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落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第五章 百鬼夜行   ―江戸跋渉篇―

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五章 七丁  軍議


 見立(みだ)ては四十後半に(いた)り、年相応に老いてはいるが、綱影(つなかげ)はまさしく眉目秀麗(びもくしゅうれい)といえる容姿の持ち主であった。


はっきりと印象深い目元が顔立ちの最も優れた部分であり、男振(おとこぶ)りの()い外見を活かせば、他者から親しまれ好感を得るに不足はないだろう。

しかし、この男は冷淡で、常に(にら)み付ける様なその目付きは、相手を尻ごませ、嫌悪感を与えた。


 そして、その悪相(あくそう)といえる面構(つらがま)えを引き立てているのが、右頬に刻まれた火傷(やけど) 旧痕 (きゅうこん)である。その傷跡は襟元(えりもと)から()い上って口角や目下の皮膚を(むしば)み、恐らく包帯で(おお)われた右腕にまで及んでいる。

それらの傷跡は、美観を損ねるばかりか、肉体の衰退を(いちじる)しく表面化していた。


 だが一同を見渡す鋭い双眸(そうぼう)が、不撓不屈(ふとうふくつ)である精神を物語り、(おさ)たる貫禄(かんろく)()せる事はない。



「察しがつく者もあろうが、鬼が入り込んだ」


 綱影が簡潔に告げると、座敷はより物々(ものもの)しい気が(ただよ)い、加賀爪(かがつめ)はやはりと億劫(おっくう)に首を振った。



「すでに数多の人を喰らい。 あろう事か…鬼打(おにう)ちの刀、生滅修羅(しょうめつしゅら)無道むどうを奪いその身を隠した」


 九条(くじょう)、坂田は、鬼打ちの刀と耳にするや顔付きを変え、これまで動じぬ姿勢であった目覆(めお)いの男すら綱影へ首を向けた。



 上座に位置する衆らは、ほぼ同様の反応を見せるが、下座の者達は何食わぬ顔で、綱影の言った内容を重要視すらしていない。


末席(まっせき)白髪(はくはつ)の青年など殊更(ことさら)無関心で、魅惑(みわく)的な(ひとみ)を左右にきょろきょろと動かし、周囲の仲間を観察している。



「鬼打ちを知る者はこれが何を示すか…、もはや明らかであろう」


 綱影は平静を崩さず言い、 首長 (しゅちょう)であるこの男を()じず 言及 (げんきゅう)する者が現れる。



「ほんに思ひ(おもい)()けます。 再びあの刀を鬼が振るえば…、今度こそ人は()()を失いますなぁ」


 九条の憂鬱(ゆううつ)を含ませた優雅(ゆうが)な口調は場を静め。しかし同時に、欲深な者の好奇心を(くすぐ)ったようで、五席目の桜田(さくらだ)が話に割り込んだ。



「お待ちを。鬼打ちとは一体?」


 (よわい)三十を越えて浅い、衆の中では若齢にあたる桜田は、武士というより商人に寄った雰囲気がある男で、話題に食い付いたその目は何処(どこ)爛々(らんらん)としていた。



 当然あがるであろう疑問に、九条はゆとりある身熟(みごな)しを崩さず桜田を見据える。



「鬼が身を砕き…打った(いわ)くの刀…。――名に表れておるでしょう?」


 九条の説明を聞いて、桜田は余計に興味をそそられた様子で、やや身を乗り出した。


「ほぅ、左様(さよう)な…。 しかしながら、それが如何(いか)な値打ちある代物(しろもの)に?

大変()かれます。詳しくお聞かせ願いたい」


 狡猾(こうかつ)そうなこの男は、欲望を笑みに含ませて詰め寄るが、九条はさして相手にせずつれなく返した。


「知らぬならそれがよろしおす」


 九条は悠然(ゆうぜん)としているが、何処か物憂(ものう)げに(まぶた)を落とす。



「鬼打ちの刀が忘らるる…、さすればこの国の泰平(たいへい)はより 磐石 (ばんじゃく)なものになるというに……世は平穏を願わぬのですなぁ…」



 (かげ)り宿る九条の声は、争いの記憶が骨身に染みる男達を(もく)させた。



「私共ですら、在処(ありか)を知る(よし)もありませんのに…、その鬼さん一体どうやって?」



 刀に疑点(ぎてん)を見出す九条の言葉で、儺斬(なぎり)らは軍議(ぐんぎ)に意識を戻し、中座の片倉(かたくら)(おもむろ)に口を開く。


「その鬼とやらは何奴(なにやつ)ぞ。 何処(いずこ)から出た?」


 四十路より年若(としわか)に見える片倉は、生真面目で誠実な印象を抱かせ、何より軍議に意欲があった。全員の顔を眺めて尋ねたのは、この場が鬼の情報を交わし合うためにあると先んじて考えたからである。



 そんな片倉の疑問を九条は取り合わず、己には関係ないとばかりに(かぶり)を振った。


「うちは何も知りまへん。ただ軍議を記録して、御上(おかみ) 注進 (ちゅうしん)致すだけどすえ。

みんなさんが知恵を(しぼ)っておくれやす」


 自分はあくまで聞き役だと、一線を引いた九条は、余裕を浮べて屈強な男達を見渡す。その笑みには、 朝廷 (ちょうてい)へ仕える気位と身分の格差を周知させる意図が見え、九条の態度を良しとしない加賀爪は歯が根を鳴らした。



出雲(いずも)の地にて奴が現れた…、よって一切の知見を得れぬ」


 綱影の発した一言は、軍議に後ろ向きである立花(たちばな)の瞼を開かせ、儺斬衆は一様に苦渋(くじゅう)の色を(にじ)ませた。



(こと)こそあれ…」


 大息(たいそく)を吐きながら、よりによってと呟く坂田へ同意するよう奥村(おくむら)は頷き、顔を(しか)めた。


「我ら儺斬が踏み込めぬ、禁域侵犯国(きんいきしんぱんこく)に現れるとは…」



 儺斬衆には厳格な規制が数多あり、それらは衆の間で"(ほう)"と(しょう)されている。


反すれば処罰(しょばつ)が科され、その中でも禁域侵犯国とは儺斬衆の活動範囲に容認されていない国を指し、そこで如何(いか)なる異類異形(いるいいぎょう) 猖獗 (しょうけつ)を極めようと手を出してはならない明確な決まりがあった。


 幕府(ばくふ)に容認された組織ではあるが、儺斬は報によって行動を制限される事が多く。軍事的な侵攻や、国同士の(いさか)いに発展せぬよう考えられた規制の数々は、非常に肩身が狭く、自由が利かないものばかりである。



 報に縛られる衆らが諦めを漂わせる中、まだ耳慣れぬ男の声が不意に発せられた。



「…貴殿(きでん)らはご存知に?」


 急な問い掛けに動じたのもあるが、男の低声が妙にはっきり響いた為、一同の視線は各務(かがみ)に集中した。




©️2025 嵬動新九

新年明けましておめでとう御座います!

本年もよろしくお願い致します!


※盗作・転載・無断使用厳禁

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