第6章ー19
「しかし、そうなるとモスクワ占領を目指す中央軍集団が、英軍を中核とするとは言え、雑多な各国軍の集まりになってしまうのではないか。英軍以外で当てになるのは、ポーランド軍しかいない気がするが」
これまでの土方歳一大佐の半ば甘言に、かなり乗り気になった北白川宮成久王大将だが、そう疑問を流石に呈さざるを得なかった。
実際、土方大佐の進言にそのまま従えば、連合国軍の中央軍集団は、英軍はともかくとして、それ以外の各国軍の寄せ集めになってしまう。
「いえ、それも逆用します。つまり、英軍は鉄床の役割を果たすのです。バルト海上陸作戦から連動して行われる、いわゆるバルト三国解放作戦遂行により、ソ連の北方戦線に大きな穴を開けます。それに対して、ソ連軍がどのように対処すると考えられますか」
土方大佐の熱弁に、北白川宮大将は考えに沈んだ。
ソ連軍の基本方針は、これまでの防御体制から、ほぼ判明しているといっても良い。
基本的に奥地に連合国軍を誘い込んでから逆襲に転じ、それによって勝利を掴もうというのだ。
それに対して、連合国軍は奥地への侵攻作戦を覚悟し、それに対して膨大な戦力を準備することで対処しようとしている。
だが、これは諸刃の剣でもある。
膨大な戦力でソ連に連合国軍が侵攻しようとする以上、それだけ必要な補給物資の量は増大し、輸送の困難はいや増すことになる。
それに対処するために、実際にソ連欧州本土への侵攻作戦が発動された際には、進撃と共に鉄道を改軌し、道路網を整備し、更に内陸水路まで活用しようと連合国軍上層部は着々と準備を進めている。
だが、それがどれだけ効果を発揮できるのか。
机上の計算では充分に効果を発揮できると推論されているが、実際のところはやってみないと分からないというのが、現実というものである。
それから言えば、ソ連軍には前に出てきてもらいたい、少しでも国境に近い辺りで、ソ連軍を叩けるだけ叩ければ、その後のソ連奥地への侵攻作戦が容易になるのは間違いない。
そこまで考え合わせて行けば。
北白川宮大将は、土方大佐の考えに賛同する気持ちが強まった。
「よし。各国軍司令部に対して、その方針を提案して賛同を得られるように、日本遣欧総軍司令部は努力することにしよう。土方大佐、他の参謀達とも協力して、全力を尽くすように」
「分かりました」
北白川宮大将は、土方大佐に命じ、土方大佐は敬礼して答えた。
「しかし、本当に上手くいけばいいが」
北白川宮大将は、そう命じた後も疑念を覚えてならなかったが、土方大佐は、そっと後押しする情報を本国から得ていた。
「これをご覧ください」
土方大佐から見せられた書類の内容に、北白川宮大将は唸り声を上げた。
その書類は、前田利為中将が極秘のうちに集めた情報の一つで、仏軍外人部隊にナポレオン6世が士官として参加していることが書かれていた。
「仏政府、軍は、ナポレオン6世が外人部隊の一員になっていることを公表していません。余りにも政治的に微妙な話題ですから。だから、逆に外国政府、軍がこの情報を流すことも歓迎しない筈です。この件について日本は完全に沈黙を保つ、秘密は護ると言えば、仏政府、軍の態度はかなり軟化するでしょう」
「確かにな。この件は余りにも微妙な話だからな」
北白川宮大将は、土方大佐と思わず声を潜めて会話をしてしまった。
「それでは、全力を尽くしてくれたまえ。私もできる限りの支援を行う」
「分かりました」
北白川宮大将とやり取りをした後、土方大佐は想いを巡らせた。
さて、誰から交渉すべきかな。
やはり、アイゼンハワー将軍をまず第一に説得すべきだろうか。
それとも他の人間か。
土方大佐は、頭を痛めた。
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