第6章ー24
物思いに耽りながら、右近徳太郎中尉は帰営して、寝床に潜り込んだ。
本来なら、川本泰三中尉を宿に送り届けるべきだろうが、宿を聞く前に川本中尉は酔い潰れたのだ。
それなら、あの女給に川本中尉を任せるべきだろう、と右近中尉は考えたのだ。
(なお、右近中尉が、川本中尉と共に帰営しても、問題の解決にはならない。
駐屯地に部外者である川本中尉を泊まらせることは、急でもあり、かなり難しい話になるからだ。)
翌朝、軽い二日酔いに苦しんでいる右近中尉の下に、酷い顔色の川本中尉が顔を出してきた。
どう見ても酷い二日酔いに川本中尉はなっている。
「色々と面倒を掛けたようだな。精算まで済ませてくれて。幾ら払えばいい」
「いえ、いいですよ」
「いや、それでは気が済まない。自分が誘ったのだからな」
右近中尉と川本中尉は、そんなやり取りを皮切りに少し話し込んだ。
川本中尉の話を聞く限り、あの店は良心的な店のようで、右近中尉の支払額を正確に川本中尉に伝えており、最終的に半々で二人は手を打つことにした。
そして、川本中尉は、右近中尉の下を去って行き、右近中尉はそれを見送った。
あの女給を川本中尉は抱いたのだろうか、川本中尉が去った後、右近中尉は何故かそれが気になった。
どうにも気まずくて、自分は聞けなかった。
川本中尉は何も言わずに、自分の下を去って行った。
酔い過ぎていて、覚えていないのかもしれない、そう右近中尉は自分を納得させた。
そして、海兵隊と陸軍は共闘するのだ、と右近中尉は漠然と考えていたのだが、それは微妙に違うことが駐屯地にいる間に徐々に分かってきた。
それは、日本、極東から遥々と来た日本陸軍の多くの面々を驚愕させるものでもあった。
「確かに、世界の戦史をつぶさに検討していけば、よくある話ではありますが」
西住小次郎大尉は、半ば絶句しながら、想いを巡らせた。
日本軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊)は、有機的な連携を求められ、その任務に応えようとしていた。
空軍は、既にソ連本土への攻撃を開始している。
そして、海兵隊は、バルト海上陸作戦準備に取り掛かっており、海軍はそれを支援する任務の一端を担おうとしている。
この状況下で、陸軍が背負っている任務は、というと。
バルト海沿岸に対して上陸作戦を行う日米海兵隊に対する救援、連携作戦の断行だった。
それこそ日本史でも、展開された作戦である。
制海権を失った敵に対し、海上からの迂回機動と陸上からの正面攻撃を連携して行う作戦を実施することで、敵に後退を余儀なくさせて、敗北に導く作戦は、南北朝時代の足利軍や戊辰戦争時の薩長軍等、日本史でも良く見られる作戦である。
世界の戦史では、もっとよく見られる作戦だった。
そのために欧州に来援した日本陸軍は、ポーランドへ、より細かく言えば、バルト海沿岸沿いに駐屯、展開することになっていた。
一方、日本海兵隊は、少しでも作戦を欺瞞するために、ドイツ本土にギリギリまで残置されることになっている。
いよいよという段階になってから、上陸作戦を展開する輸送船に乗り込んで、バルト海沿岸にある真の目的地を目指すことになっているのだ。
そして、対ソ欧州本土侵攻作戦発動と同時に、連携してバルト海上陸作戦と、それを救援する地上侵攻作戦は発動される。
上手く行けばだが、それによって、バルト三国は、対ソ欧州本土侵攻作戦発動から1月も経たない内に全土が解放される予定になっている。
更に言うなら、その勢いに乗じて2月以内にレニングラードは、連合国軍の攻囲下に置かれる予定だった。
遠大極まりない目標だ、と右近中尉は想いつつ、胸は高鳴った。
西住大尉を始めとする多くの陸軍士官の想いも同様だった。
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