リスタート
屋敷内を一通り案内してもらって、お風呂でゆっくりしたあとハルト様と一緒に遅い夕食。お粥の量少なかったし余裕で食べれそう。
まともなご飯久しぶりだな、って思ってたらお腹に優しそうなメニューばっかだった。普通に日本食だしザ・王子様なハルト様が箸でお茶碗もってるの違和感。
「まだ疲れているだろう?きっとすぐ眠れるから、食べたらまたゆっくり休むと良い。明日は一緒に服や旅行に必要そうなものを買いに行こう」
久しぶりのデートだなってにこにこ言ってるけど、ゲームですよって突っ込んでも意味ないのはもうわかった。
「仕事とかないんですか?」
「儀式前に全部終わらせていたし、臣籍降下の準備くらいだな」
準備万端ですね。
「街に出るのは楽しそうです、本とか欲しい」
漫画なさそうだし小説でいいから読みたい。あー、新連載の続き読みたかったな。
「好きなところに行こう、楽しみにしている。じゃ、おやすみ」
口にちゅっとしてからハルト様が部屋から出て行った。少女漫画な行動控えて欲しい。
「………まだはやいけど寝てしまおう」
ほとんど寝てはいたけど、心理的に疲れる1日だった。
***
次の日。今度はちゃんと朝に起きれた、久しぶり朝日。
起きてあくびしながら部屋のシャワーを浴びて、髪をタオルドライしているとノックがされる。
ハルト様だろうな…と返事をして、少し経ってからやっぱりハルト様があらわれた。
「おはよう、よく寝たか?ああ、髪は俺が乾かすからこっちへ」
「おはようございます。もう結構拭きましたよ」
「やりたいだけだ、嫌でないならさせて欲しい。おいで」
手招きされて、大人しく椅子に座って後ろからハルト様に続きをしてもらう。
「以前のピンクゴールドの髪も良かったが、今の色の方がサクラに良く似合っていて一段と美しいな」
まぁ、日本人の顔に合うのはそりゃ黒に決まってますね。
「よし、大体良いな。あとはドライヤーか」
「え、ドライヤーあるんですかこの世界」
ないかと思ってた。ご飯もだけど乙女ゲーム世界だから日本基準なのかな、普通にコンセントにさしてるし。
ブツブツ考えてる間にドライヤーも終わった。
最後に櫛で丁寧に梳かされて、多分頭にキスされた。
「サラサラで綺麗な髪だ。俺の髪は真っ直ぐにならないし、羨ましい」
上から下に何度も髪を撫でつけながら、ハルト様が言う。
ふわふわ頭可愛くて似合ってるけどなぁ。可愛いとか言ったら嫌がるか。
「ずっと撫でていたいが、サクラは暇だろうし街に出るか。まずはどこに行きたい?」
「えーと……本は買ったら読みたくなっちゃうから最後がいいけどあとは特に」
「では適当にうろつきながら目に入った店から入っていくか。ああ楽しみだ、早速いこう!」
テンション上がったハルト様に連れられて外へ出る。
大きい家がかなりの距離を空けて建ち並んでて、自然いっぱい。葉っぱの隙間から注ぐ太陽の光が気持ちいい。
「今日は馬車使わないんですね」
「近いし、サクラの体調も良いようだしな。それにまた前みたいに二人で歩いて街に出たかった。サクラは言われたくないのかもしれないが、本当に楽しかった大切な思い出なんだ」
「嫌って言うか、私じゃない誰かの話を聞いてるようでなんかちょっと」
立ち止まって、考えながら喋る。
「どこそこに行ったとかは私もわかるんですよ、ゲームでやってるから。でも細かい会話とか、その時の気持ちとか、そういう記憶はないわけで。なのにハルト様はそれを大事そうに話すじゃないですか」
「うん」
「私には思い出がないのに。事実だ本人だって言われても、それを共有出来てないんです。ハルト様が語る思い出を持ってるのは私じゃなくて、確かに私だったんだろうけど、でも違くて……なんだろ、私だと思えない」
ハルト様は真剣な顔をしながら聞いてくれた。
長くなるかな、こんなところで話すことじゃなかったかも。
動かないで考えてるハルト様の手をひいて、木陰のベンチに二人で座った。
「………余りにも変わらないサクラに何か勘違いしてしまっていたみたいだ。大切な思い出なのは間違いないが、俺のサクラは7年前に一度消えてしまった。来世出会うために呼び寄せた、またサクラに会えるなら他はどうでも良かった。そうだった筈なのに、今世で元気なサクラに会って欲が出てしまった」
座ったときのまま握られていた手に力がはいった。
「サクラ、サクラが大好きだ。以前と変わらないサクラに会えてとても嬉しかった。だが俺はサクラの魂を持つ者を呼んだんだ、変わらぬサクラに喜ぶのは、前世を語るのはやめよう」
前世とは違うんですけどね、私死んだわけじゃないし。でもいま真面目な話だし突っ込めないな。
「もう一度、最初から始めなければいけなかった。間違っていた……ごめんなさい」
許せとか、許してくれとかじゃないんだ。
ごめんなさいって…王子様がごめんなさいだって。
「そんな反省してもらおうとした訳じゃないんですけど…むしろ罪悪感感じちゃうからって伝えたかったような」
「いや、俺が悪い。サクラ、もう一度此処からはじめてくれないか。今のサクラを愛している一人の男として見てほしい」
覗き込んでうるうる上目遣いで言われる。この人分かっててやってるのかなぁ。
「わかりました、もういいですから。分かってもらえたならそれで。感謝もしてますし……あ、愛されてるのは私だって分かりますから」
うぅ、愛なんて言葉吐くの恥ずかしい。
「……ありがとうサクラ。大好きだ、愛してる、サクラだけを想ってる」
「こっ恥ずかしい….」
握っていた手を指を交差して握り直された。恋人繋ぎってヤツだなぁこれ。
「初デートをしよう、サクラ。沢山遊んで、沢山話して、楽しい思い出に」
ハルト様はそう言うと繋いだ手をあげて顔を寄せて、映画みたいに私の手にキスをした。
「顔を見せて、サクラ」
「いや、ちょっともう…勘弁してください」
恥ずかしいんだって。赤くなってるの自分でもわかるし。
「可愛い。かわいー…」
繋げた手はそのままに、唇と唇が触れる。
スッと顔に溜まってた熱が冷めてった。
キスされて赤面が収まるなんて、一体私はどうなってるんだ。
「……サクラは手強いな」
私をおかしな体質にした張本人はそう一言呟いたあと、破顔した。




