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毒舌ダウナー少女の鋼魔法  作者: たなお
早朝のタッグバトル
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練習の日々

 早朝から、音の出る魔法をぶっ放すわけにはいかない。


 いくら練習したくても、近所迷惑になるようなことはしたくなかった。


 だから、今朝は自宅の庭でひたすら《バスターソード》を振っていた。


「……ふっ」


 魔力で生成した鋼鉄の大剣を構える。


 二宮シンに言われたことを、一つずつ思い出す。


 肩に力を入れすぎない。


 腕だけで振らず、腰の回転を使う。


 踏み込んだときに、上半身を前へ流さない。


「……っ!」


 地面を踏み込み、大剣を振り抜く。


 ぶんっ、と風を切る音がした。


「…………」


 どうだろう。


 自分では、悪くないように思える。


 だけど、自分の感覚なんて当てにならない。


 庭の端に置いていたスマホを手に取り、さっき撮影した動画を再生する。


 振り下ろす直前で一時停止して、画面を拡大する。


「……できてない」


 肩が上がりすぎている。


 そのせいで、剣を振る瞬間に身体がわずかに固まっていた。


 シンに注意されたところだ。


「……これじゃダメ」


 もう一回だ。


 今度は肩の力を抜く。


 録画して、確認して、また振る。


 録画、確認――それを何度も繰り返した。


 どれくらい経ったのだろう。


「……暑い」


 額から流れた汗を腕で拭う。


 朝とはいえ、夏だ。


 少し動いただけで体操服が汗ばんでいた。


 縁側に腰を下ろし、置いていたペットボトルの水を飲む。


「……ふう」


 冷たい水が喉を通る。


 いつもなら、この時間はまだ布団の中だ。


 そう思うと、なんだか変な感じがした。


 そのとき――。


「カレン!?」


 玄関の方から聞き慣れた声がした。


「朝からカレンが起きてる!?」


「……なに、その反応」


 庭へ回ってきたハヤトは、あたしを見るなり目を見開いた。


「いやいやいや! 驚くだろ!」


「……そこまで?」


「だってカレンだぞ!? 朝だぞ!? しかも自主的に起きて、外で運動してるんだぞ!?」


 失礼な。


 ……とはいえ、反論しづらい。


 あたしは本当に朝が苦手だ。


 普段なら、この時間に起きているだけでも奇跡に近い。


「でもマジでどうしたんだ? 体調悪いのか?」


「起きてるのに体調を心配されるのおかしくない?」


「カレンの場合、生活リズムが普段と違う方が心配なんだよ!」


「……そこまでなの、あたし……?」


 自分の生活を少し振り返る。


 確かに、朝はほぼ毎日ハヤトに起こされている。


 学校へ行くときも、ギリギリまで寝ている。


 朝という時間を、こんなふうに自分の意思で使うのは久しぶりだった。


「なあ、カレン」


「……なに?」


「今日、日曜だろ? またアニキのところに行くんだよな?」


「……当たり前じゃん」


 答えに迷う理由なんてない。


 一日でも多く練習しして、一回でも多く戦いたい。


 少しでも強くなりたいのだ。


 今朝見た夢が、まだ頭から離れない。


「じゃあ、朝から練習してたのか」


「……ん」


「やる気すごいな」


「……そんなことない」


 それだけ答えて、もう一口水を飲む。


 ハヤトは何か言おうとしたけれど、結局何も言わず、あたしの隣へ腰を下ろした。


「……シャワー浴びたい」


「朝から汗かくくらい自主練してたんだな。カレンはすごいな」


 縁側に座ったまま、庭を眺める。


 ふと気づいた。


「……朝って、こんな静かなんだ」


 小鳥のさえずり。


 風に揺れる木の葉。


 遠くから聞こえてくる、新聞配達らしいバイクの音。


 普段なら眠っていて、聞くことのない音ばかりだ。


「カレンは朝をほとんど知らないもんな」


「……言い方」


「だって、ほぼ毎日起きられないだろ。学校の日だって、オレが迎えに来なかったら毎日遅刻してると思うぞ?」


 否定できない。


「……それは……まあ……あんたには……感謝してる」


「え?」


 ハヤトが目を丸くした。


「毎朝、起こしに来てくれてるし……学校まで引っ張っていってくれるし」


「…………」


「……なに?」


「いや……」


 ハヤトは口元を緩める。


「カレンから素直に感謝されると、なんか嬉しいな」


「……大げさ」


「へへっ」


 ハヤトが屈託なく笑った。


 なんだかんだ、ハヤトには昔から世話になっている。


 静かな朝だった。


 たまには、早起きするのも悪くないのかもしれない。


 ――そう思った、その瞬間だった。



 パンパパパパパパパパパパーンッ!!



「――っ!?」


 突然、けたたましいラッパの音が住宅街に鳴り響いた。


「なんだ!?」


 ハヤトが勢いよく立ち上がる。


 小鳥たちが一斉に飛び去った。


 犬の鳴き声が、近所のあちこちから聞こえてくる。


 さっきまでの静かな朝は、一瞬で消え去った。


「……まさか」


 嫌な予感がして、空を見上げる。


 ブゥゥゥゥゥン――。


 プロペラ音だ。


 一機、二機、十機……


 いや――もっといる。


 何十機もの白黒に塗装されたドローンが、朝の空を埋め尽くしていた。


 先ほどのラッパ音はドローン内蔵のスピーカーから出ていたようだ。


「うわっ!? なんだあれ!?」


 その中心を飛ぶひときわ大きなドローンから、人の形を投影したホログラムが出力される。


 そして――。


『おーっほっほっほっほっほっほ!』


「……やっぱり」


 聞きたくなかった声が、住宅街中に響き渡った。


『野鳥ども! 空を開けなさーい! ビッグバンマドンナ様のご行進でございますわあああああああっ!』


「早朝だぞ!?」


 ハヤトが叫ぶ。


 けれど、当然マドンナには届かない。


 ドローンの群れが隊列を組み、あたしの家の上空を旋回し始める。


 さらにラッパ。


 パンパパパパパーンッ!


 パンパパパパパーンッ!


「…………」


 近所の家のカーテンが、次々と開いていく。


 これはまずい。


『お久しぶりでございますわ、カレンさーん!』


「この前会ったばかりじゃん……」


『わたくし、あなたに会いたくて! 会いたくて! 会いたくて仕方がございませんでしたのーっ!』


「……あたしは会いたくなかった」


『ですので! わたくし自ら、朝のご挨拶に参りましたわああああああっ!』


「……はあ」


 せっかく初めて知った、朝の静けさ。


 それを味わえた時間は――。


 迷惑女に破壊された。

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