秒殺
ビーッ!
HP切れを告げる電子音が、グラウンドに鳴り響いた。
【毒毒カレン HP90】
【紫ハヤト HP0】
「…………」
静寂。
ほんの一瞬だけ、グラウンドが静まり返った。
そして――。
「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
見物に集まっていた生徒たちから、大歓声が上がった。
「カレンさん強すぎるー!」
「圧勝じゃん!」
「やっぱり大会上位勢は格が違う!」
「カレンちゃーん! こっち向いてー!」
「今日もかわいいー!」
「ハヤトくーん! 告白失敗おめでとうー!」
「最後のヤツ、絶対オレのこと嫌いだろ!」
地面に転がったハヤトが叫ぶ。
あたしは両手をぱんぱんと払い、手のひらについた砂埃を落とした。
「……あたしの勝ち」
「強えーよ!」
ハヤトが勢いよく上半身を起こす。
「もうちょっとさあ! こう……幼なじみへの情とかないの!?」
「……手加減してほしかったの?」
あたしは首をかしげると、ハヤトは「うっ」と唸り、数秒黙った。
「それは嫌だ。勝つなら、ちゃんと本気のカレンに勝ちたい!」
「……なら文句言わない」
「でも秒殺は心にくるぞ!」
周囲から笑い声が上がった。
「ハヤト弱ーい!」
「カレンさんの彼氏になるには百年早いぞー!」
「カレンさん最高ー!」
「配信者大会も絶対優勝してー!」
声援を送ってくれるのは嬉しいが、どう対応すればわからず、あたしは自身の不器用さに呆れてため息を吐いた。
ハヤトは立ち上がると、制服についた砂を払い――急に姿勢を低くする。
そして、両手を胸の前でこすり合わせた。
「ところで、カレンさん」
「……なに、その喋り方。気持ち悪い」
「ひどいな!」
ハヤトは一度咳払いして、再びへこへこと頭を下げる。
「あの~……先ほどのお約束についてなんですがぁ~」
「……ご飯?」
「はい。その件でございます」
「普通に喋って」
「じゃあ普通に言うけどさ!」
ハヤトは真剣な顔で両手を合わせた。
「奢る! ちゃんと奢る! 男に二言はない!」
「……ん」
「ただし! お願いだから、食べ放題の店にしてくれ!」
「……なんで?」
「カレンがめちゃくちゃ食うからだよ!」
「……そう?」
「そうだよ!」
ハヤトが食い気味に答える。
「自覚持ってくれ! カレンの食事量、普通じゃねえからな!」
「……そんな食べてないけど」
ハヤトは頭を抱えた。
「カレン、サイヤ人みたいな量食うだろ!」
「……それは盛りすぎ」
「盛ってない!! カレンの燃費のわるさにオレ驚いてるんだよ!!」
ハヤトが肩を落とした。
「頼む、カレン。食べ放題にしてくれ。オレの未来の結婚資金を守るためにも!」
「……結婚資金って……はあ……まったく……」
まったく懲りていない。
「……別に文句ないよ。美味しい店ならどこでもいいし……」
「よっしゃああああああっ!」
ハヤトが両拳を突き上げる。
「好きな女と二人で飯に行ける時点で、オレの勝ちだ!」
あたしは小さくため息をつく。
ホントにハヤトは面白い。
「……じゃあ、放課後ね」
「おう!」
ハヤトは満面の笑みを浮かべた。
勝負に秒殺されたくせに――どうしてハヤトは、こんなに楽しそうなのだろう。




