第6章ー28
その翌日、連絡通りに日本の戦艦部隊は、スカパ・フローに入港しようとしていた。
言うまでもないことだが、戦艦以外の巡洋艦以下の護衛艦隊も随伴している。
「第16駆逐隊司令より連絡。旗艦、雪風外、電探、聴音共に感ナシ。敵潜水艦は存在しないと思われる」
「了解した。引き続き気を緩めるな、と返信せよ」
第2水雷戦隊旗艦「矢矧」の艦橋上で、通信士官と木村昌福司令官は、そうやり取りをした。
それを聞いた森下信衛、矢矧艦長が口を挟んだ。
「死神の雪風が探知していない以上、多分、大丈夫でしょうな」
「死神か。雪風の乗員は、その呼び名を余り好んでいないらしい。何だか自分達の懸命の努力が否定されている気がすると言ってな」
「雪風の電探、聴音機は、確実な死を招く雪女の息吹だ、という呼び名もあるそうですね」
「確かに雪風の電探や聴音機が探知した敵潜水艦は全て撃沈確実と判定されているから、そう呼ばれるのも分からなくもないな」
木村司令官と森下艦長は更なるやり取りをした。
さて、この会話に出てくる雪風だが、朝潮型駆逐艦の改良型、陽炎型駆逐艦の8番艦であり、第二次世界大戦時の日本海軍きっての潜水艦キラーとして、世界の海軍史に名を残す存在である。
雪風は第16駆逐隊の一艦として、第二次世界大戦勃発直後に就役し、第二次世界大戦を生き延びた。
その間の戦果だが、日本海軍の駆逐艦として史上最高の戦果を挙げ、上記の異名を勝ち取ったのである。
第二次世界大戦後は、独立を果たした台湾民主国に特に乞われて、日本から譲渡され、1970年に退役するまで、台湾民主国海軍の駆逐艦として生き延び、台湾市民からも親しまれたという。
話が逸れ過ぎた。
元に戻す。
「それにしても、スカパ・フロー入港に際して、「扶桑」、「山城」に先導させて、「大和」、「武蔵」が後続する、というのは、あざとい気がしますが」
森下艦長は、少し難色を示した。
「それによって、大和級戦艦の大きさを印象付けようというのさ。実際、効果は抜群だろう」
「確かに」
木村司令官はたしなめ、森下艦長も同意した。
実際、その効果はあった。
「日本艦隊です。先導は大型巡洋艦、その後方に大和級戦艦と思しき新型戦艦です」
見張員の報告を、カニンガム提督は一喝した。
「その見張員に、眼医者にすぐに掛かるように指示しろ。あの先導艦は、特徴ある艦橋からして扶桑型戦艦なのは間違いない。扶桑型戦艦を巡洋艦と間違えるようでは、我が英海軍の見張員は務まらない」
「すみませんが、私も眼医者に掛かってよいでしょうか。どう見ても、扶桑型戦艦が巡洋艦に見えます」
参謀の一人が、口を挟んだ。
「何をバカなことを。扶桑型戦艦は、フッドにこそ劣るとはいえ、我が英海軍の新型戦艦キング・ジョージ5世級戦艦並みの大きさを誇るのだ。それが巡洋艦に見えるなど」
カニンガム提督は、あらためて双眼鏡で日本艦隊を睨んで絶句した。
確かに、扶桑型戦艦が巡洋艦に見える。
大和級戦艦の威容は大したものだった。
この場に集っている連合国諸国の戦艦群の中で飛びぬけて大きかった。
大和級戦艦の次に大きいフッドでさえ、基準排水量は4万トンをやっと超える程度である。
それなのに、大和級戦艦は基準排水量が6万5000トンと、約1,5倍の巨体を誇るのだ。
「済まない。見張員に対して、先程の言葉を訂正して、次のように伝えろ。君の目は正しい。だが、もう少し勉強して報告しろ。あれは巡洋艦2隻と戦艦2隻ではなく、戦艦4隻だと」
カニンガム提督は苦笑いするしかなかった。
全く、我が英海軍の期待の星、ライオン級戦艦が巡洋艦に思えてくる。
大した戦艦を我が英海軍の弟子、日本は建造、保有したものだ。
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