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家に帰って、ご飯を食べた後ツイッターを開いた。もう外はコーヒーよりも真っ黒だ。通知を開くと、川中からダイレクトメッセージでゲームの誘いが来ている。俺はゲームをつけて、パソコンのスカイプを起動した。
「ヒロ!?なんで?」、カナンの声が聞こえた。
「おれが誘ったんだよ。天文部の奴らはお前を心配してるようだ。それに付き合わされてる」
「川中は、そういうのには興味ないと思ったんだけどなぁ」
カナンはいつもの話し方じゃなくて、冷たい話し方だった。こっちが素なのかもしれない。今までの振る舞いが全部演技だったとしたら、心に負った傷はどれほどの物だったのだろう。
「もう、切るね」
「待てよ、待ってくれよカナン。なんで友達なのになにも言わなかったんだ」
「かもね、でもヒロは、結城レオと恋人なんでしょ。私よりレオのこと心配してあげたら?私、キスしてたの見たよ。あの歩道橋で。レオはびっくりして、鞄を落としてた」
「え?なんの話だよ。そんなことしてない」
「とぼける気なの?それとも遊びで手を出してるって事?」
「歩道橋の時は、結城が煙草吸おうとしてて、俺が西川から背中で隠しただけだよ。それなのに、急に走り出してさ。声かけようとしたのに」
パソコンからは何も聞こえなかった。
「・・・・・・え?」、カナンがすっとぼけた声を出した。川中が鼻で笑った。
「別に結城とこ、恋人なんかでも全然ないし、本当に関係ないんだよ」
また長い間が開いた。
「はははは、そうかそうか!なんじゃ、勘違いじゃったか!」
人が変わったようにいつもの明るい口調で、カナンは笑い始めた。
「カナン。なんであんなにあそこで叫んだんだ?暗いのが嫌いっていうレベルの話じゃないだろ。なにか酷いトラウマとか、そういうのを抱えてるなら、俺に話してくれないか?」
「やめてよ。忘れてって言ったじゃない!私はそんなところに踏み込まれたくない。その事は触れないで」
カナンが強く震える声で言った。何かがぶつかるような音がして、その後スカイプが切れた。静寂、その後に小馬鹿にしたような、鼻で笑う音が聞こえた。
「情緒不安定だな」
「なぁ。お前はカナンの小さい頃を知ってるんだろ」
「まぁそうだが、お前の期待してるような情報はないぞ。小学校の時はあいつもああいう感じじゃなかったしな」
「どういう風だったんだ」
「強気で高慢だ。しゃべり方はさっきみたいに普通だった。わらわなんて言わないぞ。だいぶ今は丸くなったんじゃないか?目は両方黒だったな」
「楠先生は、カナンと同じ小中出身の人はいないって言ってたのに、どうしてお前は知ってるんだ?」
「小学校の時いろいろあったんだ。地区を越えた知り合いなんてよくいるだろ。まぁたいして知ってるわけじゃない」
「昔のことを教えてくれ」
「契約で守秘義務があるんだ。頑張って本人に直接聞いてくれ」
「なぁ、お前の性格の話かもしれないけど、お前ってカナンに微妙な態度取ってるだろ」
「女が嫌いなだけだ」
川中の女嫌いは有名だ。だが、カナンに対しては態度が微妙に違う。
「でも、カナンに対してはただ嫌いだとかそうは見えない気もする。昔、なにがあったんだ?」
「守秘義務だ」
俺はカナンに対してどうしていいか、考えていた。踏み込むなと言われた。カナンはそこまで人を寄せ付けてはいなかったのだ。俺も含めて。




