ギフテッド
~時は数日前に遡る~
王都の食堂にて――
「これ、ノエルのスーパーデリシャスハンバーグと同じ味がする!」
「ちょ、やめてよ」
ノエルが恥ずかしそうに顔を赤めながら大きな声で話すネオンを咎めた。
そのやり取りを見て微笑ましく店員たちが笑う。
この店のオーナーの森裕次郎も見ていた。
異世界にきて数週間、地球時代は苛めを受けていた裕次郎も異世界にきて成り上がった。転生直後、防犯グッズショップへ入り大量のスタンガンを盗んだ。それを王国の兵士に献上したら運よく貴族の目に止まり、あれよあれよという間に市民権を得て店をもらった。
今ではかつて自分を苛めていた張本人の職場の女と美人のパートを2人と可愛い同僚の女1人の計4人を奴隷にして使っている。
(そうだ、俺は神に選ばれし人間。支配する側にまわったのだ)
裕次郎は意気揚々と二人組に近づいていった。
一人は黒髪の少女。若草色のスカート、ウェーブがかったポニーテール、瞳の大きな可憐な少女、もう一人は帽子と眼鏡をかけた金髪の女。
裕次郎は近くで観察した。
なんとなく親近感がわく。黒髪の子は日本人だと思う。胸が高鳴った。
今の俺なら簡単にものにできるだろう。
「お嬢さん、俺の店の料理はいかがですか?」
「ええ、美味しいですよ。地球風の料理がここでも食べれるなんて感激」
少女はお世辞混じりの返事をしただけなのだが、裕次郎の目には潤んだ瞳で慕ってくるように感じた。
「まだ食べますか? 俺の奢りで出しますよ?」
「もうお腹いっぱいです、ありがとうございます」
「そうですか」
一向に立ち去らずじろじろ見る店主に対して、女がイライラしていることに裕次郎は気づかない。
「ネオンやめてよ、こんなところで――あの、まだ何か?」
ノエルが裕次郎に言った。
「いや、同じ地球人として仲良くしたいなと思って――!?」
(おお!? こっちの金髪、細身のくせに巨乳ー!)
裕次郎が思わず覗き込む。
その時、ガタリとネオンが立ち上がった。
「ぐぼっ」
おもむろに裕次郎の腹に膝蹴りをかました。。
「うぜーんだよオッサン」
「ひいっ!? 何してんのあんた!?」
「だってよー、じろじろ見てくるからよー」
「もういいから。ご馳走様でしたー」
鳩尾に入り、呼吸困難でうずくまる裕次郎をよそに、慌てて勘定を済ませ店から出ていった。
☆
夜。裕次郎はベッドで仰向けになって天井を睨んでいた。隣には自分が苛めていた女が寝ている。
「あいつら~、この俺様を馬鹿にしやがって、絶対に許さねえ」
裕次郎は、ピンと閃いた。
「そうだ、あいつらを使って――」
黒い笑顔を浮かべた。
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~時は戻る~
「シャイニングロードのノエルさんですか?」
ネオンと二人で東の通りにいた時、ノエルは黒髪の女性に声をかけられた。
「あ、はいそうですが」
「あの、サラと言います。有名なあなたに依頼があるのですが」
「え? 有名――ごほん。話だけでも聞こうかしら?」
ノエルが身だしなみを整えながら言う。
「実は先ほど友人がゴブリンに襲われまして、ギルドに依頼する時間やお金もなくて困り果てていまして」
ノエルはネオンを見た。ネオンは興味ない表情をしているが「しかたねーな」といって付き合う素振りを示した。
「分かった。サラさん歩きながらでいいから詳しく話して」
サラが言うには友達が二匹のコブリンに襲われたとのこと。
ノエルは案内してもらうことにした。その時、
「ノエル!」
という男性の声が広場から聞こえた。
しかしサラに手を引かれ返事はできなかった。
ノエルはもう一度振り向いたがもう人混みの中に消えて見えない。どこか懐かしい感じのするあの人は誰だったのだろう。
☆
あたりが若干赤みを帯びてきた夕暮れ時。ノエルたちは王都の東口から出て城壁に沿って南に歩いていた。
「サラさん先に言っておきますけどゴブリンは凶悪だから――言いにくいけど……」
「生存の可能性が低いことは覚悟はしています」
サラは気落ちしながらもしっかりとした表情で答えた。
城壁沿いを歩いていると、海が近くなってきた。海岸線が続いている。
久々に海を見たが状況が状況だけに感動の言葉すらなく、ノエルたちは黙々と歩く。
「あそこです」
サラが城壁近くの岩場を指をさした。
ノエルとネオンが武器を構えて警戒しながら近づく。
「なにもないわね」
見渡したが血痕や争った痕跡もなかった。
振り返り確認しようとすると、サラがいない。
代わりに複数の影。
6人の若い男女が囲むように立っていた。
ノエルは嫌な予感がした。
「おーほっほっほっほ」
手の甲を口元に、高笑いしながら一歩前に出てきたのは、金髪縦ロールのフランス人形のような精工な顔をした美女だ。
「あなたは……!」
ノエルは知っている。
北条王冠、大財閥の孫娘にしてテニス界の天才児としてメディアを賑わせた人物だ。
そして現在は転生組で最も勢いのあるギルド<ギフテッド>の副ギルドマスターである。
「これは何のつもり?」
「この状況でまだ理解できないか。これだから凡人は困るな」
黒髪の男が中指で眼鏡をくいっと上げて一歩前に出た。ギフテッドのギルマスにして地球時代は十代で巨万の富を築いて脚光を浴びた天才デイトレーダー、陰山聡。
卓球界の世界王者リュ・シオン、野球界の至宝マイク・オーガン、天才ピアニスト渋谷心音、プロゲーマー山田鬼斬、皆そのジャンルで成功していた若き天才たちだ。
ノエルが6人を睨む。
陰山聡がさらに一歩前に出た。
「あなたを奴隷に欲しがっている人物からの依頼を引き受けました。これでご理解頂けたかかな?」
陰山聡が淡々と喋る。
ノエルの顔がさっと青ざめた。
「ふざけないで! あなたたち未来のスターがこんなことをしていいと思ってるの!」
「ふっ、それは地球時代の話だ」
「話をするだけ無駄だ」
ネオンがノエルに並んだ。
剣を構えた。
「お、いい剣だな」
リュ・シオン――小柄でオカッパのアジア顔の青年が前に出てきた。
両手には短剣を持っている。
「きっしっしっし、こいつは殺していいんだよね?」
「むしろ絶対に殺さなくてはいけない」
陰山聡が答えた。
「よしお前、どっちがツエーか試さねーか?」
「くそガキが」
リュ・シオンの言葉に、ネオンが睨む。
二人の距離が縮む。ギフテッドのメンバーは高みの見物だ。
ネオンが先に仕掛けた。
シオンが斬撃を紙一重で避ける。
「おいらには見えてるんだよねー、あらよっと」
剣の戻りに合わせて短剣が走る。
シオンの攻撃を皮一枚で凌ぐも、連撃がさらにネオンを襲う。
ガードが間に合わず、斬り刻まれる。
「ひょーっ、それはスピード違反だぜシオン~」
マイク・オーガンがおどけた調子で笑う。
「ネオン……!」
ノエルが叫んだ。
★
シャインが立ち止まった。
「今、誰かの声が聞こえなかった?」
「いえ何も」
「ぼくも何も聞こえなかったけど」
カイとネオスが首を横に振る。
「おかしいな、気のせいかな――」
やけに落ち着かない。胸騒ぎがする。
★
ネオンが連撃を食らい吹き飛ばされる。
「ネオン!」
踞る血だらけのネオンにノエルが駆けよった。
「才能が違うんだな、きっしっしっし」
「おいおい〜苛めはやめてやれよ〜」
マイク・オーガンが楽しそうに言う。
「あ~くそ、なんであんなガキに負けなきゃならないんだ。おい、ノエルお前は逃げな」
「そんなことできるわけないじゃない」
ノエルが涙を浮かべて首を振る。
「お別れは済んだかな? きっしっしっし」
リュ・シオンが素早く接近し、鋭い突きを放つ。
それをネオンは紙一重で避けた。ネオンの方も若干、慣れてきたのだ。
「おろ?」
体勢を崩したリュ・シオンの隙を、ネオンの殺意に満ちた眼が射抜いた。
剣での一閃。
「し、しまっ――」
『《エナジーボルト》』
シオンに攻撃がヒットする直前、横から衝撃が飛んできた。ネオンが体勢を崩し、心臓を狙った一撃が肩をかすめる。
「ぎゃあっ」
リュ・シオンがうめきをあげながら吹き飛んだ。
「ナイス、鬼斬。さすがプロゲーマーいい反応してるぜ」
マイク・オーガンが援護をした青年を誉めた。
「ぐ、この野郎、殺す!」
「だから言わんこっちゃない。お前は休んでおけ。俺があの金髪ねーちゃんの首を沖まで飛ばしてやるから見とけ」
マイク・オーガンが大剣を担いで出てきた。
しかし一連のやり取りを見ていた陰山聡が冷徹に口を開く。
「いや全員で確実にやる。削れ」
「んだよ~出番ねーじゃん。つまんねー」
ふてくされながらもマイク・オーガンが後ろに下がった。
エナジーボルトを使える渋谷心根と山田鬼斬が放つ。
食らったネオンが苦悶の声をあげる。息も絶え絶えの状態だ。
その時、ネオンを庇うようにノエルが両手を広げて立ちはだかった。顔は涙で崩れている。
「よってたかって卑怯者!」
泣きながら叫ぶ。
「殺し合いに卑怯もなにもないだろう。どけ」
マイク・オーガンが恫喝する。
「絶対どかない」
「じゃあ手足の一本でも切り落とすか」
マイク・オーガンが怖い目つきでぐいっと前に出た。
肩を掴まれノエルが後ろに押し戻された。満身創痍のネオンが出てきた。
風前の灯火、もうひと押しで死ぬのが誰の目にも明らか。
「今だ!」
『《エナジーボルト》』
『《エナジーボルト》』
陰山聡の合図に呼応し魔法が飛ぶ。
「ネオン……!」
――ドズーン。
地面が揺れるような轟音が響く、突如ネオンの目の前に空から何かが落ちてきた、巻き上がる土煙。
それが徐々に消えると一つの影、男が立っていた。
男は膝までめり込んだ地面から足を抜いた。
夕日を受けて燃えるように輝く栗毛色の髪。
男が振り返る。包みこむような優しさを持った目で、涙と鼻水でグシャグシャになったノエルを見た。
「ノエル、泣いているのか?」
男がそう言った。
傷だらけのネオンに視線を移す。
そして前に向き直った。
6人を睥睨する目は、先ほどとは別物――凍てついた殺気を宿していた。
ノエルは男の背中を見ると、視界が滲んだ。
「あ、あれ? おかしいな? ヒカルお兄ちゃんがいるよ」
ほろほろと涙を零しながら、ノエルは男の背中に親しき人物を見た。




