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毒舌ダウナー少女の鋼魔法  作者: たなお
大会までの練習
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あたしを倒した女の名前

「……邪魔しないでくれない?」


 バスターソードを握ったまま、あたしは上空を睨んだ。


 校庭の上では一台のドローンが浮かび、その下に巨大なホログラムが投影されている。


 白黒の仮面に下品なほど装飾されたドレス。


 見間違えるはずもない……ビッグバンマドンナだ。


『冷たいですわああああああっ!』


 マドンナが胸を押さえ、大げさに仰け反った。


『カレンさん! わたくしはあなたに会いたくて! 会いたくて! 会いたくて仕方がなかったんですのよおおおおおっ!』


「……会いに来るのは勝手だけどさ」


 あたしはちらりと祐乃を見る。

 祐乃は攻撃の構えを解き、困ったように空を見上げていた。


「邪魔はしないでくんない? あたし、今戦ってんの」


『まあ!』


 マドンナが祐乃へ視線を向ける。


『ですが――その勝負、結果はもう見えておりますわ』


「……は?」


『カレンさん! あなたが勝ちますわああああああ!』


「…………」


 あたしは思わず無言になる。

 ……勝手に結果を決めつけられることがこんなにも不快とは知らなかった。


『その不機嫌そうな顔も愛おしいですわ!』


「……祐乃は強い」


 バスターソードの柄を握り直すと、視線を祐乃に戻した。


「勝つか負けるかだけじゃない。あたしは今、祐乃と戦ってんの」


「カレンちゃん……」


 祐乃が少しだけ嬉しそうに笑った。


 ……あたしはまだ夏目祐乃のことを詳しくは知らない。

 しかし、魔法が好き――これだけはわかる。

 

『んんんんもおおおおおおっ! なんなんですの、その態度は! せっかくこのビッグバンマドンナが直々に会いに来て差し上げましたのに!』


「……うるさ。頼んでないし」


『ですが!』


 マドンナがこちらへ身を乗り出す。


『その冷たい目! たまりませんわ! なぜカレンさん! あなたはすべてが愛おしいですかああああああっ!?』


 ホログラムのビッグバンマドンナは大げさに両腕を広げて、空を見上げる。


 ……面倒くさい……ものすごく面倒臭くなり、あたしはため息を吐いた。


「……で? 用件なに?」


『ふふ』


 あたしの問いに、マドンナの動きがピタリと止まる。


『ふふふふふふ……その表情を見る限り――まだご存じありませんのね』


 仮面越しでもわかる不気味な笑顔。

 どこかしら狂気を孕んだ笑顔に、あたしは呆れた。


「……まったく、だから何のようなの?」


『やはり! 間に合いましたわああああああっ!』


 突然、ビッグバンマドンナは大声を出すと横を見て、何かの確認を始めた。

 ホログラムの外で何かを操作しているようだ。


『ちょうど今、記事が更新されましたわ』


「……記事?」


『ええ! それを今からご覧になってくださいませ! ただいま、カレンさんのLINEへURLを送りましたわ』


「……あとで見る」


 記事なんていつでも見れる。

 あたしは得意げな表情をするビッグバンマドンナから視線を外して、祐乃と向き合った。

 

 ……速く続きをしたい。


『駄目ですわ。今ですわ』


 ビッグバンマドンナから、どことなく圧を感じる。

 心の奥底から何かを待ち望んでいる――そんな雰囲気を感じる。


『今! この場で! すぐに確認なさいませ!』


 ビッグバンマドンナは、大げさに両腕を広げて、仮面越しでもわかるほど、にんまりと口角をあげて邪悪な笑顔を浮かべた。


「……あんた、何にそんなこだわってんの?」


『決まっているでしょう!?』


 ビッグバンマドンナが頬を赤らめて、うっとりとすると両手を頬へ添えた。


『その記事を見た瞬間のカレンさんのお顔が見たくて!』 見たくて! 見たくて! 見たくてたまらなくて! そのためだけに、わざわざドローンをここまで飛ばしてきたのですわあああああああっ!』


 予想以上にくだらない理由だった。


 ハヤトが呆れたように空を見上げる。


「相変わらずカレンへの執念すげえな……」


 愛那も小さくため息をついた。


「それだけのために学校までドローンを飛ばすの、普通に迷惑よ」


「ったく、配信者はロクでもねーやつが多いぜ」


 二宮シンだけは、いつものように面白そうに笑っていた。


「……ちっ」


 面倒な横槍は帰る気がないらしく、あたしは舌打ちする。


「カレンちゃん」


「……ん?」


 あたしと対峙していた祐乃が首を傾げた。


「どうする? 一回止める?」


 本当は止めたくない。


 せっかく楽しくなってきたところなのに。

 でも、この女……あたしが記事を見ない限り、絶対帰らない気がする。


「……ビッグバンマドンナ」


『はいですわ!』


「見たら帰ってくれんの?」


『…………』


 一瞬、妙な間が生まれる。

 腕を組んで『ん~~~~~』と大声を出して大げさに悩む。


『…………仕方ありませんわね』


 マドンナは名残惜しそうに胸へ手を当てると、高笑いを始めた。


『お約束いたしますわ!このビッグバンマドンナ、一度交わした約束は守ります。筋を通す乙女なのですわああああああっ!』


 帰ってくれるならいいか。

 条件を呑むことにしたあたしは、ため息を吐いて、観戦していたハヤトに声をかける。


「ハヤト。ベンチに置いてる鞄にスマホ入れてるから、持ってきてくんない?」


「いいぜ!」


 ハヤトはベンチに移動するとあたしの鞄を漁り、すぐにスマホを取り出した。


「ほらよ、カレン」


「……ありがと」


 あたしはスマホを受け取って画面を点けてLINEを開いた。

 本当にURLが送られている。


「……これ?」


『それですわ!』


 タップするとニュースサイトが開かれる。

 別に怪しいサイトではない。


 あたしもたまに利用するごく普通のニュースサイトだ。


 しかし―――。


「……!」


 画面上部の大きな見出し。

 あたしの視線はそこに釘付けになった。


【北里伊織(きたさといおり)選手 プロプレイヤー推薦特別大会で優勝! 全国大会出場決定!】


「………」


 あたしは歯をギリッと鳴らす。

 この名前は間違いない……北里伊織(きたさといおり)……こいつは――ッ!

 

 悔しさ?憎しみ? 様々な感情がぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、胸から何かこみ上げる。


「カレン?」


 ハヤトの声が聞こえる。


 でも、今のあたしに返事をする余裕はなかった。


 北里伊織(きたさといおり)……その名前を……あたしが忘れるはずがない……!


 福岡県代表戦……バトルロイヤル……


 全国大会への出場権を賭けた戦いで何度もぶつかり――あ(・)た(・)し(・)を(・)倒(・)し(・)た(・)女(・)の(・)名(・)前(・)だ。


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