第6章ー17
この各国の将軍たちの主張の中で、皮肉なことに一番、声が大きいのが、フランスだった。
特にアンリ・ジロー将軍の声が大きかった。
「今度こそ、我がフランス軍がモスクワを占領し、ロシアでは無かった、ソ連を降伏に追い込むのだ」
そう、ジロー将軍は呼号した。
だが、各国の視線は冷ややかなものがあった。
「フランス軍がモスクワを占領しては、ロシア遠征の二の舞になるのではないか」
「それに各国の協調という観点から考えると、フランスがモスクワを目指すというのは、フランス単独では無理で他の国の軍隊と共闘する必要がある。そして、どの国と共闘させるかと言うと」
米英日の将軍連は、陰で難色を示した。
前者はいわゆる縁起が悪い、というレベルの話なのだが、後者は深刻な問題を内包していた。
それは各国軍のいわゆる相性、共闘ができるか、という問題である。
特に東欧諸国の軍の間では深刻なものがあった。
例えば、ルーマニアとハンガリーは、オーストリア=ハンガリー二重帝国が健在であったことからの因縁、民族、国境問題から宿敵と言ってよいくらいの関係にあった。
従って、この二国の軍隊が肩を並べて戦うどころか、同じ軍集団にこの二国の軍隊を所属させることすら、米英日等は躊躇わざるを得なかった。
他にもギリシャとトルコ、ユーゴスラヴィアと伊等々、幾らでも各国間の問題は噴出した。
こうしたことから。
土方歳一大佐は、北白川宮成久王海軍大将、日本遣欧総軍総司令官の半ば密命を受けて、各国軍の間の根回し、調整役に奔走する羽目になっていた。
大っぴらに動けばいい、と思われそうだが、やはり、各国軍の上層部の本音、ギリギリの妥協点と言うものは、そうそう口には出しづらいものがあり、何度も陰で接触した末に、この辺りなら妥協できるという、いわゆる落としどころが見えてくる、というのが実際のところだった。
そうした末に。
「やはり、フランスに折れてもらうしかありませんね」
「そういう結論になるのか」
北白川宮大将に、土方大佐はそう報告せざるを得なくなっていた。
「ええ」
土方大佐は、そう考える論拠を、政治的、軍事的に説明しだした。
まず、北方軍集団だが、米日の二か国に北欧諸国の部隊を加えて編成するのが妥当だった。
これは、バルト海上陸作戦を実行可能な部隊を保有しているのが、日米二か国しかない、という現実に基づいている。
英国は、自分達も可能だと主張しているが、その場合。
「米国の兵力は予備も入れて、300万人近くもいます。つまり、北欧諸国の部隊を併せれば、単独で北方軍集団を編制できるのです。そこに英国の一部の部隊を加えると、英国だけ北方と他の軍集団と二つの軍集団に所属して、両方の戦果、栄誉を獲得できることになります。それは流石に他の国が」
それ以上のことは、土方大佐は口を濁して言わなかったが、言わずとも明らかだった。
そんな栄誉を、英国が占めることを他の国は絶対に認めまい。
そして、日本軍は、全てをかき集めても精鋭とはいえ、40万人程しかいないのだ。
これだけの戦力で、どれか一つの軍集団の主力を担うのは不可能な話である。
また。
それぞれの軍集団の主力を担える兵力を拠出しているのは、米英仏の三国しかないのだ。
そう考えていくと、英仏には、中央軍集団と南方軍集団、それぞれに分かれて軍集団の主力を担ってもらうのが妥当な話になってくるのも、極めて当然の話であった。
従って。
「英にはバルト海上陸作戦参加を諦める代償として、モスクワ占領の栄誉を与えましょう。そして、仏にはスターリングラード方面を目指してもらう。この辺りが妥協点だと私は考えるのです」
土方大佐は北白川宮大将に懸命に力説した。
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