結末
魔王が攻めてきたの報に場は騒然となる。
「数は!?」
「約30です」
「なんだ少ないな」
「魔王とサキュバスだけみたいです」
「ば馬鹿者、本隊ではないかそれを先に言え!」
報告にあがった兵士と貴族のやり取りを聞いてシャインは心の中でガッツポーズをした。
鬼斬にメッセージで頼んでいたのだが上手くカイからネオスにまで伝わったようだ。ここまで早い対応をしてくれるとは思わなかった。ネオスと魔王に感謝した。
「だから来てるって言っただろ。で、今から戦争するの?」
シャインが言う。
貴族たちが目線で合図し合う。意見は一致していた。
「しない!」
「するわけないだろ!」
真っ先に声をあげたのは戦争派の若者たちだった。
実際に戦う気はなく勇敢な姿を周囲にアピールしたかっただけ。本当に戦争になってしまったらまず自分たちが矢面に立たされる。それだけは避けねばならない。その否定する姿にはもはや恥も外聞もなかった。
「こちらも始めから争うつもりはない。ニコラウスが謝罪し罰を受けるなら魔王様にはすぐに帰ってもらう」
「よかろう、それで手を打とう」
現王が頷いた。
アランがシャインの前に立った。
「何百年ぶりかに感情が戻った、感謝する」
「……」
感謝されても困る。カグヤさんの気持ちを思えばまだ許してもいない。複雑そうな顔をするシャインの胸中を察したのかアランが口を開く。
「……何か困ったことがあったら私のところに来るがいい」
それだけ言い残してアランは部屋に戻った。
貴族たちはそのやり取りを唖然とした顔で見ていた。
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王都から東に30キロの荒野に立つシャインは、遠くにあがる土煙を発見した。
やがて姿がはっきりと見える。魔王だ。シャインたちが来たルートで来たらしい。
向こうも気付いているらしく、徐々にスピードを落としている。
シャインの前で一団が止まった。戦争時のように全員武装した格好だ。
魔王がバイコーンの上からシャインに声をかける。
「捕まったと聞いたが」
「ありがとうございます。魔王様が来てくれたお陰ですぐに解放されました。王国に戦争する意思はありません。エルさんもありがとうございます」
シャインは丁寧にお辞儀をし感謝の意を示した。
今回の迅速な対応はネオスと恋人のエルに直通の通信手段〈メッセージ〉があったお陰でなのだ。
「そうか――これで貸し借りは無しじゃぞ」
――タイマンの貸しを覚えていたか、意外と律儀なやつだな。
「はい、ありがとうございます」
魔王はシャインの後ろにいる10人ほどの若い兵士たちを一瞥した。
魔王の視線を浴びて全員が震えあがっている。監視と生け贄要員で選ばれたちょっとイケメンな兵士たちだ。
対してサキュバス達は「あら、あの子好み」という緊張感のない会話をしていた。
「このまま一緒に帰るか?」
「王国より滞在許可はもらっているので、用事を済ませてから帰ります。帰ったらまた報告にあがります」
「そうか、分かった」
そう言うと魔王はバイコーンの手綱を引き、あっさりと踵を返した。
「二度と下らぬことで魔王様を煩わせるなよ」
フリージアが去り際に唾を吐くように罵っていった。
魔王が去った後、シャインは恐怖で腰が砕けた兵士たちと一緒に王都に戻った。
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<王都、トレビアン亭>
トレビアン亭の片隅では、意識的に手入れをするようになったカイが尻尾の毛繕いをしていた。
それを遠目から見ていたノエルが近づく、
どんっとテーブルにグラスを置いた。
「リンゴジュース、やる、尻尾、触らせる」
「ど、どうぞ」
ふんふんと鼻息を荒げるノエルに気圧されたカイがお尻を向けた。
「おほぉ、最高。女同士なら遠慮なくいけるわ」
ノエルが尻尾に頬ずりしながら撫で回す。
カイが頬を赤めて照れた。
「……シャイン様も触るのが好きです」
「ぬうっ、やはり彼奴もか――」
昨晩のあの光景を見て予想はしていた。カイちゃんなら何をされても文句言わなそうだし、ノエルはそう考えた。
「カイちゃんお節介かもしれないけど、もっと自分を大切にした方がいいよ。男はやるだけやって飽きたら玩具のようにポイッと捨てる生き物だって友達が言ってたし」
「あ、飽きられないように頑張ります」
「ちがーう!」
声を張り上げると、カイが目を丸くした。ぱちくりとしたピュアな瞳で見返される。
「やっぱり可愛いっ」
伝わらないもどかしさにヤキモキするも、一度は惚れた弱み。ノエルはカイに飛び付いて抱き締めた。その時、扉が開いてシャインが入ってきた、
「何してるんだ」
「何でもありませんわ、オホホホホ」
シャインはばっとカイから離れ、逃げるように後ずさるノエルを疑うような目で見た。
「何故逃げるの?」
「逃げてないですわお兄様――って後ろの方たちは誰ですの?」
ネオス、ホルノ、リリーナを順々に見ながらノエルが言った。




