二章 四十丁 開かずの大門
恐怖のあまり悲鳴すら上げず顔を背けていた少女だったが、一向に痛みが生じない事を不思議に思い、恐る恐る瞼を開いた。
そっと薄目を開いて見れば、両腕を振り上げたままの姿勢で男は停止しており。少女を取り押さえる男達も、身を硬直させる仲間を、呆気に取られた様子で見上げ、固まっていた。
「おい…どうした…?」
黒装束の一人が、停止する男へ躊躇いがちに声を掛けた。――と同時に、刀を構える男は突如白目を剥き、口から白い泡を吹き出すと地面へ倒れ込んだ。
うつ伏せに倒れた仲間に 吃驚 した男達は響めき。数人の者が少女から離れ、持ち場を放棄した。しかし、頭目の男は目を細め、倒れる男の背に食い込む一本の金属の棒を見付ける。
広背筋辺りに垂直に刺さったその金属は、先端から徐々に細くなり、釘のような巨大な針にも見える形状をしているが。その小さく細い凶器は、男の身体を深くは貫かず、致命傷には至っていないだろう。
「手裏剣…?」
男の身体に刺さる寸鉄を見て、仲間の一人が呟いた瞬間。少女の右腕を押さえる男の前腕に、同じ凶器が突き刺さった。
「――ッ隠れろ !! 刺客だ !!」
少女を捕らえる腕を放し、己の腕に刺さった寸鉄を引き抜きながら、男は仲間へ警告を叫ぶ。が、この男もまた一瞬にして青ざめると、口から泡を吹き地面へ倒れた。
二人の男が倒れた事で、黒装束たちは平常心を失い、口々に戦慄き声を上げた。
だがその動揺した気を静める間もなく。木陰から碧眼の男が姿を現わし、少女の元へ一散に駆け出した。
奇襲に驚愕して怯む男達へ、碧眼の男は投剣を複数本同時に飛ばし、投じた寸鉄は少女を取り押さえている残りの男達へ命中した。
「ひぃ!! 嫌だッ!!」
投剣を喰らった男二人は、反射的に少女を放した。
一人は半ば狂乱した様で、自身の肩に食い込んだ寸鉄を引き抜き、解放され逃げ出す少女への関心はもはやないが。もう一方は、寸鉄を己の前腕から抜くと、階段を駆け上がろうとする少女の襟首を捕らえ、強引に引き寄せた。
させまいと、碧眼の男は少女へ群がろうとする男達に向かい、再び投剣を放ち。投擲に怖じた男達は一斉に退避し、逃げる少女よりも己の身を優先した。
男達が保身に走り、後方へ下がり生じた隙間を擦り抜け、碧眼の男は少女を捕らえる男の頭部を短刀の柄で殴り、蹌踉めいた男の身体を羽交い締めた。
そして、男の首に短刀の刃を食い込ませ、人質に取った事を知らしめる為に、半円に散らばる黒装束達へ、順に男の顔をぐるりと見せ付けた。
身動きを封じられた男は、 屈辱 に顔を引き攣らせたが、俄に口から泡を吹いて意識を失い。男の体重が全て碧眼の男へ凭れかかったが、 強靱 な力で微動だにせず、人質の首へ更に短刀を押し当て、相手を後退させた。
碧眼の男の鬼気迫る勢いに、たじろいだ数人の男達は頭目の元まで後退り構える刀を降ろした。が、殆どの者が好戦的な姿勢を見せ、忌まわしげに悪態を吐いた。
「仕留め損ねたか!役立たずが…!!」
「貴様ァ…何をしたッ!!」
碧眼の男は乱れた息を静める間もなく、口々に悪罵する男達へ声を張り上げた。
「毒だ、長く放っておくと死ぬ!道を開けろ !! 通せば解毒の術を教える」
早口で威圧的に相手を牽制し、睨め付ける碧眼の男の顔は、焦りを悟られまいと気後れていないが、不利から生じる緊張が、額を流れる汗に滲み出ているかのようだった。残る十一人を真っ向から相手取るのは、碧眼の男とて無謀である。
「お侍…さま……」
碧眼の男が庇い立つ後ろで、地に崩れる少女は感激に瞳を潤ませ、我が身を顧みず救いに駆け付けた男を見上げた。
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