★冒険者+戦争前夜
「ヒールの魔法書が5万ゴールド、高すぎ! 家が買えるじゃん」
ショーウィンドウに並ぶ魔法書を見てノエルの声が落胆の色を示す。ここは商店が居並ぶアレクサンドリア王国、王都カノンのメインストリート。
現在ノエルは王国に身を寄せ冒険者として活躍していた。
特に決まったパーティはおらず、クエストによって日替わりで変わる完全フリーの冒険者だ。
「魔法書は貴重だからな、特に回復系は」
ネオンが言う。ネオンはたまに会いにくるノエルの話し相手。ネオンも一人ぼっちらしく、ノエルの手料理が好きなのもあって会いにくる。
「にしてもエターナルファンタジアと違いすぎ。ヒールなんてゴミだったのになぁ」
「そっちの世界は知らないがこの世界じゃこういうものだ。それよりギルドの掲示板でリバーブエの森のゴブリン討伐依頼が貼ってあったぜ。一緒に受けるか?」
「うん、やるやる!」
「よーし、分け前はいらないから、ノエルのスーパーデリシャスハンバーグとスーパーデリシャス唐揚げを食わせてくれ」
「しょうがないな〜分かったよ」
「よし決まりだな。他のやつに取られる前にギルドに急げ」
「了解っ」
ノエルとネオンが駆け出した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
朝日が出ると同時に、すでに魔王城に着いていたシャインとカイ、クルの三人は謁見の間に踏み込んだ。
中は騒然としていた。シャインが入り、魔王が目を向けるとサキュバスたちの動きがピタリと止まる。
「おはようございます」
「シャインか」
「法国が攻めてきたと聞いて急いで来たのですが」
「うむ、大規模な軍をおこして攻めてきた。現在ミリアの城と交戦中だ。こちらも戦力が集まり次第出る」
何でこういう時に限って、シャインは心の中で激しく毒づいた。
ごくりと唾を飲み、意を決して聞いた。
「あの、前から申しておりました王国での用事が一週間後にありまして明日――」
瞬間的に膨れ上がった魔王の怒気を感じてシャインは口を止めた。
シャインも都合のいいことを言っているのは分かっている。
戦国の世の武将が、今日は用事があるので帰らせて下さい、なんて言ったらどうなるか想像に難くない。それでも――ネオスに土下座してでも代わってもらうつもりだ。
「ネオスと交代で今回だけ抜けさせて下さい」
瞬間、つららで背中を撫でられたように悪寒が走る
ミシッと魔王の握力で玉座の肘掛けが割れた。
「責務を果たせ」
魔王は脅すわけではなく静かに言う。
それは優しさではなく呆れ。最終宣告に近いものだ。
次、食い下がれば身体を引き裂かれるかもしれない。
シャインは無数の針を刺されたような殺気からそれを感じとっていた。
しかし、カイの思いを知っている。ここで諦めることはできない――
その時、シャインの腕を掴む者がいた。
「シャイン様、ぼくのことは構わないので、どうかお仕えを優先してください」
カイが今にも死にそうな顔をして、消え入りそうな声で訴える。
「分かった、すまない」
その様子を見て魔王の怒気が萎む。
その時、扉が開き足早に一人のサキュバスが慌ただしく入ってきた。
「魔王様、リリーナが王国に亡命しました」
「なんだと?」
魔王が唖然として言う。
場がざわめく。タイミングが良すぎる、この機を狙っていたのではという憶測が飛び交う。
「……愚か者が」
魔王は苦々しく呟く。ロザリアが前に出て進言する。
「私が追いましょう」
「捨て置け。ロザリアは法国の監視を優先しろ」
「……分かりました」
ロザリアが丁寧に頭を下げて退出した。
「それでは私も準備にかかります」
「うむ」
フリージアとサキュバスたちも慌ただしく出ていく。
部屋には魔王とシャインたちだけになった。
「大丈夫なのか?」
「何がだ」
「リリーナが逃げたんだろ? 情報とか漏らさないのか?」
「知られて困る情報なぞあやつらは持っていない」
「……そうか。しかしサキュバスでも亡命できるんだな」
「リリーナの父親は王国の貴族だからな。あやつには言っておらぬが、もう死んでいるのだがな」
「え、死んでるの?」
――あいつそんなとこに亡命するの?
追い返されるだけなんじゃ。
「愚か者が」
魔王が再度儚げに呟いた。
退出した後、別室でシャインはカイと話し合った。強い希望がありシャインはカイが単独で王国に行くことを認めた。
ただ一人で行かせるのは不安である。執事に相談すると、信頼できる女冒険者パーティに依頼してくれるとのこと。シャインはお願いした。
◇
なんだかんだで自宅の砦に帰ったのは夕刻になっていた。
その日の深夜、戦争のことやカイのこと――シャインは強い不安でなかなか寝つけなかった。
と、カイがベッドに入ってこないことに気づいた。
見るとカイはベッドの脇に立っていた。
妖艶な眼差しをシャインに向けている。
違和感、すぐにいつもと違う箇所に気付く。
胸が大きく膨らみ、パジャマがはち切れんばかりになっている。
「女の子バージョン」
「……」
カイは無言でシャインを見つめている。
カイがなぜそうしたのかシャインには分からない。感謝の気持ちなのか、これが今生の別れとでもいうのか。
シャインはベッドの端に腰掛けカイを抱き寄せた。
抱きついたまま、輝く銀髪をなでる。くせっ毛のある髪が可愛い。
カイは嫌がるわけではなくじっとしている。
「戦争が終わったら俺もすぐに行くから」
「はい」
ケモミミをくすぐってみる。
カイは耳をぴくつかせたりするが、避けたりはしない。
ここぞとばかりにケモミミと尻尾をいじりまくる。最近よく毛づくろいしているせいか、ふわふわで癖になりそうな触り心地だ。
カイが完全に身を任せているのがシャインには分かった。
同時に緊張が高まる。あとには引けないぞ。いや後に引く気はないのだからいいのだが。
「俺でいいのか?」
「はい」
少し頬を赤らめてカイが言った。本能なのか初めから知っていたのか、男女の関係を理解していたみたいだ。カイが恥ずかしくないように自分が先に服を脱いだ。
気になってしかたがない。カイのシャツに手が伸びる――ボタンを一つ外す。二つ外す。カイは動かない。
カイの残りのボタンを外すと白く暴力的な膨らみが飛び出てきた。
大きく膨らんだ胸は重力に負けることなく、前に突き出している。
一気に妖艶さが増す。
思わず正面から抱擁した。
豊かなふくらみと、自分の胸が密着する。カイもシャインの腰に手を回した。
後ろに回している手が、白く餅みたいにもちもちな背中の感触を伝える。
カイのシトラスのようないい匂いが鼻孔をくすぐる。
自分は今日、長い砂漠を旅するような人生で初めてオアシスを見つけたのだ。
感動で打ち震えそうな気持ちになる。
顔を見合わせキスをする。そのままカイのズボンを脱がし、パンツに手をかけた。




