リベンジしても、あたしは負けた
あの敗北から、しばらく経ったある日。
あたしは、一つの噂を耳にした。
とんでもなく強いコーチがいる――と。
廃部寸前だった弱小マジッカー部を立て直し、たった一か月で《マジッカーフロンティア福岡県代表戦》を制する選手を育てた。
その選手の名前は――菅原愛那。
あたしが予選一回戦で敗れたあの女を、愛那は決勝戦で倒していた。
あたしがどうしても勝てなかった相手を倒し、大会を優勝した選手。
そして――その愛那を、わずか一か月でそこまで育てたコーチ。
気にならないわけがなかった。
「……会ってみたい」
気づけば、あたしは他校である県立洛咲中学校へ向かっていた。
そして、そこで愛那に勝負を挑んだ。
結果は――引き分け。
最後の最後まで、お互いのHPを削り合うギリギリの戦いだった。
勝てなかった。
けれど、負けもしなかった。
その試合を見ていた男がいた。
二宮シン。
愛那を育てた、噂のコーチだ。
『面白い戦い方するじゃねえか』
それが、あいつとの出会いだった。
それから、時間がある日は洛咲中へ通うようになった。
シンの指導は――悔しいけど、すごかった。
ただ練習量を増やすわけじゃない。
あたしの長所を残したまま、悪い癖だけを潰していく。
『カレン、お前は一発の威力を意識しすぎだ。さっきの《アイアンカノン》だが、発動までに無駄がある』
『……わかった。絶対直す』
試合は必ず録画された。
一つ一つ動きを止め、足の位置、身体の向き、魔法を撃つタイミングまで確認する。
無駄な魔力の使い方を直し、消費を抑えながら威力を上げる。
得意な鋼魔法は、さらに磨かれた。
苦手な部分は、一つずつ潰され、自分でも分かるくらい、強くなっていった。
もっと――もっと強くなれる。
次にあの女と戦ったら――。
今度こそ勝てる。
そう思っていた。
そして、再びその機会は訪れた。
《マジッカーフロンティア》全国大会への出場権を賭けた大型バトルロイヤル。
そこであたしは、"あの女"と再会した。
以前、予選一回戦であたしを倒した女だ。
ずっと忘れられなかった相手。
今度こそ……今度こそ、勝つ!
二宮シンに教えてもらい、あの頃より、ずっと強くなった。
だから――もう負けない!
そう思っていたのに……
【毒毒カレン HP0】
「…………」
まただ。
また、届かなかった。
あれだけ練習したのに……あれだけ強くなったのに……!
また――"あの女"に負けた。
そして、その大会で最後まで勝ち残ったのは、あたしでも”あの女”でもなく――
『優勝――夏目祐乃選手!』
歓声の中心で、小さな少女が笑っていた。
夏目祐乃。
彼女もまた――二宮シンの指導を受けていた選手だった。
◇ ◇ ◇
「――っ!」
あたしは勢いよく目を開いた。
「はあ……はあ……」
息が荒い。
額には、うっすらと汗が浮かんでいた。
見慣れた天井の自分の部屋。
大会会場ではない。
「……夢か」
枕元の時計へ目を向ける。
午前6時。
「……早」
あたしらしくない時間だ。
普段なら、こんな時間に目を覚ましたところで、すぐ二度寝している。
なのに悪夢を見た朝だけは違う。
頭の奥に、あのときの悔しさがこびりついている。
胸がざわついて、眠気なんてどこかへ消えてしまう。
「……だる」
もう一度、布団を頭までかぶった。
「……寝よ」
目を閉じる。
10秒……20秒……100秒……
「…………」
眠れない。
頭に浮かんでくるのは、あの女に負けた瞬間ばかりだった。
「……あー、もう」
勢いよく布団をめくる。
ベッドから降り、着替えを手に取った。
こんな気分のまま横になっている方が、よっぽどだるい。
「……練習する」
誰に聞かせるでもなく呟いて、あたしはマジックギアを手に取った。




