24.決戦! Dランドのデート③
「俺たちってことは、紅一君たちも?」
「うん。俺の親と紅一たちの親は仕事仲間なんだけど、アメリカのとある研究所に勤めていてね。俺らも小さい頃からずっとアメリカに住んでいたんだ」
へー、アメリカ。でも、ずっとアメリカに住んでいたという割には、英語をしゃべっているとこ見たことないけど……。
「……そうなの。じゃあ、両親と一緒に最近日本にやってきたの?」
「いや、両親はアメリカで働いているよ。日本に来たのは俺たちだけ」
「えっ、じゃあ、どうやって暮らしているの? 誰か知り合いが日本にいるの?」
「知り合いはいない。俺たち三人で暮らしてるんだ」
「へぇー……」
知り合いもいないのに、子供だけで日本に……。なんだか、すごい話ね。
そういえば、星座戦隊スターレンジャーでも、ヒーローの家族は一度も出てこなかった。あれはテレビの中の話だから変に思わなかったけど……。
彼らの親は何の研究をしているのかしら? もしかしたら、スターレンジャーに関係することかもしれない。彼らが日本に来たのも、ジョーカーを倒すためとか? ……ありえる。
「蒼二君たちだけで最近日本に来たのは、何か理由があるの?」
「えーっと、それは……」
言いにくそうにしている。やっぱり、スターレンジャーの関係かしら……。
「ごめん。少し複雑な事情があって……、言えないんだ」
蒼二君の困った顔。私は慌てて首を振る。
「ううん、別にいいの。ちょっと疑問に思っただけだから。ごめんなさい。考えなしに聞いちゃって」
「いや、謝ることないよ。不思議に思って当然だし。話せればいいんだけど、これは俺だけの問題じゃないからさ」
「気にしないで。誰だって、人に言えないことぐらいあるもの」
私なんか人に言えないことばかりだもの。蒼二君の気持ちはわかるつもり。
まぁ、日本にきた理由はちょっぴり、いやかなり気になるけど。
「本当にごめん」
蒼二君が申し訳なさそうな顔をする。
……そんなに気にしなくてもいいのに。
「あの、蒼二君」
「なに?」
「そんなに気を遣わないで。もっと気楽にして」
「気楽に?」
「うん。できれば、紅一君たちと同じように接してほしい」
思い切って言うと、蒼二君が目をしばたたかせる。
「生富さんを? 紅一たちみたいに?」
「そう」
ダメかしら?
「それは難しいな……」
断られてしまった……。
「そりゃあ、私と蒼二君は会ったばかりだし、いきなり打ち解けるのは難しいかもしれないけど……」
すねたように言うと、蒼二君が慌てる。
「いや、俺が言いたいのはそうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
「つまり……」
「つまり?」
「……いや、なんでもない」
目を逸らされてしまう。
「えっ、なにそれ?」
どういうこと? 気になるんだけど。
「えっーと、ほら、紅一たちは色々と型破りだからさ」
困ったように彼が言う。
「……うん」
「それに、俺、生富さんのことまだよく知らないし……」
「それは、そうだけど……」
何か釈然としない。
「そうだ。さっき、俺たちの子供の頃のこと聞いただろ? 今度は、生富さんの話を聞かせてよ。どんなことでもいいから」
いきなりの方向転換。
蒼二君、ごまかしたわね。しかし、私の話か……。
「私の話なんか聞いても、面白くないわ」
「そんなことないよ。俺、もっと生富さんのこと知りたいんだ」
そう言って、静かに微笑む。
そんな顔でそんなこと言う? 蒼二君って天然ね。
でも、困った。私の子供の頃の話なんて、人に聞かせられる内容じゃないもの。
けど、蒼二君のこと色々聞いといて、自分のことを何も言わないのもどうかと思うし。
彼は私が話しはじめるのを待っている。
仕方ない……。観念して、口を開く。
「……私は小さい頃から病気で、治療のためずっと施設に入っていたの」
本当は違う。ジョーカーの研究員だった両親が亡くなった後、無理矢理改造人間手術を受けさせられた私は、ジョーカーの研究所に入れられた。
「だから、学校にも通えなかったし、同年代の友達どころか話し相手もいなかったわ」
研究所内に私以外の子供はいなかった。外出することも許されず、毎日毎日、データをとられる日々。外に出られるのは任務の時だけ。
「病気が治って、高校から学校に通えることになったんだけど、うまく馴染めなかったの」
学校に通えると聞いた時、最初は嬉しかった。でも、外の世界は、戸惑うことばかり。
クラスメイトとも、どう接したらいいかわからなかった。案の定、学校生活にも馴染めなくって、いつもひとり。
「だからこうやって同年代の子と遊園地に遊びに来るのも初めてなの」
そのうち、仲良くなることは諦めてしまった。だって、誰も私のことなんか理解してくれない、そう思ったんだもの。
「……」
雰囲気が暗くなっちゃった。やっぱり、私のことなんて話すものじゃない。
「……今日は楽しい?」
静かに彼が問う。
「うん」
私は、いつもの顔でニッコリと微笑む。
「そっか……」
蒼二君がどこか寂しそうに微笑んだ。
「……」
「……」
会話が途切れる。それ以上話をする気持ちにもなれず、ただ黙っていると、蒼二君が口を開いた。
「生富さん、俺と友達になろう」
「えっ、友達に?」
突然どうしたの?
「そう。それでたくさん遊びに行こう。俺この町のことよく知らないから、案内してくれると嬉しい」
「でも、私もあまり知らないわ。さっきも言ったとおり、友達と遊びに出かけたこともないし」
「なら、これから、二人で遊びまくって、たくさん知っていけばいいよ」
「……」
「きっと、楽しいよ」
蒼二君の優しい笑顔。出会った時と同じ。
なんだか、温かい気持ちになる。
「うん。ありがとう、蒼二君」
今度は素直な気持ちで笑うことができた。
◆◇◆◇◆
「かわいい、これ」
桃ちゃんが、フーさんのぬいぐるみをうっとりと見つめている。
今、私たちはフーさんショップの中にいる。フーさんショップっていうのは、フーさんグッズの専門店のことね。フーさんのアトラクションの近くにあるの。
なんだか、Dランドの戦略にはまっている気がするけど、仕方がない。フーさんには抗えない魅力があるのだ。
「買えないかしら……」
ボソッと桃ちゃんがつぶやく。
えっ、本気?
だって、彼女が見ているぬいぐるみ、大きさが2メートル近くあるやつなの。確かにかわいいけど、お値段的にも大きさ的にも簡単に買えるものじゃない。
「やめとけ、桃。こんなの邪魔になるだけだろ」
紅一君があきれた顔をする。
「あら、そんなことないわよ。これぐらい」
「いや、これぐらいって、限度があるだろ、限度が。第一どうやって運ぶんだよ」
「家に直接送ってもらうから大丈夫よ」
桃ちゃんは譲る気なさそうだ。すぐにでも、レジに行きそうな勢い。
「お前、俺にあれだけ無駄遣いするなって言っておきながら、こんなもの買うつもりなのか?」
納得いかないという顔で、紅一君が文句を言う。しかし、桃ちゃんも負けていない。
「フーさんはこんなものじゃないわ。失礼なこと言わないで」
「こんなものだろ? ぬいぐるみのどこが生活必需品なんだよ」
「いいじゃない。少しぐらい」
「だめだ。お前がその気なら、俺も好きなもの買うぞ」
「あんたはダメよ。ろくなもの買わないんだから」
「なんでだよ!」
二人は激しく言い争っている。
「お前らいい加減にしろよ。周りに迷惑だろ?」
蒼二君が止めに入る。すると今度は二人は小声で言い争いをしだした。
「生富さん、あっちに行こう」
「う、うん」
蒼二君と一緒に、二人から離れる。
いいのかしら? 放っておいて。
「大丈夫。しばらくしたら、勝手にやめるから」
蒼二君が私の心を読んだかのように答える。
「そうなの?」
まぁ、蒼二君が言うなら、きっとそうなんだろう。
気持ちを切り替えて、フーさんグッズを見て回る。
「生富さんは、何か買う?」
「うーん、どうしようかな」
かわいいけど、ぬいぐるみはちょっと高いのよね。
あっ、これ。
私は、小さなフーさんのぬいぐるみがついたキーホルダーを手にとって、眺める。
「それが欲しいの?」
「あっ、違う違う。実は、これと同じもの持ってるの。なんだか懐かしくなっちゃって」
「前、来たときに買ったとか?」
「そう。私、これが欲しいって言って、駄々をこねて買ってもらったんだ」
懐かしい……。昔を思い出して、ついつい笑ってしまう。
そうだ、アイツにお土産買って帰ってあげよう。うん、そうしよう。
何がいいかしら。
店をよく見て回ろうとした時、紅一君と桃ちゃんがこちらにやってきた。桃ちゃんは、手に袋をさげている。
「あれ? 何か買ったの?」
不思議に思って、桃ちゃんに聞く。すると、彼女は上機嫌に答えた。
「お兄ちゃんにフーさんのぬいぐるみを買ってもらいました!」
ニコニコの桃ちゃん。対する紅一君は、ゲンナリした顔をしている。
なるほど、そういうふうに決着がついたのね。
桃ちゃんの嬉しそうな顔。なんだか懐かしいような、微笑ましい気分になってくる。
紅一君、いいところあるじゃない。
私はおかしくなって、つい一人で笑ってしまった。
次回は木曜日に更新。
暴走するピンクに、あわてふためく綾。
他の二人はちっとも役に立たない。
もう! 何なのよ、これは。
次回、『決戦! Dランドのデート④』