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落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第二章 燠 【黎明篇】

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二章 四十二丁 開かずの大門


 碧眼(へきがん)の男が短刀を構え直した事で、黒装束たちは雄叫(おたけ)びを上げ男へ斬り込んだ。


 敵人(てきじん)太刀(たち)を素早く(かわ)し、碧眼の男は刀を空振った男達の腕に刃を差し込み、引いては腕の筋を斬る。

身の(こな)しが速い男は、短刀のみで相手を翻弄(ほんろう)させているが、少女を守り切るには分が悪く。黒装束が一人、少女の腕を乱暴に掴み、連れ去った。



 横目で少女の危機に気付いた碧眼の男は、少女を(さら)う男の腕へ苦内(クナイ)を投じたが、腕に投剣(とうけん)が命中しようとも黒装束は少女を手放さず。抵抗する少女を無理矢理、男から遠ざけてゆく。



 碧眼の男は自分に襲い来る黒装束達をいなし、少女を捕らえる男へ一目散に飛び掛かり、反撃してきた相手の刀よりも速く(ふところ)へ潜り込む。そして、相手の右脇へ腕を差し込み、脇の筋を斬り裂くと、背後から向かって来る黒装束たちへ、その男を蹴り飛ばした。


脇を斬られた事で刀を落とし、思い切り腹部を蹴られた男は、二人の仲間を巻き込んで地を転がった。



 解放された少女の背を、石階段の方へ押して逃走を促したが手勢が多く。自身の背後に迫る黒装束の斬撃を、碧眼の男は危うい所で受け止めた。

相手の太刀を短刀で受け、鍔迫(つばぜ)り合いになり、その動けぬ(すき)を付いて、側面から別の男が迫る。



 刃を(かわ)す事が出来ない碧眼の男の窮地に、犬神は 驀地 (まっしぐら)に駆け付け、主へと斬り掛かる男の肩へ食い付く。地面に倒れた男へ犬神は(なお)も牙を立て、悲鳴を上げる男の声よりも激しく(うな)(たけ)った。



 犬神の助力を得て、戦況は優勢に傾くかに思われた。が、和弓(わきゅう)が空を裂き、犬神の頸部(けいぶ)を貫いた。


 首を射当てた一本の矢は、命中した瞬間に目が(くら)むほどの(まばゆ)い光を放ち。魔を討ち(はら)破魔矢(はまや)()ゆられた犬神は声も上げず、首輪から分かたれた鈴と共に激しく地を転がる。石階段に身体を衝突させ停止する頃には身体は元の大きさへ戻り、口を開いて地に横たわる(あわ)れな姿で息絶えていた。


(ハク) !!」


 犬神が倒れた衝撃に少女と男が打ち(ひし)がれる(わず)かな隙――碧眼の男の腹部に激痛が走った。



 思わず(うめ)き苦痛に身を震わせ、腹部へ視線を落とした男の目に、暗赤(あんせき)色の刀身が飛び込む。



刀が届く距離にあるのは、目の前の鍔迫(つばぜ)り合う男しかいない筈であると、男は己の下腹部に食い込んだ切先から、出所である相手の腹部へ視線を移した。



刃先(はさき)は対する黒装束の腹部から突き出ており、刃が突き破った衣服からは湧き水の如く大量の血液が流れ、太腿(ふともも)を伝い。地面を赤く染めゆく光景を、碧眼の男と敵手は愕然(がくぜん)と見詰めた。


言葉を失い、痛みと衝撃に呑まれる二人は、同時に刀を突き立てた者の顔を見た。



 碧眼の男と向かい合う男の背後を串刺しにしたのは、黒装束たちを従える頭目の男であり。仲間である配下の背に、(つば)の位置まで深々と刃を突き刺していた。



 一切の迷いなく仲間ごと碧眼の男を仕留めようとした非情さに、配下達は(おのの)き、頭目であるその男からよろよろと後退(あとずさ)る。



「チッ…外したか」


 頭目は仲間の背に突き立てた刀身を乱暴に引き抜き。自身の刃に付着した血と、碧眼の男の出血量を一瞥(いちべつ)して、愚痴(ぐち)を溢した。


 配下の下腹部から刃を突き上げ、碧眼の男の心臓を一突きにする予定だった男にとっては、口惜(くちお)しい結果であったのだろうが。碧眼の男の腹部から溢れ出る血は、男の白い着物の胸元までを赤色に染めており、着物に染み渡る血液の量だけでも、かなりの深手を負った事は明らかだった。


「お侍さま !!」


 傷口を押さえ(ひざ)を付く碧眼の男へ少女は駆け寄るが、男は少女を自身の背へ隠した。



「な……何故……ッ私…を……ッ」


 刺された配下は激しく吐血(とけつ)し、怨みと激痛に顔を歪めて、己の刀を支えに頭目の男へ迫った。



「邪魔だ」


 傷を負いながらも憎き相手へ掴み掛かろうとする男を、頭目は再び斬り付け、腹部を蹴り飛ばした。



 理不尽な手段で絶命する仲間を見ても、黒装束達は誰も助け起こさず、ただその光景に絶句している。




©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

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