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久々の我が家

 シャインはゴブキンとオークロードを連れて城下町に来た。


『うわあ、ここが町ゴブかぁ』

『実は俺も人の町は初めて入ります』


 街の喧騒を眺めながらゴブキンとオークロードが感動していると町が騒がしくなった。

 衛兵達が大勢やってきた。


「この町はゴブリンとオークは立ち入り禁止だ! 即刻立ち去れ!」

「ええ!? 魔王軍だよこいつら」


 シャインが衛兵に説明した。


「問答無用! 立ち去れ!」


 衛兵が構えた槍をシャインたちの胸元に突き出す。


『ふっざけんな! 俺たちが何したってんだ!』

『そうゴブ! 他の亜人は入ってるゴブ。これは差別ゴブ!!』


 二匹が顔面を真っ赤にして吠える。


「強盗、強姦、殺人――数え切れぬほどあるわ!」

「俺の妹も酔ったオークに襲われたぞ!」


『……それはすまん』

『あ、ごめーんゴブ』


 目が点になり二匹の顔が青ざめる。


 次々に衛兵や冒険者が集まり始める。今にも討伐隊が結成されそうな勢いだ。


「ひとまずここを離れよう」


 シャインたちは街から数キロ離れた場所、数十のゴブリンとオークが待機している所まで逃げた。

 ボスの帰還に部下たちから安堵、ではなくやっと戻ったかという愚痴が聞こえる。


『はあ、はあ、疲れた。魔王軍に参加しているとつい自分たちの立ち位置を忘れてしまうよな』

『そうゴブね』


「お前らやっぱり最低な生き物だったんだな」


『やっぱりってなんスかシャイン様〜。あいつら言葉も理解しない低級オークと俺様を同じに見てるんすよ』


 オークロードがべそをかきながら訴える。


『シャイン様! 全てのゴブリンを嫌いになってもオイラだけは嫌わないでくださいゴブ〜』


「分かった分かった。魔王軍は実力主義だから多少のことは気にしない」


『そうなんですかゴブ?』


「逆にいうと弱い奴は喋る権利すらないと思え。だから訓練しろって言ったんだ」


『は、はいゴブ』


 二匹が姿勢を正して返事した。


 シャインがアイテムボックスからドラム缶ぐらいの大きさの木製の籠を10個ほど出した。

 籠の中にはジャガイモ等の穀物や果物や干し肉が入っている。


『こ、これは』


「食料だ。本当は街でもっと仕入れたかったけどここまで目立ってしまったら買えない。ある分で我慢してくれ」


『貰っていいんですかゴブ?』


「ああ、全体的に皆栄養失調だからな。食べないと本当の力は出せないだろう」


『シャイン様……』


 二匹は目を潤ませた。


「あと負けた要因の一つに装備がある。中には腰布巻いただけの奴もいたし。これは魔王軍の責任でもあるから出来るだけ手配しておくつもりだけど、今ある分を与えるから適当に持って帰ってくれ」


 そう言ってシャインはアイテムボックスから、ダンジョンで手に入れた骨系の装備や最上級品以外の各種武器を大量に出した。

 

『おぉ……あ、ありがとうございます!』

『仲良く分けるゴブ!』


 二匹の部下たちもそれを見てオオォ! っとテンションが上がっている。

 このことがゴブキンたちが住処の僻地でとんでもないことを起こすことをシャインはまだ知らない。


「ていうかお前ら仲が良かったの?」


『いやあ、昔はそうでもなかったんですが喋ってみたら意外に気が合うみたいな? 村も近いですし』

『うーん、そうゴブね。トップ同士の愚痴も話せるし』


「ふーん、なるほど。敵側はゴブリンとオークの弱点を把握していた。

ゴブリンには騎馬をぶつけたり、足の遅いオークは弓で削ったりといった具合に」


『そ、そうなんですか』


「2種族で連携とれるなら弱点を埋められるかもしれない。オークロードちょっとその籠を背負ってくれる?」


『は、はい』


 籠を背負うとオークロードが畑にいくような農夫の格好になった。


「ゴブキンその籠に入ってみて」


『は、はいゴブ』


 籠に入ると、まるで父親に背負われる子供の絵になった。


 どっとオークの集団から笑いが起こる。


『……シャイン様酷いゴブ』


「いや笑い者にしたいわけじゃないから。そこから短剣や弓、パチンコ、スリング等で投擲できそう?」


『うーん、練習したら分からないけど足場が安定しないので難しいと思うゴブ』


「そうかオークの身体を盾にしながら2匹で戦えて、背後も守れるしいいかなと思ったけど、安定しないならダメだな」


『すいませんゴブ』


「そんな風な連携も考えといて。いいものがあったら採用するから」


『『分かりました(ゴブ)』』



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ゴブキンたちと別れシャインは町で買い物をしていたノエルたちと合流し自宅の砦に帰ってきた。

 面子はカイ、ノエル、アルフィリア、ホルノ、王冠、リリーナである。ネオスはそのまま魔王城に帰った。

 鬼斬と心音は二人の申し出があり城下町に滞在することになった。旅の間二人は急接近したのだ。あまり鬼斬を意識していなかった心音もシャインたちについていくことより自分を想ってくれる鬼斬を選んだ。


 到着を前もって伝えていたクルが玄関からひょこっと顔を出す。羽をパタパタさせながら駆けてきた。


「お帰りなのだ」

「ただいま」


 クルがシャインの後ろを見た。


「前もって伝えていたけど今日から砦に住む人が増えるからね。こっちが従妹のノエルに、アルフィリアにこちらがカイの母親のホルノと、あとはクルも知ってるだろうリリーナだ。あとこっちが王冠」


 クルが一人一人確認して最後にリリーナに視線が戻った。リリーナの顔が青ざめる。


「リリーナのことはちょっとややこしくてな、魔王様には黙っていてほしい。もし勝手に喋ったら、専属パートナー解雇だぞ」


 クルが目を見開き、高速で首を上下にぶんぶん振った。


「じゃ皆部屋はまだたくさんあるから好きな部屋使ってくれたらいいよ」


「わーい」

「ありがとうございますシャイン様」


 ノエルがはしゃぎ、ホルノが丁寧に挨拶する。各々感謝の意をのべた。



 砦は真ん中が吹き抜けになっており、二階には9部屋ある。


□ □ ■

□  □

□ ★ ●


(■がカイ、★がクル、●がシャインの部屋)




 陽当たりが良くテラスのある南側がすぐ埋まるかと思いきや、ティアラは北側の左奥を選択した。

 リリーナは、シャインが止めたが本人の強い希望で地下にある三部屋のうちの一室に。ノエルが南側の左になった。アルフィリアがシャインの北側。

 そしてホルノは一階中央付近にある部屋を選んだ。

 シャインから見て階段に近いし、通り道だし忙しない場所に思える。


「気を使わなくていいんだよ。カイの隣か同じ部屋でいいのに」

「私はこの部屋でお願いします」


 意思は固そうだ。

 隣で聞いていたカイが心なしかガーンとなっている。


「分かった。また移動したくなったらいつでも言って」

「お気遣いありがとうございます」


 ホルノがお辞儀をした。

 温和で上品に見えて、同時に一部の隙もないような不思議な女性だとシャインは思った。ちなみにもう敬語は辞めている。


 全員の部屋に町で予め選んでもらっていたベッドや家具などの配置が完了した。これにシャインは6000ゴールドというだいの大人が十年くらい働いて稼ぐ分の金を使った。魔法書を売ったりなどで工面した。


「では他に必要な物があればクルに言ってね。クル、負担をかけるかもしれないけど出来るだけ聞いてやってくれ」

「分かったのだ」


 クルが頷いた。


 皆疲れただろうからしばらくのんびりすればいい、そうシャインは思った。



 食事と湯浴みも終わり。シャインの心は久々にカイと、でいっぱいだった。


 ムフフな気持ちで歩いていると、通路ではたとホルノと出会う。

 湯からあがったホルノは一段と妖艶でしっとりとした女の色香を醸し出していた。


 思わず太ももや胸元に目がいってしまった。


 ――しっかりしろ俺! カイの母親だから!


 カイのことを考えて気持ちを紛らわせる。


「……シャイン様、お疲れのようですね」

「そ、そうかな?」

「私マッサージが得意です。こちらにいらしてください」


 ふっと手を引かれ、ホルノの部屋に案内される。


 ――えええ!?

これって完全にあれじゃん。だめだめカイがいるのに。


「え、いや――」


 と言いつつ、柔らかくすべすべの手を振りほどかずに部屋に入っていった。

 ノエルが見ていたらドン引きの光景である。


「さ、上着を脱いでください」


 ――え、これもう完全にその流れじゃない?

後でそんなつもりじゃないと言ってももう俺は、俺は――


「ここに寝てください」


 言われるがままベッドに上がり、ホルノの膝に頭を乗せた。

 ホルノの顔が見えなくなるほどの巨乳。もう下半身の状態に気づいているだろう。


 ホルノの白く長い指がシャインの頭に滑り込む。そして繊細に動き出す。


「……ぁ」


 思わず喘ぎ声が漏れてしまった。


 ――ふあああ!?

これはなんだ!? ヘッドスパか?


 一番近い例えはそうだろう。

 まるで天にも昇るような最高のマッサージ。


 10分後――シャインは爆睡していた。


 それを確認しホルノが部屋を出る。


 ホルノの目の端で影がぴゅっと引っ込んだ。


「あらカイ?」

「う、うん」


 ひょこっと姿を現した。二人が部屋に入っていくのを見ていたのだ。


「シャイン様は私のマッサージを受けて寝ています。今日は起きないでしょう」

「あ、あれを――」


 カイはごくりと唾を飲み込んだ。


「久しぶりにカイにもしてあげるわね。ついでに一緒に寝よっか」

「うんっ」


 カイが満面の笑みを見せた。

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