束の間の邂逅2
シャインは今、王都カノンの東の通りを歩いていた。景観はコロシアムのあった西や南方面に比べて明らかに寂れている。
「こっち側は過疎ってるね」
「おそらく東が海に面しているからだろうね。海は人間の支配地域ではないから」
「ふーん、釣りとかできないのかな」
ネオスの言うことは的を得ていた。そして東の空き地と、東門から出て城壁と海の間にある少し空いた土地に元地球の転生者たちの多くが住んでいた。
シャインはところ狭しと露店が開かれている通りをぼんやりと眺めていた。
すれ違う人は地球人、特にアジア圏の人が多く感じた。もちろん和名も見かけた。
『南の森のゴブリン退治、誰か一緒に行きませんか〜?』
『ギルドメンバー募集しています!』
『東の浜辺のリザードマン討伐いける人いませんか?』
そう叫んでいる人は冒険者風の安い皮鎧を着た人が多い。
もしこの体じゃなかったら、自分もあそこにいただろうか――
シャインは胸が熱くなるのを感じた。
「お兄さん、髪の毛が生える不思議な薬はいりませんか?」
そうシャインに声をかけてきたのは、普通だったら高校に通っているだろうくらいのスポーツ刈りの男子だった。その隣に中学生くらいの女の子を連れている。
【佐藤健一】
【佐藤美雪】
シャインは喉が詰まった。
二人とも服は汚れ頬は痩せこけている。顔には転生してからの苦労が滲み出ていた。
目頭がじんと熱くなる。
「将来のために一本どうですか。5シルバーでいいですので」
シャインが立ち止まったので、脈アリと育毛剤を突き出してくる。
「……いいものなら、もっと高く売った方がいい」
シャインは溢れそうな涙をこらえながら言った。
「え?」
「在庫が限られているんだろ? 5ゴールドで全部もらおう」
「ええ!?」
男の子は大きな口を開け仰天した。妹だろう隣の女の子と手を取り合う。
シャインの心境は足長おじさんである。自分でも分かっている、ただの自己満足だということは。困っている人を全員助けるなんてできるはずがないしそんな性格でもない。
ただ今だけは自分の心に従いたかった。
男の子は裏手から段ボールに入った育毛剤を持ってきた。
「全部で108個あります」
――えええ!? お、思ったより多い。
満面の笑みの男子を前に、今さら値切るのは恥ずかしい。全部買うことにした。リリーナから全財産奪って万を超えるゴールドを持っているのではした金である。
周りがざわめいた。
ヒソヒソ話が聞こえ熱を帯びた視線がシャインに向けられる。あいつ大金持ちだぜ、そんな一触即発の雰囲気が立ちのぼる。
「これも買って下さい!」
「わたしの服も買って下さい!」
「下着売ります!」
一人が叫ぶと堰を切ったようシャインの周りに人が殺到した。ネオスやカイが脇に押し退けられる。
「分かった。買えるだけ買うからちょっと待って。並んで――え!」
その時、シャインは驚愕して身体を硬直させた。
視線の数十メートル先、三人組の一団が足早に歩いている。その中の一人、後ろ姿であるが【鈴木ノエル】と見えた。
「ノエル!」
とっさにシャインは叫んだ。
ノエルがばっと振り向いた。しかし、やけに急いでいるらしく連れに腕を引かれていった。
「ちょ――」
人だかりに揉みくちゃにされる。
「ちょっとどいて」
人混みをかき分けていくも、もうノエルの姿は見えなかった。
シャインが動くと人混みも動く。広場はさらに人が群がりすし詰め状態になっていた。
☆
一時間後――
シャインは地球時代の日用品、お菓子、衣服を大量に購入した。地球の頃なら家が買える値段がした近未来的なデザインの黒い大型バイクを50ゴールドで買ったりした。この異邦人のアイテムを買い漁る行動が王都中に広がり何かあるとふんだ商人や貴族の追随買いでこの地域が活性化するのはもう少し後の話である。
やっと解放されたシャインはげっそりしていた。
「疲れた」
「お疲れ様です」
シャインは溜め息をついた。カイが労う。
「女の子から服を買う時、鼻の下伸びてなかった?」
ネオスが言う。
「伸びてないわ!」
シャインが言うとネオスがくすりと笑った。
「それ食べ物? 欲しい」
ネオスがシャインが持っていたお菓子を指差した。
――こいつポテチをピンポイントで指名してきたか。完全に黒だな。
もう少し泳がせて、尻尾を鷲掴みにしてやるか。
「ほらよ」
「ありがと」
ネオスが顔に花が咲かせて受け取った。
その顔を見てシャインはドキッとした。変な感情を振り払う。
――てか今はそれどころではなかった。
「従妹のノエルがいた」
「それはよかったね、転生してきていたんだね」
「うん、忙しそうですぐいなくなったけど」
「王都にいるならそのうち会えるよ」
ネオスが言う。
「……」
シャインはそのうちとは思わない。すぐ会いたい。シャインは会わなくちゃいけない気がした。




