第5節 花笑みに
ウシャリス・コルヴィン。
超高級ブランド、『コルヴィン』のデザイナー。
世界中の人々が買い求める、『コルヴィン』は前衛的かつ洗練され気品が漂う上質な衣類を展開する。
今春、『コルヴィン』が発表した新作がある。
それは服飾業界の歴史において、類を見ないほどの爆発的な旋風を巻き起こした。
『舞い散る花のような儚さを感じさせるも、何故か自然と笑顔が溢れる』
人は口を揃えてそう言う。
目利きさえ、その作品の美しさに息を呑む。
それが『コルヴィン』が発表した新作の評価だった。
床も天井も壁も白い部屋。
部屋に柱は無く、半球形の天井を持ち、扉は開かれている
部屋の中心には大きな机と椅子。
机の上に絵かき帳とクレヨン。
絵かき帳には、咲き誇る花の絵が描いてあった。
***
集合住宅の一室。
帰宅した俺は台所で夕飯を作っていた。
台所から見える玄関の扉が開かれる。
「トウヤ、今日の買い物はどうでしたか?」
帰宅した途端それか。
フランはいつもの学院で講義をするときの格好だ。
フリルのついた白のブラウスに、細く黒いスカートに……コルヴィンのヒール?
「なんだフラン。同じヒール持ってたのか」
「お気に入りなんです。壊れた時のために、二つ買っておきました」
昨晩のヒールに関するやり取りはなんだったんだ。
予備があるなら、あそこまで不機嫌になることはないだろ。
「後を引くほどの心配をしましたからね。怒ってたんですから」
いや、まぁ……それは心配かけた俺が悪い……。
「トウヤが冒険者に成らなくてはならない訳は理解してます。けれど、その……何て言うか、理性と感情は別と言うか……」
ごめんなさい、とフランは頭を下げる。
俺の方こそごめんな。
そんなやり取りをしながらも、料理をする手は止めない。
今日は良い魚が買えた。
「そういえば、なんだあの武器屋は」
「エフレムさんのことですか? 良い人じゃありませんか。少しばかり不器用ですが」
とてもそうは見えなかったが……。
「それはそうと、エル・エガート百貨店の方はどうだったんですか?」
あぁ! もうこいつ直球だ!
それにさっきのごめんなさいの件はなんだったんだ。
それとこれは別なのか。
「いや……まぁ……一応行ったのは行ったんだが……」
「はぁ……。そうだと思いました。コルヴィンの新作が楽しみです」
そこでウシャリスの事を考える。
仕事をしているホルシュ族の少年とは思っていたが……まさか、『コルヴィン』のデザイナーだったとはな。
「物の話ばかりになりましたが、私を物が欲しいだけの女と想わないで下さいね」
そう言って彼女は微笑んだ。
そんな事は分かってる。
彼女が見せた微笑みも花のように美しかった。