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断切  作者: 池田 ヒロ
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◆◆◆◆日目

 村長の目にはデベッガ家の納屋からスコップ片手に出てくるカワダが映った。それは彼も同様で「どうも」とあいさつをした。そのあいさつに軽く返すと、村長は「不法侵入か?」と鼻で笑ってきた。


「人様のところからスコップを盗むなんてねぇ。いくらこの家に誰もいないからって」


「自分の家のを汚したくないからですよ」


 そう反論すると、ため息をつきながら家の裏手へと向かう。その後に続くようにして村長も向かった。そこにあったのは不自然に小さく掘られた穴と山盛りとなった土があった。これが何を示すのか。彼はしわくちゃの顔を更にしわくちゃにさせながら「においがひどいな」と呟いた。それにカワダは「そりゃ、そうですよ」と不自然に盛られた土を掘り起こしていく。


「どれぐらいの日にちが経っていると思っているんですか」


「考えられるとするならば、一週間以上か」


 山盛りの土から姿を現したのは腐乱した人の手。それがお見えになったところで土を掘り返すことを止めた。その場にスコップの先を突き立てる。そして、タバコに火をつけた。


「しかし、デベッガさん。慟哭山のバケモノとか呪いのことを気にし過ぎて逆に呪われちゃいましたね」


「呪い……ああ、罪人の子か」


「どこへ逃げたんでしょうかね?」


 カワダはタバコを吹かしながら、洗面所の窓から不法にも侵入した。家の中は外から見ても、中から見ても人気がないことはわかる。一週間以上ダイニングの方では電気がつけっぱなしなのだ。そちらの方へと赴いていると、ダイニングの方から玄関の方へと血の跡ができていた。玄関の方からは人気がする。そのことに構わずして玄関の鍵を開けた。そこからは村長が入ってきた。二人はダイニングへと足を踏み込む。


「時間が止まった感じだな」


 皮肉でも言っているつもりか。村長はダイニングテーブルの上に載ったままの料理を見てそう言った。床も血だらけ。ここで何があったのか安易に想像できる。だからこそ、この家の中の状況を確認するため、書斎の方へと足を向けていると、彼が「キイチ」と呟く。


「キイチが残した異国の妻とサカキさんの倅が連続殺人犯に殺された」


「……知っています」


「まだ赤ん坊だった罪人の子だけが生き残ってな」


 二人は書斎へと入り、机の上に誰かの日記があることに気付いた。それを捲ってみると、この日記の持ち主は異国からやって来た孤児を育てていたということがわかった。日記以外には無造作に広げられた地図と軍人育成学校の広告が一枚。そして、この部屋にある金庫は開けっ放し。中身はカードしか入っていなかった。


「逃げた先は学校か?」


 そう推測するのはカワダだ。そんな彼の憶測に村長は「ほう」と片眉を上げた。


「人殺しの血筋はそちらへと向かったか。大方、『復讐』という嘘でも掲げたか? やっぱり、キイチの子どもだ」


「追いかけますか?」


「しなくていい」


 村長はもう興味が失せた、とでも言うようにして書斎を後にする。その後ろをカワダが着いていく。


「どの道、彼らが死んだことはこちらが伏せても、あいつも黙っているだけだ。言えないだろう。自分が殺しただなんて」


「もっともですね」


「それにあいつが何も言えないのであるならば、こちらも好都合だ。言えるわけがない。黒の皇国がこちらに攻めてきた際、その攻めるルートを向こうにリークしたのが……」


 これ以上のことを言わずして、家を出た。家の裏手に見える山を見上げながら「ばかな子よ」と嘆いた。


「両親が死に、自分たちの子どもと変わらぬ愛情を注いでやったというのに」


「キイチはなぜ、あんなことを……」


「異国の亡霊に惚れてしまったから以外は考えられんな。まあ、どちらにせよ、あの罪人の子がこの村に再び戻ってきたときは――」


 村長の視線に気付いたカワダはタバコの煙を吐きながら「わかっていますよ」と答えた。


「軍にすべてを知られてはならない、でしょう?」


「ああ。何度も俺たちはあの血を断ち切ることに失敗してきた。キイチが死んだとき、ガキの母親が死んだとき、俺の息子があのガキに殺されとき、この家を出るタイミングを見失って殺し損ねたこの瞬間」


 村長は言う。この国を裏切るような真似をする血は断ち切らなければならなかった、と。二度とあの悲劇を繰り返してはならない、と。


「あいつが死んだところで……どうせ、連続殺人事件がどうだという話になるだけで、大した騒ぎも起きん。あの犯人もどの道捕まらないだろうしな。何より、あのガキのために悲しむやつは誰一人としていなくなったのだから」


「今はキリ・デベッガって名乗っているんでしたっけ?」


 名前すらも持つことが許されない穢れた血筋を持つ子どもがどうして「キリ」だなんて名前を手に入れたのかは知らないが、我々はこの呪われた地でお前を待つ。お前が再びこの村に足を踏み入れたときが最期だ。









 今日昼頃、北地域北西部に位置する鬼哭の村で謎の大規模爆発事件が発生致しました。原因として反政府軍による無差別テロの可能性があり、被害状況は死者三十八名、重軽傷者百六名。村の中の建物は全壊が十七棟、半壊が四十二棟です。王国軍はこの村の立ち入りに規制をかけており、現在鬼哭の村には住人すらも立ち入ることはできなくなっているとのことです。

<あとがき>

 ここまでご愛読ありがとうございました。まず、この作品にあたってですが、この物語は私が執筆した「世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う」というハイファンタジーの中の主人公の過去の一部となります。


「世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う」→「第四章 哀れな愚か者の末路」→「断切」→その後半部分。


 ですが、大本の作品を知らない人でも読めるようにはしているはずです。それでも、ラストがどこか曖昧だったかもしれません。また、一応サスペンスミステリーであるこれの元作品がハイファンタジーのジャンルではあったため、地域の名前とか人の名前、物の名前も現実はどこか離れています。そこはご了承ください。


 アシェドとエナが養子受入をした「キリ」というキャラクターがどういう思いで彼らのもとに留まったかについては「世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う」をご覧ください。こちらはアシェドたちの心情は載せていなくとも、キリは主人公なので、載せています。


 この作品の内容のほとんどは本編ではカットされまくりの状態でした。それでも、偶然本編のプロットが出てきて、ここまで詳しく決めていたのに結局書かず仕舞いだったことが後悔の念もあり、執筆に至りましたが――すっきりしました。書けてよかった、思っています。


 最後になりましたが、みなさんの貴重な時間をありがとうございました。


池田ヒロ


 この作品と関わりのある作品

「世界は運命を変えるほど俺たちを嫌う」

「世界は夢を見せるほど俺たちを嫌う」

「世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う」

 ※どの作品も単品で楽しめるようにはしています。

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