悔しい
「…………伊織」
無意識に、その名前が口から漏れた。
記事の中では、北里伊織が笑っている。
大きなトロフィーを掲げて、全国大会への切符を手にして――。
「…………」
スマホを握る指に、自然と力が入った。
全国大会の権利――。
それは魔法使いのあたし達が求める最強の座を獲得するためのチケットだ。
その権利を得るのは簡単ではない。
そんなことはわかっている。
愛那も祐乃も持っている。
持っていないのはあたしとハヤトだけ。
しかし、そもそもハヤトは全国大会に興味がない。
――だからコンプレックスを持っているのはあたしだけ。
追いつけない。
あたしは愛那と祐乃に比べて、何かが足りていない。
その現実を叩きつけられる。
そして伊織まで、あたしを倒した相手が、また一人。
あたしより先に全国へ行った。
「…………ちっ」
胸の奥がざわつく。
悔しくて腹が立つ。
でも、それ以上に――また戦いたい。
今度こそ勝ちたい。
「……上等じゃん」
伊織は全国大会に出場が決まった。
――つまり、あたしが全国大会に出れば、伊織と再び戦えるかもしれない。
勝つ。絶対に勝つ。
何度も何度も負けていられるか……
あたしはギリッと歯を鳴らす。
『――それですわ』
顔を上げるとホログラムの向こうで、ビッグバンマドンナが恍惚とした表情を浮かべていた。
『それですわああああああああっ!!』
「……うるさ」
『その瞳!』
マドンナが画面いっぱいに顔を寄せてくる。
『悔しさ! 苛立ち! 焦り! そして――それでもなお燃え上がる闘志!』
「…………」
『いくつもの感情がぐちゃぐちゃに絡み合って! 苦しんで! それでも前を向こうとするカレンさん! それが見たかったんですのよおおおおおおおおっ!!』
「……趣味悪」
『最高の褒め言葉ですわ!』
あたしはもう一度スマホへ目を落として、記事の続きを読む。
伊織が優勝したのは、《プロプレイヤー推薦特別大会》。
一定以上の実績を持ち、なおかつプロ選手から推薦を受けた者だけが出場できる大会らしい。
『ちなみに――』
マドンナが人差し指を立てる。
『伊織さんが優勝なされた大会は、少々特殊な大会ですの』
「……みたいだね」
『当然ながら、カレンさんには参加資格がありませんでしたわ。北里伊織さんのお兄様はプロプレイヤーですわ。その身内贔屓もありますわ』
「…………」
『悔しいでしょう?』
「……別に」
『またまたぁ』
「……何が言いたいの?」
『自分は参加することすらできなかった! なのに伊織さんは全国大会への切符を手にした!』
マドンナが大げさに身を乗り出す。
『ズルいと思いませんの!? 身内から全国大会の権利を賭けた戦いに招待され! そしてその切符を獲得された! とても公平ではありませんわ! 悔しいと思いませんか!?』
「……伊織は強い」
『あらあらぁ?』
「……身内贔屓はたしかにあるかもね。けど優勝したのは伊織の実力。全国大会出場権利を取れたのも伊織の実力」
伊織は勝った。
強いヤツが全国大会に行く。
ただそれだけのことだ。
『ふふふふ……強がらなくてもよろしくてよ』
「……喧嘩売ってんの?」
『ええもちろん! カレンさんに喧嘩を売るためにこのビッグバンマドンナは! 平日の午後にドローンを飛ばして、中学校の敷地にきました! 暇で暇で仕方なかったので、カレンさんに喧嘩を売りに来たのですわああああ!!!』
「…………ちっ」
『娯楽ですわ! カレンさんの表情、姿、動き! そのすべてがわたくしの乾いて飢えた心を潤すオアシス! 強がっているのが本当にわかりやすくて愛おしい! そのぷるぷる震えた手先から、カレンさんの悔しさがすごーっく伝わりますわ!』
ビッグバンマドンナに指摘されて、初めて気づく。
たしかにあたしのスマホを握る手は震えていた。
愉悦に浸るビッグバンマドンナは、仮面越しからわかるくらい口角をあげて、邪悪な笑みを浮かべる。
『悔しいのでしょう?』




