25.決戦! Dランドのデート④
お土産物を買った後、私たちはランド内のカフェに行くことになった。
そのカフェでは、キャラクターをモチーフにしたかわいいパンやスイーツが買えるらしい。今ちょうど期間限定のパンが売っていて、桃ちゃんがそれを買いたいんだって。
確かに、せっかくDランドに来たんだから、ここでしか食べられないものを食べたいもんね。Dランドのキャラクターはどれもかわいい。私もここのキャラクターは普通に好きだ。
お目当てのカフェに到着する。ピンクと白を基調としたまるでショートケーキのような、かわいらしい外観。いかにも女の子が好きそうな雰囲気。
この店、別名“恋人たちのカフェ”っていうんだって。……不吉な名前よね。
店内に入ると、焼きたてのパンの香りが漂ってきた。
わ、思ったよりもたくさん種類がある! どうしよう? 何を買おうかな。
店内も白とピンクのインテリアで揃えられている。かわいらしい棚にはパンが、ショーケースの中にはケーキなどのスイーツがたくさん並んでいる。
ウキウキした気分で、トレーとトングを持って店内をブラブラする。今の時間帯はどこかでショーをやっているらしく、店内は思ったより空いていた。
うーん、食べたいものを買うべきか、それともかわいいものを買うべきか、大いに迷うところね。……えーい、両方買っちゃえ。
トレーにキャラクターの形をしたかわいらしいパンと、シンプルなスコーンをのせる。
あとは、スイーツね。何にしようかな。
パァンッ!
ん?
突然大きな音がした。
何事かと思い、音のした方を見ると、鉄の塊を天井に向けて立つ男がいた。
はて?
パァンッ!
シャンデリアがはじけ飛ぶ。
破片が床へととび散った。
男が持っているのは……銃だ。
……何かのアトラクションかしら?
周囲の人間も戸惑った様子で男を見ている。
「なんなのよ。なんの冗談?」
気の強そうな女性がポツリとつぶやいた。
その言葉が聞こえたのだろう。
不審な男は、黙って銃口をその女性に向ける。
「えっ、ちょ、ちょっと」
慌てふためく女性。
容赦なく引き金が引かれる。
パァンッ!
タラリと一筋の血が女性の頬から流れ落ちた。
真っ青な顔をして、女性はその場にへたり込む。
えっ、本物?
「う、うそ?」
「どういうこと?」
混乱する人々。
男が再び拳銃を構える。
一瞬にしてパニックの波が店内を飲み込んだ。
「キャァアアアア!」
「うわぁあああ」
「いやぁあああ」
ヒステリックな叫び。
出口の方へと駆け出す人、人、人。
しかし、先程まで開いていた扉はなぜか閉まっている。
パァンッ!
乾いた銃声が響き渡る。
「静かにしろ! 動くと撃つぞ」
怒気を含んだ男の声。店内が静まりかえった。
「この店は俺が占拠した。命が欲しければ俺の命令に従え」
皆が黙って男を見る。
「わかったか!」
荒々しく叫ぶ。
呆然とした様子で男を見る人々。
私はその光景をやはり呆然とした様子で見ていた。
……さっきからこれは一体何なのかしら?
あまりの状況に頭がついていかない。
「……やっぱり、きたわね」
えっ?
いつの間にか、桃ちゃんたち三人が私の側に立っていた。
彼女は、うんざりとした顔をしている。
「ど、どういうこと?」
「犬も歩けば棒に当たる。蒼二が歩けば変人に当たる」
「おい!」
蒼二君がムッとした顔をする。
「人聞きの悪いことを言うな。偶然事件に遭遇しただけだろ」
「いや、お前のせいだろ」
紅一君が間髪入れずツッコんだ。彼はあきれ顔だ。
……さっきから何なのかしら、この人たち。
「話が見えないんだけど、今の状況と蒼二君とにどういう関係があるの?」
「蒼二の“変人ホイホイ”です、先輩。私たちがこんな目にあっているのはそのせいなんです」
は? 意味がわからない。
「……よくわからないんだけど」
「蒼二が引き寄せる“変人”は、単なる変わり者だけじゃないの。犯罪者なども“変人”に含まれるんです。だから、蒼二がいると高い確率で事件に巻き込まれてしまうの」
真面目な顔で桃ちゃんが説明する。
紅一君は隣でウンウンと頷いている。
……この人たち、本気かしら?
「……高い確率ってどれくらい?」
「3割ぐらいですね」
つまり、蒼二君と一緒にいると、3回に1回は事件が起こるってこと?
そんなバカな。
「ほ、本当なの? 蒼二君」
縋るような気持ちで蒼二君を見る。
彼はそんな私を安心させるかのように優しげな顔で微笑んだ。
「まさか。偶然だよ、偶然。常識的に考えて、そんなことあるわけないだろう?」
「そ、そうよね」
私はホッとする。
しかし、紅一君はそんな私を沈痛な面持ちで見つめると、首を横に振った。
「生富さん、蒼二のいうことは信じちゃいけない。残念だけど、全て本当のことさ」
「そ、そんな」
蒼二君の嘘つき!
パァン!
再び銃声が鳴り響く。
今度は何よ?
「お前ら何くっちゃべっていやがる。黙れって言ったのが聞こえなかったのか? ああ?」
あっ、これ私たちに対してだ。
小さい声で話してたつもりだったんだけど、どうも目立っていたらしい。
銃を持った男がこっちへと近づいてくる。
男は私たちの前まで来ると、銃口をこちらへと向けた。
「ガキどもが、いちゃつきやがって。お前らみたいな幸せそうなヤツら見てるとイライラするんだよ!」
そう言って一番近くにいた桃ちゃんをいきなり突き飛ばす。
危ない!
トレーが彼女の手から離れ、パンが床に落ちる。
倒れそうになった彼女を紅一君がすばやく後ろから抱きとめた。
桃ちゃん、大丈夫?
「さぁて、どうしようか?」
男は、ニタニタといやらしい笑いをその顔に浮かべると、銃口をちらつかせる。
……こいつ、調子に乗ってるわね。
そうは思っても、紅一君たちの前では何もできない。
どうしたものか悩んでいると、桃ちゃんがすっと体を起こし、男の目の前に移動した。
そして、彼をジッと見つめ、愛らしい表情でニコリと笑う。
「ん、何だ?」
戸惑う男。
パシッ!
桃ちゃんの足が、男の手を蹴り上げた。
その滑らかで、美しい動き。
拳銃が空へと舞い上がる。
痺れた手を押さえ、呆然とする男。
その顔を桃ちゃんの回し蹴りが襲った。
男がトレー置き場に倒れ込む。がしゃん! 派手な音を立てて、ものがひっくり返った。
桃ちゃんは、倒れた男の方へツカツカと歩いて行くと、片方の手で胸ぐらを掴んで持ち上げる。
足が宙に浮き、苦しそうにもがく男。
「私のパン、どうしてくれるのよ? 最後の一個だったのよ!」
そう言うと、彼女は拳を固め、男の顔に容赦なく叩きつけた。
「うぐっ」
男が呻き声を上げて倒れる。
彼女はすぐさま男の上にのっかかりマウントを取ると、固めた拳を男の顔めがけて何度も何度も振りおろす。
「私が、このパンを、買うのを、どれだけ、楽しみに、してたと、思ってんのよ。ふざけんじゃないわよ!」
拳を受けるたびに、男が呻き声を上げる。
こ、恐い……。
「こ、紅一君、桃ちゃんを止めて。あの人、死んじゃう!」
思わず紅一君の腕に縋り付く。
彼はいつものようにニコリと微笑んだ。
「生富さん。世の中にはどうにもならないことがあるんだ」
悟りきった表情。
……だめだ、この人! 役に立たない。
「蒼二君!」
今度は蒼二君を見る。
しかし、パッと視線をそらされてしまう。
「……ごめん。俺には無理だ」
悲しそうな声。
そ、そんな。
男がボロ雑巾のようになっていく。
もはや虫の息だ。
正直、あの男がどうなろうと私には関係ない。
関係ないのだけど……。
どうにも、あの男と自分の姿が重なって仕方がない。
きっとあれは、未来の私の姿だ。
決して他人事ではない。
男の呻き声が断続的に聞こえてくる。
……もうやめて、やめて桃ちゃん!
しかし、そんな私の願いもむなしく、彼女の気は一向に収まることはなく、警察が駆けつけてくるまで、暴れ続けたのだ。
◆◇◆◇◆
――男は警察に連行されていった。
駆けつけてきた警察官は男の哀れな姿に絶句したが、さすがはプロというところか。手錠をはめ、きびきびと現場検証を行うと、男を抱きかかえるようにしてパトカーに乗せていった。
――桃ちゃんも連行されていった。
当然ね……。
まぁ、彼女は正当防衛が認められてすぐに解放されたけど。
正直、過剰防衛としか思えないけど、相手が銃を持っていたのでよしとされたみたい。
男も派手に殴られていた割に、大したケガはなかったようだし。
戻ってきた桃ちゃんは、恥ずかしそうな顔をしながら、上目遣いで私たちを見た。
「ちょっとやりすぎちゃいました。えへっ」
そう言って、愛らしい仕草でペロッと舌を出す。
……恐い。
「桃ちゃん、いくら相手が悪くても過剰な暴力はよくないわ。ほら、相手に取り返しのつかないケガをさせてしまったら困るでしょ」
勇気を出して彼女に注意する。もちろん将来を見据えてのことだ。
「大丈夫です、そんなヘマはしません。私、そういうのとても得意なんです」
何でもないことのように、ニコニコしながら言う。
……恐い。
「生富さん、桃には俺からもきちんと言っておくからさ、安心してよ」
紅一君が爽やかに笑う。
……あなた、あの時見ているだけで何もしなかったじゃないの。
「桃は手加減がうまいから大丈夫だ。むしろ、俺らが桃をとめようとすると、本気でかかってくるから、下手に手を出さない方がいいんだ」
蒼二君が困った顔をして言う。
……本当? その言葉、信じてもいい?
「まぁ、今日は大変なことになっちゃったけどさ、また皆で遊びに行こうよ。楽しかったし」
紅一君がにこやかに笑いかけてくる。まるで今日のことは“大したことではない”と言わんばかりの様子だ。
そんな彼に私もニコリと笑い返した。
「お断りします」
次回は日曜日に更新。
もう、嫌!
私、龍司と遊ぶ!
次回、『絶品! 中華料理店“大河”』




