エピローグー1
エピローグの始まりになります。
「スペイン青師団は、まずは第二陣か」
アラン・ダヴー少佐は、先程、アイゼンハワー将軍の最終承認を得られた南方軍集団の作戦内容を想い起こして、駐屯地でため息を吐きながら、そう呟いて、想いを巡らせた。
1942年5月初め、南方軍集団、通称ラテン民族軍集団は、各国の軍首脳部が集った作戦会議の末に、最終的な作戦計画の詰めを済ませ、アイゼンハワー将軍の最終承認も得たのだ。
ダヴー少佐は、表向きアラン・ハポンと名乗って、スペイン軍司令部の一員として、その作戦会議に参加して、最終的な作戦計画の内容の詳細までも知っていた。
本来から言えば、少佐なので、そこまで知る立場にダヴー少佐はないのだが。
当然のことながら、フランス語に堪能なことから、半ば通訳として、更に、豊富な実戦経験に裏打ちされた優秀なスペイン軍の軍人として、ダヴー少佐は作戦会議への参加、発言を許されたのだ。
なお、言うまでもなく作戦会議の場では最年少参加者であり、それを見とがめたフランス軍士官からは、
「流石にサムライの子と言うべきか。あの若さなのに名前負けせず、作戦会議の場に出席しているとは」
と称賛とも、陰口ともつかない噂が流れた。
ちなみにこの作戦会議に参加したダヴー少佐以外のフランス軍士官は全員が30歳代半ば以上であり、20歳代半ばのダヴー少佐は飛びぬけて若いといえた。
(もっとも、ダヴー少佐はスペイン軍の一員として、作戦会議の末席に連なったのであり、彼らとは立場が違うとも言える。)
暫く想いを巡らせた後、ダヴー少佐は、フランス外人部隊のある士官を訪ねることにした。
「悪戯も程々にすべきでは」
フランス外人部隊の士官、ルイ・モニエール中尉は、元上官のダヴー少佐に半ば忠告した。
駐屯地の哨兵が、自分の顔を知らないことをいいことに、ダヴー少佐は、
「スペイン軍のハポン少佐だが、モニエール中尉に私的にお会いしたい」
と名乗って、面会を求めたのだ。
勿論、ダヴー少佐の正式のスペイン軍の身分証明書は、アラン・ハポンの名が入っており、官職姓名を偽っている訳ではない。
(それに細かいことを言えば、ダヴー少佐は、フランス軍ではあくまでも大尉である。
スペイン軍に出向して、スペイン軍内で少佐に戦時昇進した身の上なのだ。)
「ちょっとした悪戯ですよ。目くじらを立てないでください」
そうダヴー少佐は、ルイ・モニエール中尉こと、ナポレオン6世に言った。
そう言われると、相手は元上官である。
一体、誰が自分を訪ねて来たのだろうか、と首を傾げながら面会に出てきたモニエール中尉としては、苦笑いで済ませるしかなかった。
「一体、何事かね」
「いえ。いよいよ、対ソ欧州本土侵攻作戦が発動される直前に、かつてのことを想い起こして、どう思われるのか、お伺いしたくて訪ねてきました」
「かつてのことか」
それだけで、二人の間に想いは通じた。
かつて、フランスはロシア遠征に失敗した。
今度は、どうなるだろうか。
「私がモスクワを目指さないから成功するだろう、何とかなると言っては皮肉が強すぎるかな」
「それは初代に対して、きつい皮肉ですな」
ナポレオン6世の言葉に、ダヴー少佐は思わず笑いながら言った。
ナポレオン1世のロシア遠征の失敗の一因が、モスクワ攻略にこだわり過ぎたことだ、というのは有名な話であり、ナポレオン6世の言葉は、それを踏まえたものだった。
「かつてと違い、英米日が味方しているのだ。それで何とかなると信じよう。それにしても遠大な目標を目指すことになるな」
「ええ、確かに」
二人は想いを巡らせた。
ロシア遠征では無かった、対ソ欧州本土侵攻作戦。
史上空前の侵攻作戦は、どのような結末になるだろうか。
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