↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目の剣豪篇、連載中 / 落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
黎明篇 | 第二章 燠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/177

二章 十四丁 同穴の不遇者ら



 低く抑えられた声に関心を抱いた焚火(たきび)の面々は、灯りにぼんやりと照らされた男の口元に視線を向ける。



「この(くつ)に出るって牛鬼(ぎゅうき)の伝説を信じているんでしょう。 そやつを対治(退治)して大金(おおがね)をせしめようって腹でしょうな、どうせ」


 溜め息交じりにそう返した中老は、焚火に枯れ枝をくべ、微苦笑(びくしょう)で浮かび出た(ほほ)(しわ)を指先でぽりぽり()いた。



御伽草子(おとぎぞうし)信じる賊ってのはやっぱり馬鹿だね。 コツコツ働いてこそ 往生 (おうじょう)ってもんだ」


 頬杖(ほおづえ)を付きながら、旅商人は苛立(いらだ)った調子で焚火に向かって言葉を吐く。


 それに同感だとばかりに 立年 (りゅうねん)の農夫は深く頷くと、よく日に焼けた顔に笑顔を浮かべた。


「ちげぇねぇ。 気が済んだら助け出してくれるんじゃねぇか?」

「賊共のやる事だ。 あてにしねぇ方がいい」


 前のめりに一同を見回し、明るく放った 立年 (りゅうねん)の一言を、旅商人はつんと 一蹴 (いっしゅう)した。そして、思い立ったように自分の(ひざ)を叩くと、暗がりに腰掛ける碧眼(へきがん)の男へ身体を向けた。


「なぁあんた。 (あした)ここから出る抜け道を一緒に探してくれよ!」


 力強く申し出たその勢いに気を取られ、少女は魚を食べるのを中断し、顔を上げて旅商人と碧眼の男を交互に見詰めた。

農夫達も会話の邪魔にならぬよう押し黙り、これから始まる二人のやり取りを、口を挟まず見守る事に決めたようだ。



 しかし会話の流れは、一同の予想とは異なる展開を迎えた。

碧眼の男は口を開くどころか、ただゆっくりと首を横に振り、無言で否定の意思を示した。


その意外さに驚き、 立年 (りゅうねん)の男は呆れた声を短く漏らした。が、男の返答が気に食わず、何より感情を露わにしたのはやはり旅商人であった。



「一生ここに居る気かい? 商売に影響が出るんで俺ぁ急いでるんだよぉ!」


 男に提案を否定され熱が入った旅商人は、右膝を乱暴に叩き語気を強めた。

だが旅商人の必死の訴えを聞いても、碧眼の男は首を(たて)には振らず、活力の無い声で己の考えを口にする。


「抜け道は不用だ」



  傍聴 (ぼうちょう)していた農夫達は、男が発した言葉の意味がわからず「へ?」っと間の抜けた声を揃えた。そして、ではどうやってここから脱出するのかと、男の説明を待った。


 ところが、犬神が尻尾を振り乱し、男の足下にやって来た事で、会話は一度途切れる事となった。



 犬神はすでに魚を一匹平らげていたのだが、男の指先に握られた焼き魚を狙って大量に(よだれ)を垂らし、尻尾(しっぽ)をさらに激しく振った。


男は食欲がなかったのか、一口だけ口を付けた焼き魚を、強請(ねだ)る犬神に差し出す。犬神は即座に串を(くわ)え、男の足下で豪快(ごうかい)に音を発しながら、獣らしく焼き魚を(むさぼ)り始めた。



 犬神が食べ進めている姿を見下ろし、(ほが)らかな表情を浮かべているであろう男の口元を見て、先程の会話を再開させる気はもうないのだと、一同は察したのだった。



「ここを墓場に決めるとは諦めがいいねぇ…。 努力しなよぉ若いんだから」


 生じた沈黙を破ったのは立年の農夫で、男が犬神に餌をやる姿に、やや呆れている。そして、地面に両足を投げ出し、両腕を後ろ手に付けると、のんびり屋の自分でも、もう少し協力的だと言いたげに、口角とは反対に眉を下げた。



 周囲の失望を感じ取り、男は視線を一瞬向けると、正確に言葉を選びながら見解を述べる。



「抜け道があれば、奴等は見張っている(はず)


 未熟な言語を間違えぬよう、丁寧に話す男の語調は、異国の者と知らなければ、訥弁(とつべん)口重(くちおも)な語りぶりで終わる。異国の者とは、この場の誰も気が付かない程、男の発音は言語を正確に学んでいた。



「脱出を(はか)り、しくじれば…。 ここへ戻されるか、その場で殺される」


 男の緩徐(かんじょ)に語る口調と、殺されるという血生臭い言葉が重くのし掛り、一同の顔が強張(こわば)った。しかし、そんな様子に気が付かない碧眼の男は、更に言葉を続けた。



「不用に揉めて危険を冒すなら、取引して公然とここを出た方が安全だ。

…――どうせここから…奴等は動かない」


 賊が見張っているであろう崖上を見上げて言葉を切ると、足下で名残惜しく魚の骨を舐める犬神を見下ろす。それきり男は黙り込み、辺りは一時沈黙に包まれた。




©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。