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教室について、クラスと席を確認した。俺と柊は同じクラスだ。柊は一番左後ろの席だったみたいだ。俺の席を見た。
席の横には、机の上に足を乗せている、態度の悪い金髪の女子がいた。あの、パンツ見えてますよって思ったけど、言ったら気持ち悪いよね。うん、やめよう。肩より下まで伸びている金髪だが、黒髪が少し混ざっている。イヤホンを耳に差している。指でとんとんとリズムを取っていた。音漏れも酷く、洋楽が聞こえてきた。
俺が席に座ると、じろりとこちらを見てきた。つり目で、でも整った顔立ちだ。モデルと言われても信じられるぐらいだけど、目付きが怖すぎる。攻撃的で刺激的な美しさが、その態度で余計増幅されている。その鋭い目付きで、まだ俺を見ている。一体どういうことだろう。
「あの、なにか用ですか?」、俺はおそるおそる聞き返した。
「なにも」、そうやって言って、彼女は目をそらした。
不良として、結城恋織は有名だった。元スケバンだとか、隠れて煙草を吸っているとか、ノーヘルでバイクを乗り回しているとか、チェーンで人を殴っていたとか、いろんな噂が広まっている。実際に本当か本当じゃないかは別として。どちらにせよ態度も悪いし、女子も男子も少し引いて接している。
そのうちに、朝のホームルームが始まった。
このクラスを担任しているのは女教師だったが、このクラスには当たりたくないだろうなと、先生に同情した。
担任の先生は楠という名前で、赤い眼鏡にふんわりとした茶髪、ふんわりとした雰囲気、全てが柔らかそうな雰囲気の可愛い新任の女教師だった。英語の担当だ。しゃべり方もなんだか気が抜けるような感じだ。
クラスの中心人物みたいなのは、イケメンでサッカー部の人気者の花田、いつも憂鬱そうな顔をしていて、女子のオタク組を率いる物静かな山村、性格が悪いと陰で言われてる女子達が集まった林のグループ、あとは男子のオタク組のリーダーで酷く攻撃的な川中ぐらいか。カナンは花田や山村のグループによくいるみたいだ。
隣の席の結城はイヤホンを全く外していないし、ペンをずっと回している。
「あの、結城さん。ホームルーム中なので、イヤホンを外してください・・・・・・」
「あたしに言ってるの?」、結城が低い声でうなるように言った。
「なんでもないです」、楠先生が震え声で答えた。
「なんでもないなら話しかけないで欲しいんだけど」
結城は虫の居所が悪いのか、両方の眉をきつくさげている。こっわ。先生びびっちゃってるよ。先生は結城を無視することに決めたのか、イヤホンを外さなかった。
陽に透けている金髪を眺めていると、結城がこっちを見てきた。
「なんか用?」
「な、なんでもないです!」
結城が笑った。
「あんた、それでも男?」
「頼りないけど、男です」
いきなり肩を結城に殴られた。痛みで肩が焼けそうだ。
「いった、なにするんだよ」
「肩パン、知んないの?」、結城が笑った。
そんなヤンキー文化のことは知らない。俺はバイクを乗り回すような人とは接点がない普通の人です。
「もっとしゃきっとしなよ、あんた男なんでしょ」
なんで俺はいきなり説教されているんだ?しかも殴られて。
「返事は?」
「はい!」
「いい返事じゃん」、結城が満面の笑みで、俺にウィンクをしてきた。けっこうかわいいところもあるじゃん。普通に肩痛いけど。結城のじゃんが移った。何か強い視線を感じて振り向くと、カナンがむ~という擬音がつきそうなふくれっ面で俺を睨んでいた。
ちなみに先生は完全に無視されていて、少し悲しそうな顔をしていた。
そして自己紹介の時間がやってきた。
「柊香南です!カナンって皆呼ぶのじゃ。金色の目は魔族の証!実はわらわは千年の時を生きる妖怪狐娘なのじゃ!」
カナンはピースで決めポーズを取ると、教室を湧かせた。いつか黒歴史になって、恥ずかしがるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
「あたしは結城恋織、恋に織物の織でレオ」、結城はぶっきらぼうにそれだけ言うと、席に座った。
俺の番は適当に流した。言うことが特に思いつかなかったからだ。




