二章 三十七丁 掠奪を誘ふもの
森を踏み歩くほど人家は疎らに減少してゆき、草木が生い茂る森林の景色へと、次第に辺りは移り変わった。
半刻は歩いたであろうか。
正体解せぬ怪しい男達に強要され、人知れず村から連れ出された碧眼の男は、危険だと古手屋に忠告された裏山の奥地へと歩みを進めていた。
容姿を隠す覆いと狐面は外され、露わになった碧眼の男の顔に焦りはない。
目立たぬよう腰部に押し当てられていた短刀は、村を出るや、今は堂々と男の喉元に突き付けられており。唯一である左腕は、後ろ手に捻り上げられているが、男は涼しい面持ちで、無法者らに逆らわず要求通りに森の奥地まで従った。
やがて薄暗く、確実に人気が無い森の深部へ立ち入った頃。二人の従者を従わせる男は、己の横を歩む碧眼の男へ、冷酷な眼差しを向けた。
「何処まで知った?」
喉が潰れた様な不快な低声で、男は威圧的に碧眼の男の横顔へ問うた。
碧眼の男は相手へ顔を向けず、視線を落としたまま淡々と間を開けず答えた。
「答えるだけ無駄だろう。お前達はここで俺を殺す」
図星であったのか、短刀を構える男の指に力が入る。碧眼の男を拘束する二人の男は、己らの優位を事の初めは楽しんでいたのだが、一度も心乱さぬ相手を前に、次第に緊張のような焦りを抱いていた。
男達の年齢はまだ若く。それ程実戦を積んでいない事で刃に動揺が現われたのだと、喉元に押し当てられる刃から男は敏感に感じ取っていた。
だが上役の男は、相手がいくら落ち着いていようとも己の優勢を信じ、勝ち誇った顔で刀傷のある口元を歪めている。その余裕からか、人気が無くなると容姿を伏せる役割である笠を早々に外し、自らその残忍な顔付きを露わにしていた。
「そうだ。だが生かしてやってもよい。お前の値打ちはまだある」
「…人質か。だが童を手に入れれば、今度こそ 俺は用済みになるな」
小馬鹿に見下して言った男の物言いにも、碧眼の男は毅然と返し、幾度も核心を突く男が気に食わない上役は、初老に差し掛かり皺の深まった目尻を一瞬引き攣らせた。
「話が早い。そしてお前の骸から鬼宿りの刀を剥ぎ取る」
不快に歪めた表情を、再び優越な笑みへと戻した男は、碧眼の男の腰に差す朱鍔の刀を見てげらげらと続けざまに罵る。
「我が一門が鬼宿りを得る日が来ようとは何と僥倖な。胸が躍る!
――それに引き替え、貴様は哀れだな。あの童と行き逢ふたのが運の尽きだ」
「そうは思わない」
勝ち誇った男を 一蹴 するかの如く、碧眼の男は言い放った。
その自信に、歩いていた男達の足が止まる。
「俺に仲間がいないとでも?」
流し目に視線を後ろへ傾け放った碧眼の男の言動に、男達は血相を変えた。
相手を単独だと思い込み、背後の警戒を疎かにしていた失態に、今更気が付いた男達は、目を見開いたまま瞬時に後ろを振り返った。
©️2025 嵬動新九
※盗作・転載・無断使用厳禁
※コピーペースト・スクリーンショット禁止
※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止




