五章 六丁 軍議
烏帽子を被る、 狩衣 を着た娘が一人。
盲目の男と向かい合う位置で着座し、 男衆 のみの場に物怖じもせず、袖で口元を隠しながら上品に薄笑う。その姿は何処か皮肉めいており、器量よしであるが、奥二重の吊り上がった目は、素っ気ない冷ややかな印象を抱かせる。
「ふふふ、恐ろしえ。 みんなさんで斬り捨てたのをお忘れやなんて」
娘の無遠慮な物言いで、哀傷に沈んでいた加賀爪の心は怒りへ転化した。
「貴様…! 戦も知らぬ女子の分際で!」
「しっかり心得ております。戦の憂き目に遭うのは女子も同じ。…少し、稀有に思うただけどすえ」
九条家の陰陽師という身分が、娘の矜持となっているのか、元々の性格なのか。破落戸でも怖じるであろう相手を前に、涼しい顔で言い返す気性は、齢二十に達せぬうら若き年頃とは思わせない。
「百の鬼を斬ったと謳われる剣客が、直人に斬られるとは思いませんから」
歯に衣着せず不敵に微笑む九条に、更に腹立ちを募らせた加賀爪の人相はより険悪に歪んだ。
「貴様…っ」
「もはやこれにて、とどめ置かれては如何か」
双方を宥めるよう坂田は穏やかに仲裁に入った。
「我ら儺斬が、非道で手荒な振る舞いだと、謗りを受けるは ふりたること」
非難を浴びるのはいつもの事だと言う坂田の発言で、加賀爪の腹に据えかねる憤懣は収束をみせた。
これで十分に口論は下火となるだろうが、更に坂田は、己から矛を収めた方が利があるように、一言を付け加えた。
「それに、女子は荒立つと手が付けられませぬ」
妙に心当たりのある坂田の口ぶりに、加賀爪は納得した様子で座り直し、庇われた事で気を良くした九条は、斜め向かいである坂田へ笑みを送った。
「あら、坂田殿はよう心得ておいでやわぁ。 そのお顔の傷はもしや女子に?」
目敏く怪我を指摘された瞬間、坂田は沈着な態度を一変させ、怒り心頭に発する。
「――あやつ…ッ、次まみえれば…ッ!」
屈辱を噛み締めるように、独り言ちる坂田を、与り知らぬ男達は腑に落ちぬ顔で見詰める。――そこへ、貌隠す若者達が門口を閉め切った。
襖越しに聞こえたその音に、衆らは一様に面を引き締め、縁側を行く何者かの足音を聞くや、姿勢を改めた。
「来よった鬼が…」
「し!」
こそと毒づく加賀爪を、隣席の片倉が制し、間を置かず一人の男が堂々たる足つきで座敷へ立ち入った。
男が入室すると、若者等は息を合わせずとも寸分の狂いなく障子を閉め切り、座敷を囲むよう屋外に控える他の青年達も、板戸を一部だけ引いた。
閉鎖空間へ変じた座敷内には新たに緊張が走り、これまで不在であった長の席へ男が腰を下ろし、一同を見据えたのみで場の空気は張り詰める。
「これより軍議を行う」
儺斬衆 首長 であるこの男、 松平綱影 が口を開くと、一同は正面を切って一礼する。
疑心、忠義、同志、――各々が綱影へ向ける感情は様々だが、百地正久という男だけは、見定めるような鋭い眼差しを注いでいた。
©️2025 嵬動新九
六丁をご覧くださり有難う御座います。
なんとも中途半端な所ですが、今年の投稿は本日で終え、新年から投稿を再開したいと思います。
来週の投稿をお休みしてしまう事となり、誠に申し訳ありません。
その分、年始に沢山投稿出来るように、新九は忙しい合間をぬって執筆を頑張りますので、ささやかに頑張れーっと応援いただけると嬉しいです(^^)
もっとお伝えしたいことはありますが、これ以上書くと大変なボリュームになってしまうので、また年末のご挨拶の際、活動報告を更新致します。お目を通してくださいますと、幸いに御座います(^^)
皆様、誠にいつも作品をお読みくださり有難う御座います!
年の瀬となり、ご多忙の事と思いますが、どうかご自愛くださいね!
※盗作・転載・無断使用厳禁
※コピーペースト・スクリーンショット禁止
※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止




