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坂を抜けたすぐ先に、青春の箱庭がある。
すぐ近くの駅から続く坂を、大学生や高校生が上っている。このあたりは、いくつかの高校と大学がある。俺は、そこの高校に通っている。今年の春から、俺、矢神弘人は星ヶ丘高校の二年生になる。
春のうららかな陽気があたりを包んでいて、やさしい日の光が道を照らしていた。朝になると、いつも穏やかな光が降り注いでいる。
その坂には、ベージュ色の建物が並んでいた。夜になると、ショーウィンドウから漏れ出す光でとても美しく見える。いつも誰かが坂のどこかで、座りながらくつろいでいる。
そんな場所だ。坂の先には高校があって、動物園も近くにある。坂全体が高級レストランみたいに洒落た場所だ。
俺が高校一年の時は、親友が出来て、よく一緒にゲームをしていた。だが時々ふっと思うのだ。このままこんな高校生活を送って、青春を浪費していいのかと。なにをしているのかわからない時間を続けていていいのかと。趣味は楽しいけど、それだけだ。俺みたいなタイプは、きっと何事も本当には楽しめないのかもしれない。だけどそれでどうすることもなかったし、何か変わるわけでもない。青春感とでもいうのだろうか。そういう感覚を感じられなかったのだ。
その感覚は誰かが得ていたとしても、俺が得ることはなかった。あいにく、ゲームではそれを感じられない体質だった。
たぶん、部活ではしゃいでる奴らはそう思ってるかもしれない。でも、俺は違う。俺の友達の人数が少なすぎるからかな。そういうことを考えるのはよせ。
一年たって感じた変化と言えば、ここの景色が少し変わっているということだけだ。ここの道は桜が生えていないから、桜満開、花の新学年とはいかず、代わり映えのしないブランドショップばかりだった。いつも同じ道を登って、学校へ着く。
だけどまだ二年、高校生活を楽しめる。そんなことを思って、見えもしない桜を探していると、いきなり後ろから肩を叩かれた。
すぐに、振り向いた。たぶん、あいつだ。
「おー、久しぶりじゃな!ゲームでよく一緒にやっていたけど、ヒロの顔を見るのは久方ぶりじゃ!」、ある少女が俺の肩を掴んでくるりと回して、にこやかに微笑んで、抱きついてきた。
彼女の名前は柊香南。皆はカナンと呼ぶ。俺のネット友達で、ゲーム友達で、オタク友達だ。高校一年の時に、体育祭でダンスの相手になってから、友達になった。
「千年の時を経たハグじゃ」カナンが金色の方の目でウィンクを飛ばしてきた。
「千年も立ってないだろ。まぁ嬉しいからいいんだけどさ」と、俺は返した。
「う、嬉しい?」
「く、口が滑った」、カナンみたいにかわいい子に抱きつかれて、不快になる人間はそういない。
「ふふーん、そうかそうか!よかったよかった」
カナンは機嫌を良くして、つま先でくるりと回った。
髪は茶色のショートカットで、黒と金の瞳を持っている。右目のほうが金色だ。快活そうな外見に、健康的な肉体をしている。もちろん、かわいい。彼女は人によくスキンシップをする癖があって、男子を勘違いさせそうなタイプの人間でもある。Twitterの別のアカウントで上げているコスプレも結構板についていて、凄く人気らしいけど、本人は学校の時もいつもコスプレをしてるようなものと言っていた。セーラー服にカラコン茶髪とくれば、確かにコスプレのようなものかもしれない。
カナンは、自分のことを神から下界を信託されたもの、つまり世界の支配者だと言っている。設定はアニメのシーズンごとに微妙に変化するが、目の設定については変わらなかった。黒と金の目で、金の目はカラコンを入れて、魔族の証と言っている。いわゆる厨二病という奴で、カナンはそれで自己紹介をしては皆の人気者になっていた。
素なのか演技なのかわからないその仕草は、非常にかわいらしいとの評判を受けている。性格の悪い奴は少ないから、それでどうこう言われることはあまりないみたいだ。本人は帰宅部と言っていたが、運動がなぜか出来て球技にいたっては部活のレギュラーの奴らよりうまい。よくわからないことばかりの、謎めいた友人だ。
「わらわもなー、休み中は儀式が忙しかったのじゃ」
「はいはい、アニメのイベントに行ってただけだろ」
「だけとはなんじゃ!すっごく面白いんだぞ!アニメジャパンと言って、沢山のアニメの祭典が東京で開かれているんじゃぞ。東京は、名古屋みたいな大きな田舎と違って大都会だもんね。ビルもずっと高いし、空みたいにどこまでも続いてる」
「そうだな。そういや昨日のアニメ、なんでやってなかったんだろうな」
「野球のせいじゃ。あーんな棒振り回すだけのもののせいでアニメという芸術が潰されるのは日本の損失じゃ」、カナンは手提げ鞄を振り回してその感情を大きく表現した。
「確かに、時間取りすぎかもな」、適当に相づちを打った。
「ほんとにね。で、おぬし、今年はどういう一年を送る気なの?」
俺か、考えたことも無かった。
「ま、特に事故も無く成績もいい感じで普通に、それなりにやっていけたらなぁって思ってる。無病息災って感じかな」
「つまらん奴じゃなあ」
「逆に他になにがあるんだよ?いきなり空から女の子が降ってくるわけでもないし、超能力だって得られるわけないじゃないか。俺だってそういうの欲しかったよ」
「は~~~~?わらわがおるぞ?狐娘ぞ?」、カナンは頬を指でつついてきた。
「うるさい、人間」、俺がカナンの額を指で弾くとうう、とうめいていた。
「いたいのじゃー」、額を両手で押さえて、こちらを向いた。
「ごめんごめん。そういえば、クラス割どうなるんだろうな」
「一緒が、いいな」、カナンはぼそっと呟いた。
聞こえなかったふり、聞こえなかったふりだ!カナンはこういう所があるから、こうやって何人もの男が撃沈してきたんだ。
俺は知っている。
ボディタッチやこういう台詞で10人以上の男が撃沈してきたことを!告白した人間は全て無惨にフラれて、轟沈です。君のこと友達だとは思ってるけど、そういうのはちょっと。みたいな台詞で毎回断られるのだ。かわいそうというほかありませんね。
そうしているうちに、坂を登りきって学校に着いた。




