表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第三章 此方彼方 【黎明篇】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/136

三章 十一丁 酔えぬ相酌


 目の前に(あめ)を差し出され気が()れた(わらべ)は一瞬泣き止んだが、飴とネイの顔を見比べると瞳には再び大粒の涙が溜まってゆく。


『 よ…良かったね!いっちゃん!綺麗ね~!それに美味しそうよ~!』


 娘は無理に笑顔を作り、童を(なだ)めようと飴を見て大袈裟(おおげさ)に感嘆の声を上げた。



 通りを散策した折、精巧(せいこう)な飴細工に感動し屋台に心奪われるネイに 白影 (あきかげ)が買ってやった物なのだが、ネイは()しまず童に飴を握らせた。


童は涙を(こぼ)したが泣き声は出さず、しゃくりを上げながら飴を受け取り、美しい(つる)の羽に見惚れた。



『 いたい !! 痛いよぉ~!! 』


 童が落ち着いたところで傷口に酒を掛け、(よもぎ)の粉を施したのだがそれが傷口に沁み、童は又もや泣き出した。


『 とし… 』


 暴れる童の脚を(ひざ)に乗せ、器用に処置をしながらネイは横の娘へ(つたな)い言葉で尋ねた。


 治療の光景を童に見せぬ為に、被せた羽織が落ちぬよう裾を押さえていた娘は、突然話し掛けられた驚きで背筋をぴんと伸ばした。


『 え…!? とし…? (よわひ)のこと? ――えっと…もう六つよね!いっちゃん!』


 娘は動揺しながらもネイの意図を()み、きちんと質問に答えた。

姉が頭を撫で優しく涙を拭いてやると、一六(いちろく)という名の童は次第に気を静め、しゃくり上げて頷いた。


『 …うん 』

 そして童は、涙を流しながらも飴を()め始める。


来年(こんとし)は七つのお祝いしなくちゃ! いっちゃんが好きなもの作ってあげるわね!』


 姉の励ましもあってか童は少し機嫌が直った様子で、貰った飴を()み、舌で遊んでいる。


 気を紛らわす事に雑談が有効な為、ネイは包帯を握った手で童の背を指差し、問いを続けた。


『 それ… 』


 童の背に負う派手な模様の(たこ)を見て、何に使うのかと首を捻るネイへ、気の利く娘がすかさず返した。


『 イカのこと? いっちゃんはイカ()げが得意よね! いっちゃんより高く高く上手に揚げる子は中々いないって評判なのよねー! おねえちゃん鼻が高いわ~ 』


 娘は弟の為にひたすら明るく振る舞いご機嫌を取ると、童は遂にひくっと口の端を上げた。



 凧揚(たこあ)げで馴染(なじ)みの遊具は、この時代ではイカノボリと呼ばれており、子供の成長を願い邪気払いが込められた遊びは、正月節句を問わず盛んに行われ、当時の人々を熱狂させた。


時を()るにつれ次第に大人の遊びとなり喧嘩や事件が頻発(ひんぱつ)した為、後に幕府によってイカ揚げは禁止されてしまうが、人々はタコと名を変え、後生まで脈々とこの遊びを楽しむ事となる。

こうした人々の頓智(とんち)も、この国の面白い風習であり、イカノボリが何故タコと呼ばれる事になったのかは、ちょっとした 一口話 (ひとくちばなし)である。



 会話を終えてすぐ、ネイは童の脚に被せていた羽織を外し、治療道具を素早く片付けた。


 童の脚には包帯が固く巻かれ、血も滲まぬ程しっかり止血がなされており、たった数分の会話のうちに治療を済ませたその手際の良さに、娘は目を見張った。


『 え…!! いつの間に !! 』


 道具を片付け、それらを脇に抱えてそそくさと立ち上がったネイは、去り際に童の頭を撫でそっと(ささや)いた。


『 え…らい 』


 ネイは肩越しに微笑み、唖然(あぜん)とする人々の脇を通り抜け、気恥ずかしそうにその場を去って行った。


『 …あ…りがとう… 』


 泣き()らした目で呆然と呟いた一六の声で、娘ははっと我に返り、ネイの背に向かって大声を張り上げた。


『 ありがとうございます !! また来てください !! お礼を…!! そのっ――…ありがとう !! 』


 周囲の人混みに食い入るように見られ、少々落ち着かないネイは娘を振り返る事はなく、俯いて人の波を擦り抜けた。

そして先程腰掛けていた長椅子に白影の姿がない事に気が付くと視線を彷徨(さまよ)わせ、高台の下り道の口でネイを待つ白影の姿を見付けた。


 白影はすでに 勘定 (かんじょう)を済ませ、見守るような優しい笑みを浮かべネイを見詰めている。


 ネイは小走りで白影に合流すると羽織を被り直し、その背をよくやったと(ねぎら)うように白影は叩いた。



 そうして店を後にした二人は、この日はもう一軒他の店で酒を(たの)しんだのであった。






©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ