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エピローグー5

 同じ頃、村山幸恵は、産まれたばかりの次女の世話をしていた。

 今、料亭「北白川」には、若い板前が相次いで出征して行った結果、養父と夫の2人しか板前がおらず、そんな事情から完全予約制の料亭となっている。

 そのため、常雇いの仲居すら1人しかおらず、大型の予約が入ったら、かつて働いていた仲居等に声を掛けて、人を集めるような有様だった。


 経営者でもある母、村山キクは、

「正直に言って、今は家族で暮らすのが精一杯だねえ。このご時世だから仕方ないけどねえ」

 と半ば嘆くように家族内では言っている。

 世界大戦のために、大量の若者が出征しており、また、工場の疎開が勧められた結果、横須賀の街はかなり裏寂れたような有様を呈していた。


 もし、日本の近くでの戦争ならば、横須賀は軍港として戦時中ならではの賑やかさを持っていただろう。

 だが、極東ソ連領はほぼ制圧され、中国本土での戦いは奥地へと移行しつつある。

 そして、日本海軍の主力は、対ソ欧州本土侵攻作戦の支援のために、欧州へと赴いてしまった。

 そのために、横須賀の軍港には、就役したばかりの新艦か、退役寸前の老齢艦か、の2種類しか在泊しておらず、平時とは比較にならない少数の軍艦しか在泊していないと言っても過言ではなかった。

 こうした状況で、横須賀の軍港が賑やかな訳が無かった。


 幸恵は想いを巡らせた。

 この子が産まれて、本当に良かった。

 この子の世話をすることで、色々な心配事の気が紛れる。


 幸恵の父、そして、母方祖父は共に戦死した身の上だ。

 母方祖父は日清戦争で、父は先の世界大戦で戦死している。

 それを想うと、弟の岸総司、更に、最近、弟ではないか、と分かったアラン・ダヴーが、この世界大戦で戦死するのではないか、と幸恵は心配でならない。


 勿論、自分が心配したからと言って、何もできないのは、重々承知はしている。

 それでも、どうしても心配になるのだ。

 それに、幸恵は思わず涙を零した。


 すぐ下の妹の夫、つまり、幸恵の義弟は、陸軍の兵士として出征していたのだが、先日、中国戦線で名誉の戦死を遂げてしまった。

 嫁ぎ先と村山家が話し合った結果、妹は子どもが幼いこともあり、村山家に戻ることになった。

 妹は、夫が戦死して、更に子どもから引き離されて、婚家から村山家に戻るという度重なる衝撃の結果、すっかり落ち込んでしまっている。


 妹としては、子どもと共に婚家に残ることを真剣に考えたらしい。

 だが、婚家にしてみれば、赤の他人の嫁は不要、子どもが居ればいい、とのことで、妹を村山家が引き取ることになったのだ。

 冷たい話だ、と幸恵は憤ったが、妹の婚家にしてみれば、幸恵の妹は厄介者である。

 せめて、独身の義弟でもいれば、その義弟と妹が再婚して、という話になるだろうが、婚家にはそんな義弟はいないのだ。

 子どもの面倒は見るから、嫁は出ていけ、という話になるのは半ば必然的だった。


 幸恵は妹の心配をするとともに、戦後のことを考えざるを得なかった。

 まだまだ大量の戦死者を日本は出すことになるだろう。

 その後、どんな社会に日本はなるだろうか。


 妹のような仕打ちを受ける女性が、昨今では増えているらしい。

 その一方で、若い男性が大量に出征していることからくる働き手不足から、女性の職場が急増している。


 こういった現状からすれば、結婚しても女性は損だ、ということで、独身を貫く女性が戦後は急増するのではないだろうか。

 周囲が結婚を勧めても、家出してでも独身を貫きます、という女性が増えては、どうにもならない。

 更に、独身でも昨今の女性は食べていけるし、実例が多数、目の前にあるのだ。

 本当に世界が、日本が変わろうとしている。

 幸恵は思わず物思いに耽った。 

 これで、完結させます。


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