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王子様ちょびっと譲る



「ああ、泣かないでサクラ。俺がそんなに嫌?」


「別に嫌じゃないけど、好きなわけでもないもん…」


ハルト様はそっと頬に手を置いて、親指で涙を拭ってくる。イチイチ行動が少女漫画な人だ。


「急かさないから。ゆっくり俺を好きになってくれれば良い。サクラの気持ちが固まるまでちゃんと待つ」


「婚約はやめてくれる?」


「内定は覆せないが、進めはしない。サクラが俺に恋をするまでいくらでも待つ。やっと会えたんだ、今は隣に居るだけで良い」


はじめてハルト様が主張を曲げた。助かった。


「わかった…それでいいよ」


ホッとした瞬間に拭っていた親指を少しずらして、そのまま目の端っこにキスされて涙を舐められた。


「ひぇっ」


「いくらでも待つが、今はサクラがちゃんとここに居ると実感させてくれ。君が戻ってきてくれて本当に嬉しい」


キラキラ笑顔でニッコリ笑うハルト様。


「可愛い、愛してるサクラ」


そのまま抱きこまれて、顔とか頭とかひたすらキスされ続ける。ここまでされると恥じ入る暇もないな。


ちゅっちゅちゅっちゅされて羞恥心は麻痺してきたけど、そろそろやめて欲しい。


顎を押して無理やり離れてもらって、とりあえず一息ついた。


「むぅ…。そうだ、サクラは今いくつなんだ?以前とあまり変わっていないが、流れた時も違うのだろうな」


24時間しか流れてませんよ。


「17歳です。えーっと、ゲームでは15歳だったっけ」


「そうか、かなり若く亡くなる筈だったんだな。サクラの生まれ変わりが年老いてやってくると思っていた」


おばあちゃんな私を呼ぶつもりだったんだ。まあ死ぬ前って言ったら10代は中々ないか。


「ハルト様は…」


「25だ。サクラから見たらそんなに時は経っていないだろうが、一人で過ごしてしまった時間を一緒に取り返して行きたいな。手始めに旅行にでも行かないか」


おぉ、異世界旅行。それはちょっと行ってみたい。


「行きたいです!」


「では早速準備をしよう。そうだ、マークスを覚えているか?今は俺の護衛騎士をしてくれている、折角だからマークスについてもらおう」


「ああ、千花の推しの」


「ちかのおし?」


「えっと、千花は私の友達の名前です。で、推しは…好き?ファン?みたいな。ゲームをやってみたのも千花がマークスが素敵だからやってみろって」


千花、心配してるんだろうな。最後にすごい慌てた声聞こえたもん。でも、千花の推しゲームの世界に来ちゃったって知ったら羨ましがるかもしれない。


「好き…ほう。ゲームブックは何度も出来るな?サクラもマークスとゲームで恋仲になったことがあるのか。それは許容出来ないな」


「や、えっと。そのつもりでやってたんですけど、コレだろって選択肢を選んでたらハルト様のルートに…一回やってすぐやめちゃったし」


「ゲームでも俺だけ?」


「まぁ、そうですね」


「そうか!」


「……ゲームですよ?」


「そのゲームだったはずの世界がここだ、他に同じような世界がないとは言い切れない。全てが俺には現実なんだ、サクラも現実として受け止めて欲しい」


現実として考えたら、その気もないのに王子様落としちゃった悪女になるんだけど。


「私はだだのゲームとしてやってただけだけど、ハルト様は好きな風に振る舞って籠絡した私に恨みとかないんですか」


「無い。俺にサクラを愛する権利をくれた感謝しかない。これからもずっと愛し続けるから、そこは籠絡した責任として受け止めてくれ」


んー、結局そこに行き着くのかぁ…。

平行線の押し問答だよねぇ、どうしたもんかなー。


「サクラが好きだ。これからずっと一緒に居れるのが嬉しい。」


必ず会話に愛の言葉を絡めてくるの勘弁して欲しい。


「私がハルト様を好きにならなかったらどうするんですか?好き好き言われてもムズムズするだけであんまりドキドキとかないんですけど」


「ドキドキしてくれたら嬉しいが、言いたいから言っているだけでそれでサクラに好きになって貰おうとしているわけではないよ。言葉には行動が伴ってこそだろう。何年でも待つ、ああでも今世で惚れてくれたら嬉しいな」


今世死ぬまでこの甘い言葉が延々と聞こえてくるらしい。


「その前にハルト様の目が覚める可能性の方が高いと思いますよ。確かにゲームをしていたのは私だけど、ただ選択肢から選んだだけなんです。ゲームのサクラと違うとこがいーっぱいあるから」


「サクラは世界と三世を跨いだ俺の愛を見縊っているな。…まあそれはこれからの俺を見て信じてもらうしかないか」


もう一度ぎゅうぎゅう抱きしめられて、キスされた。何回も何回も。

この短時間で私の中にあったキスへのハードルがものすごく下がってしまったんだけど、乙女としてどーなのこれ。



「てゆーかそろそろベッドから出たいです。体調悪いわけでもないし」


「本当か?どこにも体に違和感はないか?念のため今日はこのまま休んで欲しい。横の部屋に医者も待機させているから」


王子様心配性。


「心臓発作とかそんな?えー、あるのかな」


「何があるかわからない、サクラの死が何かしらの理由で迫っていたのは間違いない。いつでも対応出来るから、大人しく休んでいてくれ。眠れそうか?」


「……うーん、眠気はあるけどさっきまで寝てたからなぁ…私こっち来てどのくらい経ってるんですか?」


「朝に呼び寄せたから15時間ほどだな、今は23時だ」


そんな長い時間寝てたのか、そしてまだ眠いのか私。


「世界を越えたんだ、身体に負担がかかって当然だ」


「そっか…じゃあまた寝ようかな」


「おやすみ、サクラ。今夜だけは同じ部屋に居させてくれ」



万が一の為だろうしそれくらいいっか。



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