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落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第三章 此方彼方 【黎明篇】

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三章 十丁  酔えぬ相酌


 酒屋の前には(すで)人集(ひとだか)りが出来ており、その中心で泣き(わめ)くのは先程から辺りを駆け回っていた男児だと、響き渡る泣き声で二人はすぐに気が付いた。


『 うわぁああーん !!! 』

『 いっちゃん !! 大丈夫 !? 』


 遊び相手がおらず独りで駆けっこをしていた(わらべ)は、危うく(はち)合わせる客を(かわ)した際、空の水壺(みずつぼ)に衝突し、横倒しとなった壺と共に地に叩き付けられた。

童の身の丈と変わらぬ巨大な水壺は無残に砕け散り、その鋭利な破片を受けて片脚のみの怪我で済んだのは幸運といえるだろう。


自身の 脹脛 (ふくらはぎ)から止め()なく溢れる赤い血液に童は怯え、町中に響くほどの大声で泣き続ける。


『 どっどうしよう !!? おとっちゃん !! おとっちゃん !! 』


 娘は慌てて弟に駆け寄り、手拭いで傷を塞いだが出血は止まらず、店の(くりや)から出て来ない父親をあたふたと呼んだ。


『 ひぇ!! 血っ!! 俺は無理だよぅ… 』

『 えぇ!? 』


 店の入り口に隠れて縮こまり、情けなく青ざめる父親を目にした娘の顔は更なる絶望と失望に染まった。


『 しっかりしてよ !! おとっちゃんでしょ!! 』


 頼りない父親に(かつ)を入れるように娘は叱り付けたが、父親は一向に助けに来ず。それどころか、迫力に(とぼ)しい娘の怒気にすら怯え、血が視界に入らぬよう余計に首を店内へ向けた。


 娘は自分が何とかするしかないと父親を当てにするのは諦め、傷口を処置しようとするが、医術の知識がない娘は血を止める以外どうすればよいのか分からずおどついた。

周りの野次馬たちも、手を貸したい気持ちだけが心を()き立て、右往左往と困惑している様子である。



 娘がおろおろしていると男児を囲む様に集まっていた野次馬が急にざわめき、人混みの隙間を抜けて男が一人、娘の隣りにしゃがみ込んだ。


『 お客さん… 』

 突然現れた羽織を目深に被る男に、娘は目を丸くする。


 周囲の探るような視線がどうにも息苦しくはあったが、ネイは己の頭部を覆う羽織を躊躇(ためら)いがちに外し、童の脚へふわりと被せた。



傷は羽織で隠れ、それに従って露わとなった金髪と青い瞳に驚いた大衆は、喚声(かんせい)を上げて一斉にその場を逃げ出した。長椅子の陰や屋台の後ろに隠れた客らは、遠くからネイの容姿を盗み見て口々に鬼や妖怪などと呟いている。



 胸にかかる程の長髪はうなじまで短く切られ、顔を覆っていた前髪も輪郭に沿って流れるよう綺麗に切り揃えられており、髪の隙間から覗くネイの青い瞳は誰もがはっきり目撃出来ただろう。


あれだけ乱れていた外見も、髪や服装を整えれば年頃の好青年に見えるのだが、()つ国人を見慣れぬ村人には驚天動地(きょうてんどうち)な出来事に等しく、奇異な存在感を放つネイを物陰に隠れたままいつまでも凝視している。



『 うわぁああん !! うぇええーん !! こわいぃい !! 鬼ぃいい !! 』


 ネイの容姿を目にした童は更に泣き(じゃく)り、その姉である娘もネイをまじろがず見詰め尻餅を付いている。



 予想通りの周囲の反応に、ネイは一瞬俯いたが気を取り直すように顔を上げると、童に向かって微笑み。そして帯に差してあった(あめ)(とり)を譲り渡した。


ネイの指先に摘ままれた棒の先端には、(つる)の飴細工が舞いを躍るよう優美に翼を広げており、その美しく湾曲した輪郭はまさに逸品といえる。




©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

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