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第6章ー21

 ちなみにアラン・ダヴーが戦時における臨時昇進とはいえ、少佐待遇なのは、それなりの訳があった。

 まず、スペイン内戦時に「白い国際旅団」の一員として参加しており、スペイン内戦終結時には既に中尉に昇進していたのである。

 それから後、フランスに帰国した後も、フランス陸軍の軍人として順調に戦功を重ねている。

 そして、実父こそ不明であるとはいえ、日本海兵隊上層部からも日系人として認められ、日仏両軍上層部に顔が効くという、スペイン軍にしてみれば有難い稀有な存在であった。


 こうしたことから、スペイン軍司令部の広報参謀(と言うと、広報担当のようだが、実際のところはいわゆる渉外の仕事の方が多かった)にダヴー大尉は任命された。

 更に、軍司令部の参謀である以上、佐官が望ましいということで、少佐に臨時昇進したのである。

 かくして、スペイン軍司令部の一員として、ダヴー少佐はルーマニアの大地を踏むことになった。


 そして、グランデス将軍の下、スペイン青師団は、ダヴー少佐からすれば、まだまだだったが、少しずつ鍛えられて、かつての栄光のスペイン軍の姿を少しずつ取り戻しつつあった。

「レコンキスタを成功させ、更に1503年のチェリニョーラから1643年のロクロワまでの間、欧州最強と謳われたかつてのスペイン陸軍の栄光を取り戻そう」

 誰が言い出したのか、そんな声がスペイン軍内部から上がり、スペイン兵のやる気を高めていた。


 その声を聴いたダヴー少佐は複雑な想いを抱いた。

 チェリノーラ、ロクロワ、何れもフランス軍対スペイン軍の戦いであり、前者ではフランス軍は惨敗し、後者ではフランス軍は勝利を収めた。

 そして、ここルーマニアには、他のラテン系の民族国家、イタリア、ルーマニアの将兵が集っている。

 余り歴史を持ちだすべきではない、と個人的には想うのだが、どうしても頭をよぎるものがあるようだ。


 実際、イタリア軍の間では、ここルーマニアにラテン系の民族国家の軍隊が集っていることから、ローマ帝国の栄光を取り戻そうという声が自発的に上がっているらしい。

 そもそもルーマニアにラテン系の民族国家が樹立された発端が、ローマ帝国によるいわゆるダキア征服によることを想えば、そんな声が上がるのも分からない気がするのが、ダヴー少佐にしてみれば、何とも言えない話だった。


 ルーマニア軍内部でも、同じラテン系民族が集っているということで、多少の喝が入ったらしい。

 それを想えば、南方軍集団にラテン系の民族国家の軍を集めたのは正解だったのだろう。

 だが、その一方で。

 ダヴー少佐の眉をひそめさせる事態も、少しずつではあるが起こっていた。


「厄介だが、内政干渉だ。スペイン軍は関与できない」

 ダヴー少佐の報告に、グランデス将軍は即答した。

「しかしですね」

「分かっている」

 ダヴー少佐の抗議に、身振りも交えてグランデス将軍は、それ以上は言うな、と示した。

 階級差もあり、そこまでのことをされては、ダヴー少佐には何もできない。


「我が国もユダヤ人をパレスチナに送り込む等、他の国のことは言えない立場なのだ。君の二つの祖国に動いてもらいたまえ」

 グランデス将軍は、そう言って、ダヴー少佐から目をそらしながら半ば命じた。


 ルーマニアは、現在、アントネスク元帥の下で事実上の独裁体制にあった。

 そして、ユダヤ人やロマ(ジプシー)に対する迫害が半ば公然と行われている。

 更にそれを悪用する者もいる。

 スペインを含む連合国軍の駐屯地で劣悪な労働条件でこき使われる男性労働者や、その駐屯地の傍での歓楽街で働く女性達の多くがそういった民族だった。

 ダヴー少佐は、それを黙認せざるを得ないことが、腹立たしくてならなかった。 

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