定事項も報告しないといけないし。


 そう決めると、私は怪人の居住区に向かって歩き始めた。


◆◇◆◇◆  


「綾のやつ、ふざけやがって!」


 ダン! 龍司がビールのジョッキを机に叩きつける。


(荒れてるわね……)


 B・Bはそっとため息をつく。


 ここは、ジョーカーの基地から一駅離れた飲み屋街、蜻蛉横町(かげろうよこちょう)。どこかレトロな町並みが残る、サラリーマンたちのオアシスである。


 その蜻蛉横町のとある居酒屋で、B・Bと龍司は飲んでいた。


 会議の後、B・Bは仏頂面をした龍司に声をかけられたのだ。今から飲みに付き合え、と。 

 その時から、彼の機嫌は最悪だった。


 先程、注文を取りに来た哀れな店員が、怯えていたほどだ。

 もっとも、それは彼だけのせいではないかもしれないが……。


「あいつ、絶対何か隠してやがる」

「隠しているって何を?」


 B・Bが尋ねる。


「さぁ、それはわからねぇ。ただ、あいつがああいう態度をとるときは、必ず何かあるんだ」

「……考えすぎじゃない?」

「いいや、絶対何かある」


 きっぱりと言い放つ。どうも、彼の中でそれは決定事項のようだ。


「隠し事ねぇ……。でもそれがどうかしたの? それって、そんなに騒ぎ立てること?」

「はぁ? 何言ってんだお前」


 龍司の機嫌がさらに悪くなる。


「何って……。綾ちゃんにだって、隠し事の一つや二つぐらいあるでしょ。年頃なんだし」

「そういう問題じゃねぇだろ」

「じゃあ、どういう問題なのよ?」


 B・Bは皿の上の枝豆に手を伸ばす。

 やっぱりビールには枝豆だ。この組み合わせ、もはや鉄板である。


「いいか。あいつが隠しているのはおそらくあのスターなんとかっていう連中のことだ」

「……そうなの?」


 さっき、何を隠しているかわからないと言ってなかっただろうか?

 そう思いながら、B・Bは枝豆を口に放り込む。


 うまい! 絶妙な塩加減。手が止まらない。

 

「ああ、間違いねぇ。お前、今日の会議で変だと思わなかったか?」

「変って?」

「あいつ、任務を自分から引き受けやがった」

「そういえば……」


 確かに違和感があった。


 綾は、任務を積極的に受けるタイプではない。むしろ、どうやってサボろうかと考えるタイプである。

 彼女が自分で任務をやると言い出した時、B・Bも不思議に思ったのだ。


「確かに変だったわね」

「だろ?」


 龍司が指の代わりに、箸でB・Bを指す。


「あいつ、いつも嫌々任務を引き受けてるのに、今回の任務に限っては自分から立候補しやがった。どう考えてもおかしいだろ。あいつらしくねぇ」

「……まぁ、変といえば変だけど、あんたが綾ちゃんのことバカにしたから、意地になったんじゃないの? 綾ちゃん、プライド高いし」


 綾は半人前扱いや子供扱いされることを嫌う。会議中でも、不機嫌になったり意地を張ることがよくあった。

 B・Bから言わせると、そういうところが子供なのだが。


「それだけじゃねぇ。あいつ、会議の後で、俺にあの連中と戦うなって言ってきやがった」

「それは単純にあんたのことが心配だったからでしょ」


 不思議でもなんともないことだ。


「それはそうかもしれねぇが、やけに気にするんだ。まるで何かを恐れているみたいに。今日だけじゃねぇ。前に連中の噂を伝えた時も、すごく不安そうにしてたな」

「そりゃ不安にもなるでしょ。何人もヤられてるんだから。しかもあんた、奴らのこと強いってさんざん言ったじゃない」

「それはそうだが……」

「結局、綾ちゃんがあんたのこと心配してるって話でしょ。今回の任務を引き受けたのもそれが原因よ、きっと。あんたに無茶してほしくなかったのよ」

「……」

「愛されてるわね」


 これにて一件落着。B・Bがそう話を締めようとしたとき、龍司が待ったをかけた。


「お前、何勝手に納得してるんだよ」

「勝手も何も、すべてスッキリ解決したじゃない」

「あいつが何を隠しているかわからねぇままだろうが」

「きっと大したことじゃないわよ」

「んなことわかんねぇだろうが」

「それこそわかんないでしょ。結局綾ちゃんに聞くしかないんだから」

「……チッ」


 龍司が舌打ちする。やはり今日の彼は相当機嫌が悪い。

 理由は分かっている。


 龍司は綾がスターレンジャーの任務を任されたことが、気に入らないのだ。

 なんだかんだ言って、彼女のことが心配なのだろう。


 それにしても……。

 B・Bは不機嫌そうにビールを飲む龍司を見る。


 前々から気になってはいたが、二人はどういう関係なのだろうか?


「ねぇ、ドラゴンちゃんは綾ちゃんのことどう思ってるの?」

「は? なんだよいきなり」


 カラン、龍司が持つジョッキの氷が鳴った。

山田については「28.困惑! ジョーカーより恐いもの」参照


次回、日曜日に更新。

「注目! 怪人たちのスター“ビッグ5”」

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