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一目惚れ

<王国、トレビアン亭>


 閉店後の店内でパンツ一丁で正座をする森裕次郎は恐怖で震えていた。

 ギフテッドの裏切り――足元から自分が築き上げたものが崩れる音が聞こえた。

 確実に自分は殺される、そんな予感がする。


「本当に、本当に申し訳ございませんでした! 転生してから家族を失い、我を失っておりました。どうか許してください」


 同情を引くように言葉を選び、裕次郎は真摯に土下座した。我ながら90点くらいの謝り方だと思った。

 その様子を見ていた京子たちがやってきた。


「私こいつに強姦されたんです! 死刑にしてください!」


 京子が訴える。

 裕次郎は心の中で舌打ちした。


「それは違う。合意だったし、言っちゃ悪いが君らは奴隷だ。それに僕をさんざ苛めていた君らも悪いんだ、目には目をだ」

「きぃぃっ! なんだとこのカス野郎――」

「ぐあっ」


 京子が裕次郎の顔を引っ掻き回した。

 その様子を見ていたノエルが口を開く。


「死刑ね」

「ギフテッドの連中は許して何でこいつが死刑なん――」


 ノエルがなにか訴えるように目配せをしていることに気づきシャインは黙った。何か考えがあるようなので追従しておくことにする。


「そうだな。ここまでしたら死刑だよな普通」

「ひいい、どうかお願いします。なんでもします」

「なんでもって?」


 ノエルが聞く。


「慰謝料を払います。いえ全財産差し上げます! 店も全て譲りますのでどうか許してください」


 ノエルの口角が一瞬上がったのをシャインは見逃さなかった。


「しょうがないわね、分かったそれでいいわ。あなたはこの店で引きつづき働いて女性たちに賠償すること。女性たちは二度と苛めはしないこと。これでいいかな?」

「はい! 分かりました」

「……」


 裕次郎は命拾いしたという顔で元気よく返事をした、逆に女たちは不服そうに口を尖らせた。


 ノエルが困った顔をした。


「不満な気持ちは分かるけど、この人を殺せばお店は存続できないし、各自で職を探してもらうことになるけどいいかな?」

「そ、それでいいです」

「わたしも」


 ノエルの言っていることを理解した女たちが、現状よりもましになるので口々に承諾した。


「ではこれで一件落着ね」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「はあ、疲れた」

「あの――」


 一息ついたノエルたちの前に北条王冠が立った。後ろには元ギフテットの4人もいる。


「仲間の傷の治療を行ってきてもいいでしょうか?」

「そんな回復魔法が使える人がいるのか?」


 シャインが聞いた。


「はい、お世話になっている貴族にお願いしようと思います」


 ノエルが頷いた。


「いいわよ」

「ありがとうございます」


 5人がほっとした。


「では今から行ってきます」


 そそくさと立ち去ろうとする5人の背中をノエルがじっと見る。


「あなたたち、裏切ったら私のスタンドがすっ飛んでいくからね」


 ノエルが仁王立ちし腕を組みながら言った。


「誰がスタンドだ」


 シャインが漫才風の手でツッコんだ。


「「あはは……」」


 5人がが引きつった笑いを浮かべた。


「人を殺そうとしたやつがヘラヘラするな」

「ひぃっ、すいません」


 シャインが怒ると、5人は真っ青な顔をして出ていった。



 ギフテットの5人が無言で歩く。足取りは重い。

 昨日まで飛ぶ鳥を落とす勢いだったのにいまや見る影もない。

 人生でこんな挫折を味わったことのない5人の心中は様々だった。


「くっそー、腕が直ったらぜってーあの野郎をぶっ殺してやる。な、シオン?」


 失くした右腕を見つつマイク・オーガンが言った。


「……」


 数檄打ちあって絶望的な力の差を感じているリュ・シオンはぎゅっと口をつぐんだ。


「まあ悪い人たちじゃないと僕は思ったよ。今回は僕たちが全面的に悪いし」


 山田鬼斬が言った。


「……」


 そこから5人は無言になって歩き始めた。



 閉店後のトレビアン亭では、ノエルを中心にシャイン、ネオン、従業員の女性4人で宴会をしていた。森裕次郎だけは罰として一人で働かされている。


 酒を煽りながらシャインはネオンを凝視する。

 絵画の中から飛び出してきたようなエルフである、しかも均整の取れた肢体でありながら豊満な胸を持っている。

 胸も気になるがシャインが凝視しているのは名前であった。


【アルフィリア・エル・シフォン】


 シャインにはこの名前で見える。本名はネオンのネの字もつかない人物なのだ。

 これはノエルに言うべきか悩む。

 ギフテッド戦の時、ノエルを守っていたという話を思い出した。敵ではないはず、でも一応注意しておこうとシャインは思った。


 しばらくすると、扉がノックされ声が聞こえた。


「カイです」

「え、カイ!?」


 シャインが扉を開けにいく。


「どうしたの? 今日は帰れないって言ってただろう」

「心配になってきました」


 そう言って真っ直ぐに見つめられてシャインは照れた。


「そうか、ありがとう。ネオスとホルノさんは宿屋?」

「はい、別々の部屋で寝ています」


 ――ちょっと心配だけど、絶対何もしないって言ってるし大丈夫かな。


「そっか、まあ入って」


 シャインが隣の席に誘導する。


「え、え? お兄ちゃんこの方はどちら様?」


 ノエルが目を丸くしてシャインに聞く。


「仲間のカイだ」

「初めましてカイです」

「は、はじめまして。ノエルです」


 二人がお辞儀をする。

 ノエルは顔を上げてカイを見た。

 何かがノエルのハートを撃ち抜いた。


 そこからは何故かノエルの手作り料理が振る舞われ、コーヒーを飲みながらシャインたちはこれまでの経緯を話し合った。酔っていたのもあり、時おりネオンの目がギラギラしていたのをシャインは気付かなかった。


 お腹いっぱいになったカイは大満足な顔だ。食いしん坊のカイはノエルの手料理を全部たいらげた。

 それを微笑ましく見ていたシャインとカイの目がばちっと合った。



 シャインとカイが二階の寝室に行ってしばらく経つ。勧められたチューハイを少しだけ飲み頬を赤らめたノエルが言う。


「何よ積もり積もった話もまだあるっていうのに、そそくさと寝に上がちゃって」

「そうですよね~」


 従業員の女たちがノエルに相槌を打つ。


「カイ君の年齢とか趣味とか職業とかもっと聞きたかったのに!」

「あ、わたしも聞きたかった」


 きゃっきゃと、女たち同士の雑談が盛り上がる。

 その時、ネオンがばっと立ち上がった。


「おれは用事があるから帰る」

「そう、分かった。お疲れさんね。今日はありがとね」

「ああ」


 どこか暗い表情のネオンがすたすたと立ち去った。

 無愛想なのはいつものことなのでノエルは気にも止めなかった。

 それよりも今のノエルの関心はカイである。


「わたしお兄ちゃんたちにお休みの挨拶に行ってくるわ!」

「それは迷惑では?」

「ノエルさんチューハイ一杯で顔赤いですよ」


 従業員の女たちが止めるもノエルの耳に届いていなかった。


「ううん、今日のお礼ちゃんと言ってなかったし行ってくる!」


 ノエルが階段をどたどたと上がっていった。

 シャインたちの寝室の前に立ち、おもむろにドアをノックした。


「もしもーし」


 返事がない。


――ドンドン。もひとつ大きくノックする。


「もしもーし!」

「な、なに?」


 室内から慌てたようなシャインの声が聞こえてきた。


「とりあえず開けて」


 ノエルが鍵の閉まったノブをがちゃがちゃと回す。


「ちょ、待って」


 部屋の中からバタバタした雰囲気が聞こえ、やがてドアが半分ほど開いた。シャインが顔だけ覗かせた。


「なに?」


 上半身裸でズボンだけ履いたシャインが、少し強い口調で言う。


「と――」


 ノエルは裸に驚いた。中を覗くと、見える範囲で脱ぎ捨てられた二人分の衣服、ベッドの脇からは柳のようにカイの尻尾が垂れていた。


「きょ、今日はありがとう。ちゃんとお礼言ってなかったから」

「そうだったっけ? うん、分かった。お休みね」

「お、お休み」


 バタンとドアが閉められた。



「どうしたんですか、狐につままれたような顔して」


 戻ってきたノエルの表情を見て京子が言った。


「あの二人一緒のベッドで寝てた」

「ベッドは一つですしおかしくはないですよ」

「ううん裸だったの、ベッドからカイ君の尻尾がしな〜って、しな〜って」


 ノエルが腕で尻尾を表現しながら説明する。


「そら寝てたら尻尾も垂れますよ」

「違うの、あの二人モーホーよモーホー。最近多いって聞くけど本当にあったんだぁ」

「大げさですね~ノエルさんは」

「まあまあ、もう一杯飲みましょう。おい、裕次郎チューハイ!」


 酔っ払った京子の声に反応し厨房の奥から裕次郎の返事が聞こえる。


 それから話は女たちの恋バナに発展し夜が更けていった。

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