表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

何もなかったことにされました

目を覚ましたとき、そこは自分のベッドだった。見慣れた天井、柔らかな寝具、ほんのりと香るいつもの部屋の匂い。


「――ノエル!」


視界いっぱいに、ルークの顔が飛び込んできた。


「よかった……!」


ぐしゃぐしゃの顔。目は真っ赤に腫れている。


ノエルは、ぱちぱちと瞬きをした。状況を整理するように、ゆっくりと周囲を見回す。


「……ここ……」


そして、はっとしたようにルークへ顔を寄せる。


「……ガランに、バレてない?」


声を潜める。


その瞬間。


「すべて、存じております」


扉が、静かに開いた。


ノエルの顔が、固まる。ゆっくりと振り向く。


そこに立っていたのは――ガランだった。


「……」


ノエルの表情が、露骨に歪む。“しまった”という顔。いや、それ以上に。“終わった”という顔だった。


ガランは、無表情のまま歩み寄る。


「ノエル様」


静かに呼ぶ。その声には怒気はない。だが、逃げ場もなかった。


その後、淡々とした説教が始まった。長い。ひたすらに長い。理路整然。一切の感情を乗せず、ただ事実と結果と責任だけを並べていく。


ノエルは、途中で何度か意識が飛びそうになった。


そして。


「……僕はもう、たくさん説教された」


ぽつりと、ルークが呟く。


ガランの視線が、すっと移る。


「では、もう一度確認いたしましょう」


「え?」


そのまま、ルークにも説教が始まった。


「……」


ノエルは、無言で天井を見上げた。


(仲間が増えた)


ほんの少しだけ、気が楽になる。


やがて、長い説教が終わる。


ノエルは、そっと口を開いた。


「……お父様に、報告は?」


ガランは、わずかに目を細める。


「騎士団より、すでに報告は上がっております」


淡々と続ける。


「通常であれば、高位魔法を行使した者は王都へ召し上げられる案件です」


ノエルの指先が、わずかに動く。


「ですが――」


ガランは、何でもないことのように言った。


「“そのままそこに置いておけ”とのご判断でした」


空気が、止まる。


ノエルは、何も言えなかった。ただ、ぽかんと口を開ける。


「……え?」


あまりにも、あまりにもあっさりしていた。命を救ったことも、魔法を使ったことも、すべてがどうでもいいかのように。


ガランは、静かに続ける。


「今回の行動は、決して褒められたものではありません」


その声は変わらない。


「無断で屋敷を抜け出し、危険地帯へ向かった。本来であれば、厳罰に値します」


ノエルは、小さく肩をすくめた。


だが。


ガランは、ほんのわずかに言葉を和らげた。


「……ですが」


一瞬だけ、視線が柔らかくなる。


「あなたの行動によって、救われた命があることも事実です」


ノエルの目が、少しだけ揺れた。


「……」


何も言わない。けれど、その胸の奥に何かが静かに落ちた。


そして。


ガランは、ふっと息を吐く。ほんのわずかに、肩の力を抜いた。


「それと――」


少しだけ、間を置いて。


「あなたがいなくなると、私どもは非常に困りますので」


一瞬、言葉を選ぶようにして。


「……居ていただけて、安心いたしました」


ノエルは、目を瞬かせた。


ルークが、小さく笑う。


「よかったじゃん」


ノエルは、少しだけ口元を緩めた。ほんの、少しだけ。


窓の外では、朝の光が差し込んでいた。けれど、その光は変わらないはずなのに。


ほんの少しだけ――世界の見え方が、変わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ