朝は無理
「かーれーん! 朝だぞー! 起きろー!」
早朝の土曜日。
部屋の扉が勢いよく開き、聞き慣れた大声が眠りを邪魔した。
ハヤトは、まるで自分の部屋に入るような気軽さでベッドへ近づいてくる。
「ほら、布団から出ろって!」
「……むり……」
ハヤトが布団の端をつかんだ瞬間、あたしは反射的に全身へ巻きつけた。
引っ張られても奪われないように、芋虫みたいに丸くなる。
「くっ……相変わらず、寝起きのくせにガードが固いな」
「……きつい……」
「今日もちゃんとパジャマか。たまには裸で寝てくれてもいいんだぞ?」
「……あさ……から……つっこむの……だるい……もうすこし……ねかせて……」
そんなことを言われても、今は口を動かすことすら面倒だった。
「もう少しって、昼まで寝るつもりだろ?」
昨日は、変な仮面集団に絡まれて、
夜は、ビッグバンマドンナがドローンで部屋へ押しかけてきた。
ただでさえ色々ありすぎて疲れている。
それに、あたしは昔から朝が苦手だった。
目を開けても頭が働かない。
身体は鉛みたいに重く、無理に立ち上がれば、そのまま床へ沈んでしまいそうになる。
「おばさんと一緒に朝飯を作ったんだぞ。カレンも食べようぜ!」
「……きつい」
「やっぱりか」
ハヤトは困ったように頭をかいた。
幼なじみゆえ、何度も説明しているから、ハヤトも分かっている。
朝は食欲がまったく湧かない。
食べ物どころか、水を飲むことさえつらい。
「カレンが朝飯を食えないのは分かってるよ。だから、あとで歩きながらでも食べられるように、サンドイッチにしておいた」
「…………」
「ハムとレタスの軽いヤツだ。カレンが好きだろ?」
「…………」
「カレン?」
返事はない。
というか目も口も動かない。
「また寝たのか!?」
「……すー……すー……」
「寝息立てて寝てる!」
ハヤトが布団越しに、あたしの肩を揺らす。
「ほら、起きろって! 今日、あそこに行くんだろ?」
「……ん」
「昨日から楽しみにしてたじゃん。昼まで寝てたら、時間がなくなるぞ」
「……それは……いや……」
確かに、今日の予定を諦めるつもりはない。
あたしは布団の隙間から顔を出し、重たいまぶたをこすった。
「……おきる」
「おお! やっとその気になったか!」
両腕に力を入れ、何とか上半身を起こす。
視界がぼんやりと揺れた。
身体を支える力が抜けて――。
ぱたり。
あたしは、そのまま枕へ倒れ込んだ。
「カレン!?」
「……むり……」
「早すぎるだろ! 3秒も起きてないぞ!」
ハヤトは頭を抱えると、再びあたしの肩を揺さぶった。
「カレンがロングスリーパーなのは分かってるけどさ! 今日は頑張って起きようぜ!」
「……がん……ばって……る…」
「寝ながら言っても説得力ないって!」
「……あと5ふん……ねかせて……」
「カレンの5分は5時間だぞ!?」
それでも起きようとしないあたしを見て、ハヤトは何かを思いついたように手を止めた。
「仕方ない。こうなったら、最後の手段だ」
「……なに……ねかせて……」
「い、今すぐ起きないと……その……」
ハヤトの声が急に小さくなる。
「カレンの、ちょっとエッチなところを……さ、触っちゃうぞ!」
「…………」
「ほ、本気だからな! オレは今までにないくらい本気だぞ!」
ハヤトは顔を真っ赤にしながら、両手をわきわきと動かす。
指先は震え、あたしから1メートル以上離れた場所で止まっていた。
絶対に触れない。
長年の付き合いだから、それくらい分かる。
「……すきに……すれば……」
「えっ」
「……すー……すー……」
「起きろ、カレえええええええン!」
ハヤトの絶叫が部屋中に響き渡った。




